第123話 増殖する闇
「いや、第2フェーズの寅は俺の《氷華穿》で先に凍らせた方が」
「なら私が雷電瓶投げて広範囲感電で拘束させてからじゃないと……」
「それ絶対俺も巻き込むやつじゃねぇか!」
「《水上闊歩》使えるのアンタしかいなんだからしょうがないでしょ!!」
俺たちは海上の小屋の中で、水の使徒・茫洋についての作戦を練っている。
第1フェーズの
「にしても、やっぱこの仕様めんどくね? 『純水』タイプと『汚水』タイプの2種類いるって」
「そうよねぇ。『純水』は雷効かなくて、『汚水』は氷効かないって。やっぱり物理が正義じゃない?」
「船で近付いたら壊されるか沈められるのがオチだろ」
「…………そうよねぇ。キツいーー、私も水上歩くか空飛びたいー」
「なら頑張れよ」
「頑張っても分かんないんだもんー! 船だと酔うしー」
「そんなこと言ってやるなよ、今だってサツキが整備してくれてるだろ。…………てか戻るの遅くね?」
「ね、ちょっと私見てく――」
そう言って椅子から立ち上がろうとしたその時、後ろから扉を開かれた音が聞こえた。
「あ、なんだーおかえりー」
「おつかれ、どうだった?」
そう言いながら2人同時に扉の方を振り向く。だが、そこに居たのはサツキでは無かった。
「ひっ……ぇ、何…………」
「サツキ……では無いよな。誰、だ?」
顔はサツキにかなり似ている、でも真っ黒な体に紫の目。どう見てもサツキ本人ではない。
そして何で状態異常【恐怖】がついてるんだ、こいつが何かしてるのか。そもそもこいつは何をしてくるんだ……。
「ど、どうするミュー。逃げるか?」
「……サツキは、サツキはどうなってるの? わ、私、見てくる」
「分かった。俺はこいつを相手にするから、頼む」
ミューが外に向けて駆け出すのに合わせ、敵のヘイトを集めるために《注視の的》を使う。
それにしても、このマネキン、一体どこから……
「なっ!?」
マネキンの周りに、水でできた青色の剣が現れる。
1本ずつ、こちらに向けて射出してきたので、その都度回避する。
攻撃自体はそこまで激しく無いし、剣のせいで後ろに被害が出てるのもまだいい。だけど、何故――
「何故お前がそれを使ってる」
あれは《四水の剣》、4本の水で出来た剣を飛ばすスキル。そして、それを使っていたのはこのマネキンが姿を模している本人、サツキなのである。
「これは……倒すしかなさそうだな。ふぅ、《氷華穿》!」
右手に氷をまとわせて、マネキンの下腹部を狙って一発打撃を入れようとする。だが、部屋の中に被害を出さないようにしたせいで、後ろに避けられた上拳を宙で止めてしまった。
それからしばらく、室内でヒットアンドアウェイを繰り返す。数分睨み合った末、このままでは埒が明かないと思い、戦況を変えようと動くことにする。
「ちっ、やっぱ室内じゃ窮屈だな。おい! 外出てこい」
多分サツキはいるか分からんがミューは外にいる。まだ残ってたら逃げるように言って……
そんなことを考えながら、マネキンから目を離さないように後ずさる。そして、外に出たところで後ろを確認すると――
「……居ない」
ということは逃げられたのか?
いや違う。船が2隻残ってるままだ。なら、どこかに隠れてる……こんな海でそんな場所無いか。
軽く見回していると、船と足場の2ヶ所にあるものを見つけてしまった。
「血痕……」
そうか、2人ともやられたのか……。待て、あのマネキンとはずっと室内で睨み合ってた。だとすると……外にまだ誰かいるはずだ。
「おい、どこだ! どこにいる!」
海上や船、足場などを見回した末、小屋の上に人影が立っているのが見えた。逆光で見にくいが、後ろ姿は確認することができた。
「そ、その髪、ミュー! 降りれるか?!」
後ろ姿がミューのものだと分かり、そこに向けて叫ぶ。声は問題なく届いたようで、こちらに振り向いた。だが、見えたのは――
「紫の瞳に真っ黒の体……。サツキのと同じ、か」
何をされてるのかは分からないが、とりあえずあれが敵なのは理解出来た。それなら倒すだけだ。《跳躍・強》《氷華穿》!
