第115話 眩惑の光

「ここも久しぶりだね」


 東京の某所、とある場所の門をくぐりながら呟く。

 今来たのは過去に来たことのある大学型ダンジョン、掲示板の情報からここで私の欲しいものが手に入ると知って再びやってきた。


 ちなみに深淵生物たちは深淵に引っ込んで貰った。居ても何かすることがある訳でもないし。

 前に来た時はフクロウとライオンのボスと戦ったんだっけ。ボスは3種類いるとは聞いてたけど、3体目はスルーしてたんだよね。それが今回の目的な訳だけど……


「えぇと、第一棟の屋上だから場所は……」


 大学の敷地内に入った後少し進み、視線を目の前の景色と手元の紙の地図で数回往復する。そしてとあることに気付いた。


「駄目だ、もう迷った」


 あてもなく彷徨う時には何ともないが、ある場所を目指した途端自分がどこにいるか分からなくなる。方向音痴は相変わらず健在らしい。


「はぁ…………。よし、飛ぼう」


 前の時とは違い今は飛べるということで、強硬策をとることにした。

 地面のすぐ近くで浮いている状態から、大学の敷地全部を見下ろせる高さまで上昇したところで再び手元の地図を見る。


「あった。あれかな」


 見えたのは大学の中で屋上が1番広い建物だ。だが面積に対して、よく分からない機械が置いてある他は何もない。

 全体を見回して屋上の中央にある赤い剣の刺さった台座を見つけると、ボスを出現させるためにそこのそばに降りる。


 ……最初からこうした方が手っ取り早くて良かったかもね。

 それにしても、上から見た時に思ったけど人影が全く無かった。前はもう少し居た気がするんだけど。


 人が居れば手でも出そうと思ったが今回の目的は別にあるので、建物の中まで探すのは止めておいた。


「それじゃあ早速……」


 赤い剣を引き抜くと剣は台座と共に消失し、それと同時にその場所から飛んで距離を取る。

 少し待つと屋上の柵に沿って半透明の白い壁が、台座があった場所の上に半径5mくらいの白い円盤が現れた。


 この壁は……外に出られないようにするためのものかな。触ってみた感じコンクリートくらいの硬さっぼいけど、多分システム的に壊せるものでは無いよね。


「上には何も無いけど、こっちには制限が無いのかな。出てきたのは……孔雀くじゃく。体長は羽を含めて5mってところかな、事前情報通りだね」


 ボスである孔雀は白い円盤から現れてストンと着地し、その象徴とも言える派手な羽をこちらに向けて広げた。胴体は鮮やかな青色で、羽はくすんだ緑色で青と虹色の瞳のような羽の模様が白い地面との対比で存在感を放っている。


一応鑑定は……。うん知ってた、だって私Lv.1だしね」


□□□□□

眩惑の孔雀 Lv.25

※詳細鑑定不能※

□□□□□


「クェーー! クアアーー!!」


 甲高く大きい鳴き声と共に臨戦態勢をとってくる。だが、こちらが飛んでいることもあり睨むだけで攻撃はしてこない。


「事前情報によると、孔雀だけど基本的に飛ぶことはない。通常は近接戦闘をメインとしているけど一定以上離れると……」


「エホーーッ!」


 孔雀の動きが止まったかと思うと、5つの虹色の瞳の模様が白く輝く。輝いた瞳から溢れた光はこちらを貫こうと横並びの5本の光線となって放たれる。


「……光線主体の攻撃のみに切り替わるっ、と」


 光線は横並びに放たれる、つまり上と下はガラ空きになるということ。

 光線に合わせて上に加速すると、難なく避けられた。


「それじゃ、後はこっちの番ね」


 《インベントリ》からクロスボウ「魔矢の弓銃」を取り出し、MP消費で矢を放てるモードに切り替える。構えて照準を合わせると、光線を放つ溜めに入っているのか動こうとしない。その隙に矢を放つと難なく胴体に命中した。


「こうなったらもう的と一緒かな」



 それから回避と射撃のループを5巡程繰り返したところで、孔雀に動きがあった。


「クエー……エー……ホーー!!」


 先ほどまでより大きな鳴き声と共に、孔雀の体全体が激しく発光し、戦闘エリア一帯に閃光が走る。

 あらかじめ目を閉じて対処したが、目を再び開けても視界は真っ白なままだった。


 確かこれは……HPが8割減った時の攻撃ね。物理的に目を潰すのに加えて、『状態:【盲目】』を必ず付与する訳だけど……。


「エホーーッ!」


「それ、っと」


 スキル《次元掌握》で相手の場所は手に取るように分かるし、光線は避け方がワンパターンだし、何より行動の度に声を上げてるから別に何も問題ないね。


 再度上に躱し、《次元掌握》を頼りにクロスボウをで弓を構え、数発矢を放つ。

 鳴き声と気配が無くなったと同時に、討伐完了のアナウンスが流れた。


――眩惑の孔雀を倒しました――

――4800ネイを獲得しました――


「ふぅ、こんなものかな。……視界も、よし戻ったね」


 視界が回復したので、屋上中央に現れた黒い箱、アイテムボックスの元へ向かう。


「さて中身は……よし、あるね」


 箱の中には栄養ドリンク位のサイズと形の透明な瓶が2つ入っていた。


□□□□□

光水 Lv.1

耐久力:10/10

光属性の力が溶けた水が入った瓶。

□□□□□


 この『光水』が今回の目的のアイテム。これを闇属性の魔物に投げつけるとダメージを与えられると掲示板に書いてあった。

 かなりメジャーな方法らしいけど、人ばっかり相手にしてたからしら初めて知った。


 瓶の中には薄い赤、青、緑、黄色などが混じった色の液体が入っていた。絵の具のついた筆を水の入ったバケツに触れさせた時のような見た目になっている。


「それじゃあ、ついでにレベルも上げるために周回始めようか」

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