第124話 現実世界にて

 次の日――今日はイベントエリアに入れる1日前である。


「月華ぁ!! 久しぶり!」


「莉桜、そこまで久しぶりでしたっけ?」


「体感時間のせいかな? FIWばっかりやってるとどうしてもねー」


 そして、会う約束をしていた日でもある。

 今は待ち合わせ場所に向かう電車に揺られている所だった。が、何故か莉桜に話しかけられている。

 ガラガラの電車の端の席に座っていたので、その隣に莉桜が座る。


「というか、莉桜。何故同じ電車に?」


「だって私の最寄り駅月華の2つ隣だし。こんな偶然あるんだね!」


 5分おきに来る電車の10両ある車両が被るなんてことあるのかと思ったが、まぁそんなこともあるか、とスルーした。


「ところで、聞いてなかったですけど今日は何を?」


「んー、とりあえずカラオケ行って……その後は買い物行ったりご飯行ったり? あんまり決めてないや」


「そんな感じで大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫! 割といつもこんな感じだから!」


「そうですか……こんな感じで出かけることなんてないので、そこはお願いしますね」


「おっけぃ任せて!」


 それから目的地に着くまで、電車に揺られながら雑談をしていた。


「それで、掲示板で見たけど、また何かやったんだって? 海の方行ったって聞いたけど」


「あぁ、そのことですか。拠点周りから東京都心の方に行こうとしたら間違って岩手県沖に着いてしまって。4分の1を外しましたね……いや、よく考えたら8分の1ですかね……」


