第116話 再会

「これで99、100……101ね。一旦終わりでいいかな」


 約40回目の戦闘を終えて、アイテムボックスの中にある3本の瓶を取り出す。


 さて、光水が目標の100本に到達した訳だけど、これからどうしようか。楽だったから1回数分で終わるし……って、もうこんな時間か。それならセーフティエリアに戻ってログアウトしてもいい頃合いかな。


 屋上から見渡すと、ここから道を1回曲がれば戻れると分かったので、柵を越えて地面近くまで降下する。こう見るとこんな単純な道筋だというのに、どうして行きの時はあんなに迷ったのか不思議でならない。

 セーフティエリアに向かいながら、先程まで集めていた光水をインベントリから1本取り出して手に取る。


「光と言ったら白だと思うけど、何で白じゃなくて薄い虹色なんだろう……。順当に考えたら可視光の赤から紫ってことだと思うんだけど、それにしては色がパステルカラーみたいだからちょっと違う気がするし」


 攻撃手段になるということで集めていたが、改めて考えてみるとかなり謎が多い。そもそも光属性の力とは何なのか、他の属性のものは存在するのか、所謂「聖水」とは違うのか、など考えれば考えるほど色々疑問が浮かぶ。


「まぁ、これはこれでいいか。…………それで、何の用でしょうか? 気付いてますよ?」


 後ろからゆっくりと近付いてきた気配を察知し、手に持っていた光水を《インベントリ》から双剣と入れ替える。武器を構えて振り向くと、そこには2m超の大きさの盾があり、人の姿はその陰に隠れて見えなかった。

 早速攻撃を仕掛けようとしたその直前、聞き覚えのある男性の声が盾の後ろから聞こえた。


「待て待てライブラ! 戦闘の意志は無い!」


「……その声、もしかしてヘリアルさんでしょうか」


「ああ、久しぶりだなライブラ。とりあえずその剣仕舞って貰えないか?」


「勿論、こちらも戦闘の意志はありませんから」


 そう言って双剣を《インベントリ》に仕舞うと、それと同時に眼前の大きな盾が消える。


 一度もこっちに顔を出してないのに剣を消したのが分かったってことは、あの盾で視界を狭められないような何らかの方法があると。それに、近付いてきた気配の大きさからして、盾を構えたのは剣を出してからの1,2秒間。つまり奇襲の類は効果が薄い……なるほどね。


「それにしてもお久しぶりですね、第1回イベントの時以来でしょうか。どういったご要件でしょうか?」


「要件って訳じゃないが、いつも来てるダンジョンに珍しく見知った顔の奴がいたからな。周回ってことは次のイベントのための準備ってとこか? それかレベル上げか」


「強化目的ですし間接的にはそうなります。そっちの方は順調ですけどレベルの方は……芳しくないですね」


 ステータスのレベルの欄を見ると、前と変わらず「Lv.1」を示していた。レベルアップのアナウンスが一度も無かった所から察していたが、あの数を倒しても1すら上がらないのは少々予想外だった。


「そうか、Lv.1からなら上がりやすいとは思うんだが……」


「そうですね、まだLv.1のままで……って、《鑑定》しました?」


「いや違う違う、ライブラについての掲示板で見たんだ。少し前の情報だったんだが、今もまだ1だったのか」


「へぇ、なるほど……。そんなのがあったんですか」


「ライブラの以外にも、俺とかシグレの奴とかもあるな。有名どころの強プレイヤーは皆対策したいんだろう。それに、ある件の影響でこういうのは良く見られるようになったしな」


「そういえばシグレさんはお元気ですかね、確かご友人でしたよね?」


「アイツか、それならレベル上げに勤しんでるぞ。俺とも結構差がつき始めてるくらいにな」


「あの方はよくレベルを上げられてるって聞きますね。あのスピードってどうやってるんでしょうか……」


「それはな……、アイツって忍者の格好してるだろ?」


「まぁ……そうですね、それに何か関係が?」


「ああ。それでな、忍者の使う術、忍術には流派が沢山あるんだよ。アイツはそれを網羅して習得しようとしてるらしい」


「甲賀流だとか伊賀流とかなら聞いた事ありますね」


「そういう奴だな。その流派の種類は50だとか70だとか、とにかく数が多いんだ。ここでだ、このゲーム『FIW』のレベルアップシステム覚えてるか?」


 このゲームのレベルアップシステムと言うと、確か明確な「経験値、EXP」が無く、実際に技術を向上させたり習得したりできる感じだったはず。


「あっ……ということは」


「気付いたか。どうやら忍術の流派1つ1つが別の技術判定らしくてな。それでガンガンレベルが上がってスキルが増えて……ってなってるらしい」


 私は……何でレベル上がってないんだろう。ゲームを始める前に既に各種武術を習ってたからとか?


