第94話 的当て

本日よりストック分が無くなるまで7,18,20時投稿となります。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「――という経緯で今に至ったのです」


 スクラさんは興奮が冷めないまま、いかに私を崇拝しているかということをしばらく熱弁していた。


 少々長かったけど、話をまとめるとこんな感じだ。

 昔から自分の欲求を発散することが出来ず心の内に溜め込んでおり、このゲームを始めてからも同じだった。そんな中で、眼帯にドレスといういかにも中二病な格好をした私を見て、何かを感じて接触した。そして、殺戮をするのを見たことを境に溜め込んでいたものが溢れ出た。だから、そのきっかけとなった私を崇拝している。

 要点をまとめるとこういう所だろうか。


「それで、話の流れからしてその欲求というのは……」

「はい、ご察しの通り加虐欲求のようなものです。と言っても、まだまだ躊躇してしまうこともあるんですけどね。それに上手くいかないことも良くあるんです」


 そうは言っているが、今は一切の迷いのない笑みを浮かべている。


「ですから、私の心を鎖から解放して下さったライブラ様を尊敬しており、立ち振る舞いを参考にして学び、精神を崇拝して今このゲームをプレイしているんです! そして私や後進の学びのためにも、ライブラ様が更なる殺戮を謳歌できるように私が検証班を代表して貢ぎ――」

「少しは自重しなさいスクラ。それと勝手に代表しないで。ライブラさんも何か言って頂けませんか?」


 検証班に正式に伝手が出来るのであれば間違いなく強化に繋がるはずだし、色々と仲良くしておきましょうか。

「スクラさん。殺戮を楽しむということの理解者であり同志として、これからよろしくお願いしますね」


 その言葉でスクラさんは目を輝かせ、フルクさんは頭を抱えた。


「検証班の人脈、情報網、伝手、全てを使って協力致します。こちらこそよろしくお願いします」

「ちょっと、そんなことしたら怒られる程度じゃ済まないでしょう」

「他ならぬライブラ様のためなのに止める理由なんて無いから。それに検証班にも崇拝してる同志は何人もいるし、問題無いよ」

「そういう問題じゃないんだけど……。そもそもなんで『FIW』最大の問題プレイヤーのライブ――」


 その一言を聞いたスクラさんは、先程までの雰囲気から一転して殺気を漂わせた。更にその雰囲気のまま、機械の蓋がされている黒い泥のようなものが入った試験管を取り出す。


「フルク、ライブラ様のことを悪く言うのなら、ぶっかけるよ?」

「ちょ、ちょっと馬鹿馬鹿! それは洒落にならないから。……分かった、分かったから! 私が折れるから、それはストップ。OK?」


 その言葉を聞いた途端殺気は消え、返事をすることなくこちらを振り向いた。


「フルクの言質も取れましたので、改めてよろしくお願い致します!」


 反応に困った私は、無言で微笑み返した。



 少しの沈黙の後、フルクさんが最初に口を開いた。

「はぁ、お見苦しい所をお見せしました……」

「いえ、私は構いませんが……」

「それではライブラ様、フルクのことは置いておいて早速お話致しましょう」

「そうですね、ではこのクロスボウについてにしましょうか」


 一度《インベントリ》に入れていたクロスボウを取り出して、再度性能を確認する。


□□□□□

魔矢の弓銃 Lv.24

耐久力:1800/1800

MPにより魔法の矢を装填し放つことができる弓銃。1発当たり10MP。弦は非常に軽いが、それでいて威力は損なわれていない。

□□□□□


「クロスボウの使い方は大丈夫でしょうか?」

「はい。撃ったこともありますのでご心配なく。ところで魔法の矢の出し方は……」

「」

「弦を引いて引き金の横のボタンを押せば装填されるようになっています」

「なるほど……」


 確かに普通は無い位置にボタンが着いていた。

 弦が軽いというので、本来は地面に置いて行うが今は本体を持ったまま弦を引いて固定する。ボタンを押すと確かに黒い矢が装填された。


「矢を装填する都合上、連射が出来ない所はやはり少し面倒ですね。弦が軽いとは言え」

「使いやすい遠距離武器ということでクロスボウにしたのですが、連射の面ならやはり銃でしょうか」

「特にマシンガンですね。持ち運べる上連射が早いものも多いです」

「なるほど……次はそちらを目指して制作に取り掛かりますね」


 銃なんて作れるのかは知らないけど、そう言ってくれるのなら是非頼んでおきましょうか。


 雑談をしながらクロスボウの調子を確かめた後、発射出来る状態にして片手で構える。


「大きさ的にも片手で問題ないですね」

「そうですね。後は丁度いい的でもあれば良いんですが……」


 ここは路地裏にある少し広い空間なので何かしら物がありそうだったが、ゲーム内ということでめぼしい物が無かった。

 矢を装填したまま少し悩んでいると……


「あ、あの。こっちで本当に正しいんですか?」

「合ってるから大丈夫だぞー」

「もうすぐ着くからな」


 1人の少女が見覚えのある男2人と共に現れた。


「これまた見るからに都合のいい人が……」

「丁度いい所に来ましたね」


 スクラさんと目を合わせて軽く微笑む。どうやら同じことを考えているらしい。


「あんたら誰……ってお前は!」

「やっぱあん時のってライブラだったよな……」

「あら気付かれましたか、お久しぶりですね。早速ですが的になって貰いましょうか」


 クロスボウの照準を男の目に合わせて発射する。

 矢はかなりの速度で放たれ、眼球を貫通して脳を貫く。血を撒き散らしながら男は倒れ、少女は悲鳴を上げながらしゃがみこんで顔を伏せる。


「スクラさん、あの女の子捕まえておいて下さい」

「分かりました。ライブラ様はどうされます?」

「こっちの男で試し打ちしてみますね」


 そう話すとスクラさんは少女に駆け寄って、男との距離を離す。それを見て私はもう1人の男に一言だけ話した。



「それでは、遊びましょうか」

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