第114話 新たな目標のために

「それで、1つ目はこれで解決として2つ目は?」


 そう聞かれたのに対して、一呼吸置いてから返事をする。


「2つ目は通話を始めてから出てきた疑問なんですが……」


「うん、何なに?」


「気のせいかもしれませんが……莉桜、私に通話をかけるタイミングが丁度良過ぎませんか?」


 何度も通話する中で一度や二度程度なら偶然で済ませられた。だがここ最近通話がかかってくるのは決まってログアウトしたばかりの頃だった。


 一瞬の沈黙の後、莉桜は何ともないような声で返事をする。


「特に深い理由は無いよ? 月華がログアウトしてるタイミングで通話かけるようにしてるだけ、たまたまだよ」


「たまたま、ですか……」


「そう、たまたま。だから月華は何も気にしないでいてくれればいいよ。何も……ね」


 意味深な物言いの後、しばらく沈黙が続く。


「そうだ! 第2回イベントはどうするの? 月華のことだし戦闘メインのイベントには勿論参加するよね?」


「……あっ、ああ! そうですね! 忘れてました、楽しみですよね。勿論エントリーも済ませてありますよ」


 人が大勢集まったところをまとめて狩れる、絶好の機会であるイベントのことを忘れるなんてね。でもこんな良いものを手に入れちゃったらね……。

 ミコおもちゃは壊さないように、ゆっくりと遊ぶようにしないと……。


 どうやって使うか想像が膨らむお陰で、つい笑みがこぼれる。


「おーい、月華ー? 聞こえてるよー」


「へ? も、もしかして声に出てました?!」


「……? いや、聞こえてたのは笑い声。イベントが楽しみなのは分かるけど、がリアルの方に出ないように気をつけなよ?」


 そうか、莉桜は私が殺戮趣味と拷問趣味を持ってることは知ってても、その相手がミコなのは話してないし知らないんだ。確か莉桜の友達って言ってたし、これは伏せておこうか。


「大丈夫ですよ、現実と仮想の区別は付けられてますから。解放するのはゲーム内だけです」


「それなら良いんだけど……」


 それからしばらく雑談をして今度会う約束もした後、通話を終わらせた。



□ □ □ □ □ □



 次の日ログインすると、人影1つ見えない朝の街の景色が目に入った。


『きたー』


『やっときたー』


 そして、ログインしている間ずっとくっついていた深淵生物達が現れた。


『もしかしてあなた達ずっといたの?』


『このあたりでまってたー』


『だれもこなかったからひまー』


 闇の小人2人にカラス、金魚、クリオネ、全員揃ってここでゲーム内時間4日以上待っていたという。

 スキル《次元掌握》で周りに誰かいるか探してみたが、半径100m以内にこの場にいる1人と5体以外の反応はなかった。


「そうだったのね。まぁそれはいいとして……」


 その件は置いておき今まで考えていた、深淵生物への疑問についてそろそろ向き合うことにした。


『あなた達って、何なの?』


 システム的にどうなってるんだろうか。深淵に居た魔物がそのままついてきた感じだから、ただの魔物と同様倒されたら消えると思う。

 当の本人……本魔物? 達は何も分かっていないようで首傾げてるし……。


「んー……どうにか倒されても戻ってくるように出来ないものかな……」


 未知から方法を考える時は、既知のものから近いケースを考えよう。


 今まで見た魔物関連の事象を思い返す。しばらくふわふわと漂いながら考えていると、1つ手がかりになりそうなことを思い出す。


「あ、トゥレラの金魚召喚があった」


 前に深淵で見た『狂気の支配者』、またの名を『トゥレラ』。彼女が闇の塊から金魚を数匹出していたのを思い出した。


 手がかりは見つかったけど、問題はそれをどうやって使えるようになるかだよね。本人に聞きに行く手も無くはないけど、それはあくまで最終手段にしておこう。それなら……


『どしたのー』


『えっと……あ、そうだ。あなた達の仲間ってどこにいるか分かる?』


『なかまー?』


『わかるよー。なにするのー?』


『ちょっと倒そうと思ってね。もし倒したら気にする?』


 考えたのは、前にまだ『深淵共鳴度』が1とか2だった頃、それを上げる時に現れた闇を倒して教典を手に入れようという作戦だ。あの時は倒さなくても手に入っていたのだから、倒せば確実だろう。それで、手に入れられればラッキーという感じだ。


 ……というか、2から後は全部すっ飛ばしたせいで3以降に手に入っただろうスキルが手に入ってないんだよね。だったらこっちから探して無理やり手に入れても問題は無いよね。


『きにしないー。いいよー』


『あらそう。それなら良かっ……』


『やみはやみをたおせないー。だからたおせないー?』


 あの闇の小人たちに共通している重要な点があったことを忘れていた。それは、闇耐性100%と物理耐性100%ということ。つまり有効打を何ひとつとして持たないことだった。


「そうだった……」


 攻撃スキルが闇属性しか無い上、ここまで深淵に足を踏み入れている以上それ以外の属性が使えるとは思えない。そもそも使うつもりも無いが。


『その仲間って深淵にいるのよね?』


『そのとーりー』


『おくのさらにおくー』


 ふむ……何か、あの闇の小人に効果のある攻撃手段でもあれば……。よし、ちょっと調べてみようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る