第91話 豪流の外套
恐らく第2フェーズであろう状態に入ってから数分、再び膠着状態となっていた。
「はぁぁ……鬱陶しいったらありゃしない」
第2フェーズに入り、行動と攻撃方法に新しいものが増えていた。
行動に関しては、頭が水中と水上を出たり入ったりして動き回り出したということ。これはこれで荒波が上がったり動きを読みにくかったり、それなりに面倒である。
だが、攻撃方法の方が本当に面倒の一言だ。その攻撃とは60mの巨体と謎の加速力を生かした『吹き飛ばし』のようなもの。
物理攻撃なのでダメージは無い。だが、霧と言っても2つに分裂出来るわけではないので、霧状態で全身を押されれば普通に押し出される。
本当、なんでここまで近付かせない訳? 全身を使ってランダムに動くせいで、透明になっても弾き飛ばされるし……
再生薬は貴重だからさっきした急降下のあれは出来れば避けたい。
一度近づくのは止めて高い所で距離を取る。
「さて、どうすべきかな。それに【腐蝕】が全く入ってないのも謎だし……」
吹き飛ばされる際に竜の胴体には触れているのだ。それならば【腐蝕】が少しくらい入ってもおかしくない。それなのに痕らしきものは何も無いのだ。
「効果説明文どうなってたっけ……。えっと『腐蝕:生物の身体を蝕み……』」
ん? 生物の体を蝕む……つまり、生物以外なら蝕むことはない。ということは……
ただの外皮としか思っていなかったが、見えているのは外皮ではない、つまり生物の一部ではないという説に行き着いた。
「あっ、もしかして…………やっぱりそうだ。間違いない」
先程突き刺した刀を確認する。すると、刃を奥深く根元まで刺したはずなのにも関わらず、血が付着していたのは刃の先3分の1程度だった。
「それにこっちもだろうね」
次に《心の目》を使う。生命の位置に加え、特に形を注意深く確認する。
すると、見た目より20cm弱細い本当の体形が見えてきた。
「なるほどねぇ、気付こうと思えば最初から気付けた訳だ」
最初に《心の目》で見た時は地中を注視して、上に出てる方を見てなかったから気付かなかった。反省反省。
MP回復薬を使った後、高所から降りてもう一度竜に突撃する。
「推測するに、その外殻で守ってるだけで中身は物理耐性相当低いのかな?」
だとすると、最初の一撃が入ったらすぐにフェーズが以降したのも納得出来る。
ちなみに物理耐性というものは肉体その物の物理攻撃への耐性で、装備の耐久は関係ない。
「おっと」
接近すると、水面から胴体が現れて行く手を阻んで来る。近付かせまいと再び吹き飛ばしの攻撃をしてきたので、今度は遠慮なく《狂風》を使い、合間を縫って回避する。
「なるほどね、謎の加速の原理も理解した。なんと言うか、点と点が繋がった感がする」
超硬いゼラチン質のこの外殻だから出来た攻撃なんだろうね。動いてるのは外殻の方だけで中身はそれに引っ張られてる感じだ。
体が大きいから超加速してるように見えてただけなのね。
今は回避と加速を繰り返してとある部分に近付こうとしている。
外側全身は外殻に覆われているから、ここに攻撃するのは得策ではない。目は視界に入れられた途端動かれるから、こちらも同様。
なら、狙うべきはどこか。
「取った!」
頭の下側から、竜の口の中へ突入した。
「――それじゃあ始めようか」
口の中に入って食道と思われる部分に来たところで、双剣を取り出す。
体の内側も思った以上にリアルに作られているらしく、真っ暗な上に粘液で相当ジメジメ、ベタベタとしている。
こんな不快な所に長居してはいられないと思い、手当り次第あちこちに双剣を突き刺して体の内側を切り裂き始める。
「よし、問題なく刺さる」
少し傷を付け始めたところで竜の体が激しく揺れ始める。私をあちこちに打ちつけて倒そうとしているらしい。
「残念、その程度で私はどうにも出来ないから」
おまけにぶつかった時に霧化すると【腐蝕】が入るから、余計に苦しむことになるんだけどね。
それで攻撃を止めることだって無い。終わる時は勿論死ぬまでだ。
「あはっ、あははははっ! どう、悔しい? 何も出来ずに殺されるのを待つってどんな気持ち?」
食道を剣と刀で一通り切り裂いた後、今度は胃と思われる空間で攻撃をしていた。
「うわっ眩しっ……」
すると突然竜の体が消滅して体が外気に晒される。真っ暗な所から突然陽の光が照る場所に出たことで、眩しくなって目を閉じる。
――鯉登の幟竜を倒しました――
――18000ネイを獲得しました――
――Lv27に上がりました――
――スキル《禍雨》を獲得しました――
討伐完了を示すアナウンスが頭の中に流れ、興奮状態から段々冷静になる。
はあぁぁぁっ、楽しかった……!
体の中から殺すなんてこと、現実世界じゃ出来るはずも無いからね。
「って、痛たたっ……」
落ち着いたところで身体中からヒリヒリとした痛みが現れ始めた。
全身を見てみると、血に加えて胃液などの粘液と思われる液体で塗れていた。
思えば目に入ってたのも気付いてすらいなかったな。とりあえず流しておこう。
「ふぅぅ……すっきり、ってん?」
池に入って汚れを洗い流していると、背後から何かが忍び寄っていることに気付く。
振り向くとそこには……
「なんだ、アメンボか」
1m程の大きさのアメンボがいた。
ん? さっき全滅させたはずじゃ……。
って、あ。これの名前『流浄の水黽』だったのか。道理で妙に綺麗になる水だなと思ってたら、これが居たからなのね。
アメンボはこちらをじっと見つめた後、首を傾げるような仕草をしてそのまま後ろを向いて去っていった。
まぁ、多分池とかを綺麗に保つ為にあれがいるとか、そんなとこでしょうね。
「それより今は……」
池の中央の方を見ると、黒い箱、アイテムボックスが現れている。そこそこ距離があったので、一度浮いて近付くことにする。
スキルの方も気になるけど、その前にアイテムボックスだよね。
何で池のど真ん中に出すのかは疑問だけども。とりあえず開けに行こう。
「さて、中身は何かな……?」
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