小屋の上にいるマネキンに向かって打撃を入れるため、跳躍をする。
今回は攻撃を入れられるかと思ったが、今度は水でできた六角形の盾を作られ、ほぼ完全に防がれた。
これは……《水鏡盾》、ミューの使ってたスキルか。ほんと誰なんだ、こんな奇妙で性格の悪いマネキンを作った奴は……。
「へぇ、意外と強いですね」
目の前のマネキンに気を取られていたが、その後ろに誰かがいた事に気付く。
その姿は白銀の髪、赤と紫の瞳、黒の服、さっきまでのマネキンとは明らかに異なる見た目だった。
「ふふっ……」
その少女が一瞬浮かべた笑みに、思わず思考が停止してしまった。
「ぐほぁっ……!」
その気が緩んだ一瞬、後ろから胸元を、前の少女に眼球を貫かれた。突然のことに反応すら出来ず、そのままうつ伏せに倒れた。
そして、一度頭に衝撃を受け、意識を失って死亡した。
「はぁぁ……何だったんだ」
周りの人間がどんどん黒いマネキン?にどんどん変化するとか、どんなホラーだよ。心臓に悪いわ……。
港の近くにある駅のセーフティエリアで目を覚ます。
目を覚ました場所のすぐ近くの柱のもとに、寄りかかって座るミューと、その膝に顔をうずめて抱きついているサツキがいた。
「びぇぇぇぇえ……! ミューちゃぁああ……」
「こらこら、サツキ。そろそろ落ち着きなさい」
「やぁだぁ…………ミューちゃのふともももちもち」
「何と言うか……大丈夫だったか?」
「あぁ、戻ったのね。おかえり。私は気付いたら死んでただけだし無事だったんだけど、サツキは結構色々されたらしくてね」
「……んぇ? ミューちゃ成分補給出来たし大丈夫だよ?」
「らしいわよ」
うん、ふともも云々言ってるあたり察したけど、やっぱこいつの精神図太いな。何をされたかは聞かないでおくか。
「ところで、実際私たち誰に何されたの?」
「あぁ、一瞬しか顔見れてなかったが、多分あれライブラだ」
「ライブラ? あの『死神』? なんでこんな所に……」
「そう思うよなぁ。普段いるのは東京と京都エリアだけだって言うのに、まさかこの岩手県に現れるとは……。何されたかの方は分からんけど、とりあえず水使徒攻略板とライブラ板に流しとくか」
「そう、お願いね。それにしても、活動エリアを広げたんだとしたら私達も安心出来ないわよね」
「そうだな……。俺らも警戒しておくか」
▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢
「……え、岩手県沖? 東京都心目指してたのに?」
小屋に残されていた資料を流し読みしていると、ここの詳細な位置が書いてあった。どうやら岩手県沖約25kmの辺りらしい。
まぁそんなこともあるか。
せっかくだから、適当に本土の現地の人でも狩っていこうかな。
陸の方に飛んでいこうとすると、さっき作った3体の闇人形がこちらを見つめていた。
ちなみに、女2人を元にしたものは《恐怖の瞳》を、男を元にしたものは《深淵-生々流転》を付与しておいた。
「あぁ、これは…………放置でいいや」
というか、《恐怖の瞳》は使えてたけど、《深淵-生々流転》って闇人形でも使えるのかな……? まぁどちらにせよ、別に後処理とか考える必要も無いし、行こうかな。
そうして孤島から本土へ渡り、《深淵-生々流転》を使いながら狩りを行った。
――それで何が起こるかを考えないままで。
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