第122話 刺突漁
あれから拠点に戻り、7冊の教典を読み込んだ。その結果、新たに2つのスキルを手に入れることが出来た。
そう、7冊あって手に入れられたのは2つだけだった。残りの5冊、うち1冊は過去に見たものと同じだったので実質4冊は、読み終わっても何も起こらなかった。
「前とは違って読むのに苦労することは無くなってたけど、それにしても何でだろうなぁ……」
あれかな。内容を全て理解出来ている訳では無かったからとか……? 実際書いてある内容を全部は理解出来なかったけど。
「それより手に入れたスキルの方が大事か、どれどれ……」
□□□□□
《深淵-生々流転》
MP:100 CT:0秒
効果:180秒間、生物を殺害した時、その生物と同等の形の闇生物を生成する。生成物のステータスは元の最大値の50%となり、回復することは無い。※同一の生物の生成物は同時に存在することは無い。
《深淵-魑魅魍魎》
MP:180 CT:600秒
効果:自分と縁の深い深淵の者を呼び出すことが出来る。
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手に入れたスキルは、前と同様「深淵」が頭に付いた名前をしていた。
それにしても、こんな簡単にスキルを手に入れられてもいいものなのか。……と思っていたけど、調べたら割とそういうものだったらしい。読めばスキルを手に入れられる書物――所謂スキルロールは成否はあるにせよ読むだけでスキルを増やせるという。しかもダンジョンでも稀に手に入れられる、と。
「とりあえず、試しにちょっと殺りに行こうか」
そうして外に出て、住宅街を見下ろせる高さまで上昇する。それから人の姿が見えるまで適当な方向に漂いながら考える。
やっぱり人が居ない。人が集まる場所と言ったら都市部なんだろうし、そっちに移動しようかな。
そのまま移動するか、それとも電車を使って移動するかどちらにしようか考えたそのとき、第3の選択肢を思いつく。
「……《深淵の門》使えないかな」
そう思い立ち、スキルを使って闇の海から深淵に入り、上下逆さの街並みがある場所に出る。
この深淵浅層で空間が歪んでいる闇の海を出すことで、目的地までショートカット出来ないか考えたのだ。
「えっと、都心部は東の方だから……あっ、でも上下逆さだから東と西は反対の向きだし…………」
……まぁ、4分の1で当たるでしょ。
方向音痴の私がここで方角を測れる気がしなかったので、完全な見切り発車で生成した闇の海の中に入っていった。
そうして先の見えない闇の中を泳ぐように進み続けること数分。先へ進もうとしても動きが重くなるようになった。
「こうなったら……上出るしかないかな」
そうして上の方に進み、深淵から出るとそこには――
「海だ」
闇の海ではなく、本物の青い海が広がっていた。
周りをぐるっと見回すと目に入ったものが2つ。
1つは街並み、どうやら行き過ぎて海まで来てしまったらしい。
そしてもう1つ、何かのエリアを区切っているような半径120mくらいの円柱だ。空に厚い雲がかかっているにしては違和感がある程薄暗くなっていて、それがずっと高い雲のあるところまで伸びている。
「あそこだけ寄って……その後陸に戻ろうかな」
そうして、円柱のエリアにゆっくりと近づいていると、突然左前の方向からとてつもない強風が吹き始める。
「うぉわっ……! っ、ちょっ…………!」
反射的に体が前のめりになるも、ただ浮いているだけの私は為す術なく風に押し返される。風に流されるまま体が数回転しながら離されたところで、突然風が止む。
この風……まるで中に入れないように追い返してるような感じね。……あぁ、なるほど。そういうこと。
風によって運ばれたことで、さっきは気付かなかった海上の建造物に気付く。建築現場によくある鉄パイプと金属の板で出来ている簡易拠点のようだった。
船着場のような海面近くの細い足場、そこに乗った簡易的なプレハブ小屋のような建物、更にその上にある3階建てのビルくらいの高さの見張り台で構成されている。
どうやってこれが海上に自立してるのかとか、どうやってここに建てたのかとかは、多分考えなくていいやつだよね。ここはゲームでファンタジーなんだし。
「それにしても、特定のエリアに入らせないように追い返すこの感じ、多分『使徒』なのかな。海にあるってことは恐らく水の?」
円柱のエリアは水に共鳴している人しか入れないエリアで、京都の博物館地下にある立方体のエリアと同じようなものなのかと考えた。
「船2隻あるし、多分人居るよね? ちょっと寄ってみようか」
近付いてみると、止めてある小型の漁船で女性が何やら作業をしていた。作業に集中してこちらには気付いていないらしい。
その背後に立つように船の上に降り、肩を叩いて声をかける。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
「ぴぃぃあっ!?」
黄色のジャケットの上に赤のライフジャケットを装着している女性は、驚きのあまり甲高い声を上げ、船の甲板にへたりこんだ。
「もー、いきなり声かけられたらびっくりするって…………どちら様でしょうか?」
笑みを浮かべながら振り向いたが、こちらの顔を見てその表情が疑いに変わる。船が来ていないのにこの孤島に見知らぬ人が増えていることを不審に思っているようだった。
「2点お伺いしたいのですが、あそこの暗い場所は水の使徒のエリアでしょうか?」
「えぇまあ……はい。そうですね」
「ありがとうございます。そしてこの場所があれのための攻略拠点といったところでしょうか?」
「そうですよ。というか、どちら様ですか? 船が来た訳でもないし、そもそも今まであなたを見た覚えが無――」
「それだけ分かれば十分です、ありがとうございました。では、ちょっと実験台にさせて頂きますね」