 そんなことを話すと、呆れたような憐れんでいるような目をされる。


「あは、あははー……。月華は大抵の事はそつなくこなせるのに、方向感覚のことになるとどうしてそこまでポンコツになるのか私は不思議だよ」


「……ま、まぁ、どこに行ったって人は居るんですから場所はどうだって良いんですよ。やりたいことが出来ればそれで」


「お、おぉぉ……それなら全国どこにでも行く、と。ついていけないってぇ…………あ」


「私の考えに無理についてくる必要は無いですよ? 莉桜は莉桜らしくしてもらえればいいんですから」


「あっ……あぁ、うん! そうだよねー! うんうん、そうだよね!」


 「あ」と言ってから見るからに挙動不審になり慌て始めた。何だかこの話を有耶無耶にしようとしているようだった。


「ん? どうかしました?」


「ううん! なんでもない! ほ、ほら着いたよ!」


「あぁ、ほんとですね。降りましょうか」


 気が付くと、電車は既に降車駅のホームに入っていた。ドアが開いたところで電車を降り、そのまま莉桜の後ろを追うように歩き出した。



「確か、この駅の改札前に集まるんでしたっけ」


「そうだよ。ちょっと早いけど、みんな来てるかな……?」


 改札の前に来ると、その奥には3人のグループがあった。その上、うち2つは見知った顔だ。


「おーい、お待たせー!」


 莉桜が手を振りながら声をかけると、3人がこちらに気付いて手を振り返される。

 それからすぐに改札を通り、改めて顔を合わせることになった。


「この度は突然入ってしまってすみません、ご迷惑ではありませんでしたか……?」


「いやいや、ぜんっぜん大丈夫。というか、まさか月華さんが『FIW』やってたとはねぇ……。教室で見ててもそんな感じ全くしなくて」


「佐野さん、ありがとうございます……。ええと、佐々木さんで間違いありませんでしょうか?」


「は、はいぃっ! 佐々木みなとです、初めまして!」


「初めまして、天野月華と申します。初対面の人間が突然入ってきて気まずいかと思いますがよろしくお願いします」


「いえいえ! それに、存じ上げておりますので!」


「湊ー、何で敬語なの? 月華はいつも通りだけど」


「莉桜ぉ、だって緊張しててぇ……」


 そうして絡みの少ない2人への挨拶を終えた。


 それじゃあ、ある意味今日のメインの――


「お久しぶりですね、……琴さん?」


「お、お久しぶりです……」


 内海琴――ミコの後ろに周り、両手を肩に置く。耳元に話しかけると、一瞬ビクンとなって小さくプルプルとし始めた。


「今日は色々お話したいことがありますので――」


「ひぅぅっ……」


「絶対逃げないでくださいね?」


「は、はいぃっ……」


「琴ー、月華さーん。どしたの、行くよー?」


「み、湊! すぐ行く!」


 それから、3人の後を着いていくように琴と横に並んで歩いた。道すがらチラチラと隣を見ると、その度に体が跳ねて反応していたので、後ろでこっそり遊んでみていた。


「着いたー! この2階だけど……2人とも大丈夫?」


「私は大丈夫ですよ。琴さんも大丈夫、ですよね?」


「はいぃ、うん、大丈夫……、大丈夫…………です」


 そんなことをして歩いていると、いつの間にか着いていた。このビルの3階にあるカラオケボックスが目的地らしい。

 どうやら予約をしていたようで、受付をするとそのまま奥へ入ることが出来た。部屋にはスクリーンに向かうようにコの字型のソファがあり、その中央にテーブルが置かれていた。


「んー、とりあえず飲み物取ってこようか。ここセルフだしね。何飲む?」


「莉桜、私はコーラで」


「私メロンソーダ!」


「りょーかい、月華と琴は?」


「なら……烏龍茶でお願いします」


「あ、私手伝うよ……!」


「そう? ありがと琴。じゃ行こっか」


 そう言うと、莉桜と琴は飲み物を取りに部屋の外に出ていった。


 まったく……逃げるなって言ったのにね? これは戻ってきたら色々やってやらないと……。


「あ、あの……天野さん、って本当にFIWやってるんでしょうか。なんかイメージが湧かないといいますか」


「やっぱり湊もそれ思ってた? 私も。 と、いう訳で、聞かせてもらえないかな〜? あの2人は知ってるっぽいのにぜんっぜん話そうとしないし……」


 どうやらこの2人は私が何をしているのかについて、全く知らないらしい。少なくとも『ライブラ』と私は結びついていない。


「勿論やってますよ」


「具体的には、生産系と戦闘系どっちなんでしょう」


「その2択ですと後者ですね」


「へぇえ意外?!」「あぁやっぱり」


 返事をすると、2人同時に全く逆の反応をされた。


「え、やっぱりってどういうこと?」


「何と言うか、月華さんって1つのことに集中するより、色んな方向を見るタイプかなぁぁ……って。ただの推測だけど」


「だって天野さんって見た通りスラッとした体付きだし、あんまり動くタイプじゃないのかなって」


「それは湊が自己強化して、溜めて、突っ込んで、殴るっていう脳筋戦法してるからでしょうが。魔法があるでしょ魔法が」


「あそっか」


「この脳筋娘」


 私も割と物理ばっかりなんだけどね。筋力が影響する戦い方をあんまりしないだけで。


「あ、ごめんねこっちで話し込んじゃって。戦闘スタイルのことは置いといて、他はどんなことしてるの?」


「他ですか……。と言いましても、私がやりたいことをその場その場でやってるだけで……」


「へぇ、行き当たりばったりって感じなんだ。それも良いかもねぇ〜。私はレベル上げついでに全国回ってるんだよね。観光地には人集まってるけど現実と比べたらかなり空いてるし」


「なるほど……面白そうですね」


 それに、観光地に人が集まるのなら色々出来そうだしね。ついでに《深淵-生々流転》も使えばかなり面白いことになりそう。


「今後の方針が決まったかもしれないです。ありがとうございます」


「ほんと? なら良かった。このゲーム、ストーリーとか無いから自分でやること決めないとだしね」


 話が一段落したところで、湊が思いついたように呟く。


「というか、2人遅くない? 飲み物持ってくるだけでこんな時間かかる?」


「ね。何か話でもしてるんじゃない?」


「私様子見てきましょうか?」


「大丈夫でしょ! 先に曲入れちゃお」


「次貸して、私も入れたい」


 んー、まぁそのうち戻ってくるだろうし、2人もこう言ってるからいいか。それにしても何してるんだろう……。

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