第121話 混沌の根
第2回イベントの開始前の5日の準備期間が始まる前あと2日。ログインをする前に今日は何をするか考えていると、1通のチャットが来ていることに気付く。
「ん……莉桜?」
送り主を見ると、莉桜――コスモスだった。その内容とは、『前に話したFIWやってる1年女子組のグループのことって覚えてる? 明日その数人で集まって遊ぶ予定なんだけどどう? 用事とかやりたいこととかあるだろうかどっちでも大丈夫だけど』というものだった。
用事は無いけどFIWをやっていたいから、今回は断わろ――
「って、これは……」
そのまま断るつもりだったが、続きのメッセージを読んで意思が180度反対に変わる。
『今のところ集まれるのは私と、同じ1組の佐野さんと、3組の佐々木さんと内海さんの4人で――』
「……へぇ。ミコちゃんもいるの」
次に会うのは9月に入ってからだと思っていたけど、夏休み中にもう1回会えることになるとは。それなら行っても良いかもね。
……連絡先を手に入れてから何回かチャット送ってるのに、1回も返事が来ない理由も聞いておかないと。
それから承諾の旨を伝える返事を送り、その返事が来るまでの時間潰しとしてFIWの世界にログインすることにした。
「ふぅ……。さて、これ以上寄り道はしないでちゃんと深淵に行こうか」
あの男達から情報を引き出そうとしたり、リンカをつついて遊んだり寄り道し過ぎたからね。楽しかったから結果的には良かったけど。
拠点の外に出て《深淵の門》を使うと、足元の地面に真っ黒な球体の一部――闇の海が現れる。その中へ入ると、前に見た時と同じような一面真っ黒な空間が広がっていた。
目的地までの道が何一つ分からないため、ひたすら真下に向かって進んでいると、聞き覚えのある声が耳に入った。
『みつけたー』
『あぁ、あなた達ね。丁度いいところに』
声の元を見ると、闇の小人2人の姿があった。口ぶりからして、前までのものと同一個体のようだった。
『早速だけど、あなた達の同種がたくさんいる所に案内してくれない?』
『もちろんー』
『そのためにきたー』
『そうだったの、じゃあお願いね』
そう言うと、闇の小人達は斜め下へと向かって行き、その先にあった黒い球体の中へと入っていった。
球体の先には木の形をした黒い塊に囲まれた林道が続いていた。理屈は分からないが、やはりここは時空が歪んでるようだった。
『ところで、金魚とカラスとクリオネはどうしたの?』
『カラスとクリオネはそとー』
『遊んでるー。金魚はしらないー』
『……そう。ありがとう』
まぁ、1匹いなくなるくらいなら別にいいか。そもそも今からやろうとしてることが成功するとも限らないけど。
「と、着いたのね」
そう話しているうちに、目的地に着いたようだった。周りを見ると、木のようなものはいつの間にか無くなっている。代わりに、少なくとも直径50mはありそうな大樹の根っこのようなものが目の前に浮いていた。
『こ、これ?』
『ここー、たまにでてくるー』
『たおすならここがらくー』
『そう、たまにってことは待たないとなのね。じゃあそれまで準備でもしましょうか』
準備を始める前に、ひとまず目の前の根っこを《鑑定》してみる。
□□□□□
感情の樹の根 Lv.??
耐久力:∞/∞
※詳細鑑定不能※
□□□□□
「……感情? 何で?」
名前の理由は分からなかったが、木の根であることは間違っていないらしい。上の方を見ると、視界の限界の高さまで幹が伸びていた。
「って、あれは……」
少し高い所にある根の先端から、黒い雫のような物が垂れているのが目に入った。根から離れた雫は球体を保ったまま宙に浮き、段々と人型へと変化し始める。
人型に変化し終わる前に、《インベントリ》から光水を取り出し、《鑑定》で闇の詳細を見ておく。
□□□□□
彷徨う闇 Lv.1
HP:18000/18000 MP:15000/15000
耐性
火:80 水:80 氷:80 雷:80 風:80 地:80 光:0 闇:100 物理:100
□□□□□
なるほど、名前は置いておくとして、やっぱりレベルは1で固定なのね。他のステータスも今までの個体と目立った違いは無いと。
「とりあえずやってみようか」
生まれた場所で佇んだまま動かない闇の小人に近付き、首に相当する部位を左手で掴む。
どうやら攻撃や抵抗をする素振りは無いらしく、この隙に右手に持っている瓶の蓋を回して開ける。
「さて、どうなるかな」
瓶を逆さにし、頭から光水を瓶1本分浴びせる。すると、大人しかった闇の小人が突然もがき苦しむように暴れ出す。更に、真っ黒だった体が光水をかけられた頭から、段々と虹色のまだら模様に染まり始めた。
そして、闇の小人は何の意味も成さない言葉を叫び出し、思わず首を握り締めていた手を離す。
「rbxtfesguhzivkjlpm――!!」
「っ、るさいっ!」
手を離すと闇の小人はゆっくりと下降していく。
騒音もありそこから近付くことすらはばかられたので、無意識的に光水の瓶をそのまま投げつけた。すると、頭に当たった瓶は硬いものに当たったような音を立てながら割れ、中身がこぼれ出した。
「ふぅ……。これで倒せるのね」
2本目の中身を被った闇の小人は体のほぼ全てが虹色のまだら模様に染まる。その後一瞬固まったように止まり、そのまま砕けて消滅した。
消えた所から前に見たような本が現れた。
「どれどれ、まずは《鑑定》と中身を……」
□□□□□
闇属性魔法の教典-?? Lv.??