「それで、掲示板関連の話にもなるんだが、その技術を手当り次第見つけた相手に使ってるんだよな。そのせいで掲示板では『戦闘狂』とか呼ばれてたり、いなす為の方法が出回ってたりしてるんだよな」


「なるほど……私がどう見られてるのかちょっと気になりますね、後で探してみます。ところで、さっき言ってたある件って何でしょう?」


「後でチャットでリンク送っておくぞ。というかライブラ、自分がゲーム内の環境に与える影響の自覚無いのか?」


 そう言われても全く思い当たる節が無く、「いえ……」と首を傾げた。


「マジか……。ライブラ、見たら恐怖を与えられるようなスキル持ってるだろ? それで見られたら最悪即死させられるような奴。それが理由で、大抵のプレイヤーの間で『装備をするならまずは闇属性耐性を上げられるものが最優先』って風潮が流れてるんだぞ」


 えぇ……、いつの間にそんなことに。

 でも道理で最近恐怖の瞳の強で即死させられるケースが少ないと思った。そういうことなら納得。


「というか今も効果出てるよな、【恐怖・微弱】ってステータスに見えるんだが」


「あっ、すみませんうっかりしてました。効果弱めておきますね。常時発動のスキルで切れないのは悪しからず、ということで。前は発動止めるために眼帯着けてたんですが、最近は止める意味も無いなと思ってきたんですよね」


「なるほどな……、そういうことか。それ関連の話題も掲示板にあるから、それも含めて1回見ておくのが良いかもな…………ただあれは本人が見るべきなのか……?」


「後で見てみますが……あれ、というのは……?」


 そう訊ねると、突然気まずそうに目を逸らし始めた。


「あー……いや、な。俺は全く興味無いんだが、一部の人らがライブラを……あれな感じの話題にな……」


「あれっていうのは…………あっ」


 そう言われて察した。恐らく第1回イベントで私の写真が出回りそうになった時のことを言っているんだろう。


「それなら一応見ましたし、運営の方に然るべき対応をして頂きましたから。一人一人を殺して回ろうとは思いましたが、匿名ということもあるので……」


「そうか……なんか、悪いな。そういえば、さっき顔見知りの奴がそれ関連の話をしてたんだが……」


 この近くに人が、しかも灸を据えてやりたいような相手もいると知り、被せるように言う。


「えっ、このダンジョン内に他の人居たんですか。もしよろしければその人達含めて教えて頂きたいんですが……」


「うおぉ……。まぁ、良いか。その話してた奴らは今見えるそこの食堂棟で、それ以外は――――」


「いえ、人が居ると分かればそれで大丈夫です。ありがとうございます」


「そうか。じゃあ今からそいつらの所に行くのか?」


「そうですね、色々と助かりました。それでは――」


 振り返ってまずは食堂棟に向かおうとした所、後ろから呼び止められた。


「最後に1つ聞いてもいいか?」


「内容によりますが大丈夫ですよ。何でしょうか?」


「さっきの言いぶりからして、目に入ったら全員問答無用で倒しに行くと思うんだが、俺を殺りにくるのを止めた理由って何だ? ライブラと俺なら普通に戦えると思うんだが」


「なるほど、それなら単純な理由ですよ。確かに戦えると思いますし、何なら勝てるとも思ってます。でも『殺さない理由がある』。それだけです」


「へぇ、『殺す理由がない』とは言わないんだな?」


「そうですね、その2つは示す意味が明らかに異なりますからね。そもそもこのゲーム世界にいる時点で全員『私が殺しにかかる理由がある』んですよ。そこからメリットやデメリットを勘案した上で殺さないべきか判断してるだけに過ぎません」


 莉桜――コスモスだけはメリットデメリットなどで考えない相手、ということは特に口に出さずにおいた。


「なるほどな、殺さない相手と見て貰えてるのなら素直に喜んでおくか。……っと、呼び止めて悪かったな、俺もそろそろ行くとするわ」


「そうですか、ではまた。次のイベントで会うことがあればよろしくお願いしますね」


「あぁ、色々とありがとな。それと、イベントで会ったらこちらこそよろしくな、恐らく敵同士だろうから」


 そう言いあって別れ、ヘリアルは背後へと歩いて行った。その後気配がある程度離れたところで、例の人たちを探しに食堂棟へと向かった。

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