「えっ……きゃぁぁああっ!?」
そう言うと、《インベントリ》から白の双剣『変幻自在』を取り出して構える。そしてライフジャケットが破けるように胸元に向けて刃を伸ばす。
すると、船の縁に立っていたため、女はそのまま押されるように海に突き落とされた。
刺さらなかったってことは、中に防具でも着込んでたのかな。まぁ、ライフジャケットは破いたしそう簡単に上がっては来られないだろうけど。
でも海に落ちられたのはちょっと面倒かな、何かちょうどいい物は……
「あ、これでいいか」
《インベントリ》から、二又の白い
それにしてもこんなのどこで手に入れたんだろう、全く覚えてない。とりあえず《深淵-生々流転》を使って、と。
「っぷはぁっ。お、お願い、助け…………」
「それでは、失礼しますね」
そう言うと右手で柄尻側を、左手で前側を支えて構え、銛の先端を水面に出ている顔に向ける。
「ひぁ……いやぁっっ!!」
女は一瞬怯えたような表情を見せ、すぐに潜って身を隠そうとする。だが青く澄んだ海ではその姿を隠すことは出来ず、肩の辺りに刺さる。
「外したか」
「――! うぶっ、ごぼぉっ!?」
「っ、おっと」
刺した瞬間、手元に激しく揺られるような感覚が来る。息をするために水面から顔を出そうとしているらしい。
「……とりあえず抜かないと」
「――おぼぉっ…………っ、ごぼぇっっ!」
銛を引き抜こうと上下に振る。だが、それで抜ける気配は無く、ただ顔が水上と水中を行き来するだけだった。そして10回振った頃に気付く。
「かえしがあるのに抜ける訳無いじゃん」
こんな単純なことを忘れるとは。ついうっかりしてた。
一度手を止め、勢いをつけて銛を持ち上げる。
すると、女の体が船の側面を擦るように引き上げられた。それによって、船の縁に手が届くようになってそこに体重をかけながら海水を吐き始める。
「ごほっ、ごぼぇぇっ……!!」
「っと、これならいけますね。どうもありがとうございます」
「お゙ぇぁっ……、なっ!」
銛にかかる力が軽くなったのをこれ幸いにと、引き抜くために左足を顔に強く押し付ける。
「い゙づぁあああっ!」
「よいしょっ…………と! ふぅ、抜けた」
かえしで肉を抉らせることによって、力づくで銛を引き抜くことに成功した。
だが、女がその拍子に手を滑らせたらしく、再び海の中に落ちていった。
「まぁいいか、それなら後は――」
今度はきちんと顔をめがけて突き刺す。すると、一瞬激しく抵抗しているような感覚が手に伝わる。だが、その後すぐ水面に少しの泡と赤黒い血液が浮かび上がってからは、手にかかるのは重力だけになった。
「ふぅ、これでよし」
銛を引き上げて胸あたりまで水面から出すと、潰れた両目から血を流している顔が一瞬見える。そして、その後すぐいつものように死亡による消失が始まる。
ただ今回はいつもと違い、顔のあったところに手のひらサイズの黒い球が浮いていた。
球はふわふわと浮いて船の隣の足場の上で止まると、段々と大きくなりながら人型に変化する。
「なるほど……確かに見た目は同じ感じだね」
ただ正確に再現されてる訳では無くて、服を含めた装飾品を身に付けてないマネキンって感じだ。顔は面影はあるけど、彫りが薄い感じがするし。
「ん?」
完全な人型になった闇人形は、地に足をつけるとじっとこちらを見つめていた。
「そうだ、《鑑定》だけしとこう」
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闇人形-psjhjo-mjcsb Lv.1
HP:513/513 MP:168/168
耐性
火:0 水:0 氷:0 雷:0 風:0 地:0 光:0 闇:0 物理:100
※付与スキル枠:《(未設定)》
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闇人形……
それで、『付与スキル枠』って何?
ウィンドウのその部分を押すと、自分の使えるスキルの一覧と説明文が現れた。
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――付与可能スキル一覧――
《狂化》《恐怖の瞳》《二刀流》《死神遊戯》《死の波紋》《溢れ出す狂気》《深淵-領域拡張》《闇の処女》《深淵-系統操作》《禍雨》《次元掌握》《深淵の門》《深淵-生々流転》《深淵-魑魅魍魎》
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えっと、『元の生物が使用可能だったスキルに加え、自分の所持スキルを1つ覚えさせることができます。それによって自身がスキルを使えなくなることはありません』ね。そんなこと出来るのね……。
ただ《鑑定》《インベントリ》に《狂華爛漫・月下美人》は対象外と。
「それにしても、第2回イベントまで使わないように言われてた《狂華爛漫・月下美人》、そろそろ使えるようになるのね……」
とりあえず使わせるのは……無難に《恐怖の瞳》でいいか。
一覧から選択すると、自動でウィンドウが消える。闇人形の方を見ると、真っ黒だった目に紫色の瞳が現れた。
闇人形は一度こちらを見て首を傾げだかと思うと、ゆっくりと小屋の方に歩き出した。
「この感じ、私を襲いに来ることはなくて、他の人間には襲いかかるのかな。ちょっと後ろの方から見させてもらおうか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これにて毎日投稿を終了と致します。ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。そして、これ以降もよろしくお願い致します。
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