耐久力:∞/∞
縺ァ繝シ縺溘′縺ゅj縺セ縺帙s
□□□□□
名前とか効果がおかしいのは置いておくとして、中身は特に変な所は無いかな。前のと同じ
それにしても、瓶が当たった時のあの感じ……光水をかけられた所は石化でもするのかな。2発で倒せるのなら、次からも同じ流れで行けるかな……。
「じゃあ、後49体。何冊出るかな?」
再び雫が垂れているのを確認し、次の小人狩りを開始することにした。
「よし、また出た」
これで7冊目かな。ちょうど50本使ったところだから、3,4体に1回ってところかな。中々悪くない。
教典を《インベントリ》に仕舞って次を待っていると、突然後ろから首を締めようと魚のヒレのようなものが現れた。
「なっ!? ……って、何です。トゥレラ様じゃないですか」
すかさず霧化して拘束から逃れ、後ろに振り向く。
そこにいたのは手足が魚のヒレのような物に変化した女性の姿――狂気の支配者、トゥレラだった。
「久しいの、上の世界でまた色々やっておるようで何よりじゃ。……それで、何をやっておる」
「お久しぶりです。今の私には持っているスキルが少々足りないと思いまして。そこで、スキルを覚えられる教典を手に入れるために小人狩りを少々」
「はあぁぁ……。道理で突然樹からの供給が途切れておったのか。何をどうやってここまで来おった? 方向音痴のお主が来れる場所では無かろう」
「トゥレラ様までそんなこと仰るんですか……。ここまで来たのはこの――」
そう言いながらさっきの2体の闇の小人のことを離そうとすると、1人が背中、1人が脚の後ろにしがみつくようにくっつく。
『やだー』
『こわいー』
「……なるほど、そやつらか」
「はい、お察しの通りです。何か問題でも?」
そう聞くと、困ったように頭を抱える。
「いや、問題という程でもないのじゃが……。恐らくその懐きよう、お主が吸収した魂を共有してお主に染まっておる」
「えぇっと、どういう意味です?」
「お主が殺した人間の魂を吸収するとき、そやつらがその一部を使っておったんじゃ。その服にそういう効果があるじゃろ? そうでも無ければ深淵生物が特定の奴に懐くことなどあらん」
「……あっ」
完全に忘れていた。このドレス『冥府の瘴霧』は殺した相手の魂を吸収するという効果が付いていた。最近はこれを《鑑定》することも無く、気にも留めていなかった。
それじゃあ《鑑定》でも……って、え。
□□□□□
冥府の瘴霧 Lv.52
※詳細鑑定不能※
□□□□□
「仰ったことは理解したんですが、実際この服ってどうなってるんでしょうか。如何せん今Lv.1で見れなくてですね……」
「何じゃ、もしかして見れんから把握しておらんかったのか」
「そうですね、はい」
「深淵生物になるとレベルのテーブル自体変わるからの。レベルが上げられんのはそういうものじゃな。ただ、見れんのは恐らくバグであろうから
なるほど。色々喋ってくれたお陰で情報が結構増えた。この辺りは覚えておいて有効に使わせてもらおう。
「それと、妾から2つ言っておく。まずここでこれ以上狩るでない、外に出る個体の数が減る。それにお主が今持っている本で充分であろう。次にお主に懐いておるそやつら、上手く使ってやると良いぞ? そうしてくれれば妾も助かる」
「はぁ……そうですか。でしたら私は上に戻ります。色々と助かりました」
「そうか。今後も励むんじゃぞ〜」
『ついてくー』
『ついてくついてくー』
そう言い残し、手を振っているトゥレラの見送りの元、2体の闇の小人と共に現世へと戻っていくことにした。
□ □ □ □ □ □
『はぁ……全くあやつめ。毎回毎回苦労させてくれるわ』
『どうした「狂気の」、いつものお前らしく無く苦労しているようだな。そこまでの奴か、お前の眷属は』
『何じゃ「恐怖の」。妾の眷属じゃ、貴様にはやらんぞ』
『分かっている。ただ我達の中で1番の野放図のお前がそこまで入れ込む理由を知りたいだけだ』
『理由は単純、あやつは妾と思考が似ておる。「自分が楽しければそれでいい」、素では共感性が無い典型的なサイコパスじゃな』
『さ、さいこぱ……?』
『……お主も少しは外の言語も覚えてみんか? 掲示板にも色々載っておるぞ?』
『他の言語などそう一朝一夕で覚えられる物ではなかろう。そんなことが出来るのはお前のような奴だけだ。……なるほど、確かに。お前の眷属もただの半日で我らの言語を習得していたな。確かに似ている』
『そうじゃろ? それに、気付いているのかいまいかは分からんが、妾の仕掛けた種もまいていておるようじゃからな』
『そうか。であれば我達も上に行く時が近いか?』
『そうじゃな、確か第2回目のイベントも近い事じゃし、その後に始めるとするかの』
『い、いべ……?』
『遊戯のための催し物のことじゃ。やっぱり少しは覚えてみんか?』
『ははっ、善処しよう。それでは我は帰るとするかな』
『そうか、またな〜。……さて、妾も戻るかの』
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