第83話 死神の遊戯
「なんだ……あれ?」
初期拠点の近辺でLvを8まで上げた後、大通りに出て歩いていた時、道路中央に奇妙な石の円柱のようなものが出来ていた。
周りには人が集まっていたため怪しいものではないのだろうと考え、近づいてみることにした。
柱の近くに立っている筋骨隆々とした男性に話しかける。
「あの、これって何なんでしょうか」
「これはな、ここに出現するであろうレイドボスを迎え撃つための布陣だ」
「そうだったんですか。それって強いんですか? Lvとか……」
「ああ、とんでもなく強い。Lvに関しては分かってないが20中盤だとか言われてるな」
「Lv20中盤って、ここにいる方たちもそれくらいみたいですけど。100人近くいますよね、過剰じゃないですか?」
「いいや全く。これで攻撃当てられるかどうかも分からん」
「ちょっとぉ、初心者に嘘吹き込むのやめなさいよぉ」
横から艶かしい声の女性が入ってくる。
大きい……どことは言わないけど。いや駄目だ見ない見ない。
「君、初心者だよね? この筋肉馬鹿の言うことは聞かなくていいからね、お姉さんの話聞いてくれる?」
僕16だから子どもでもないんだけどな。
「えっと、はい。そういうということは、違うんですか?」
「そうね、まず出てくるのはレイドボスじゃなくてプレイヤーね。ここにいるのはそのプレイヤー『ライブラ』を倒すために、掲示板で集まった人達なの」
「えぇ!? 1人のプレイヤーにこんなことしてるんですか! 駄目でしょう色々と」
「良いんだよ。ライブラは殺戮魔で特に女子供には拷問までする狂人のプレイヤーキラーで、被害者が多数出てるからな」
「そういうことね。初心者にこういうことするのは拙いけど、ライブラだもの」
その『ライブラ』についての情報や他のプレイヤーの認識からするに、とても凶悪な人物らしい。容姿もそれに相当するような人相をしているんだろう。
「だけどなぁ、出現予想時間からもう半日過ぎてるだろ。実はここがリスポーン地点じゃないんじゃねぇのか?」
「そうねぇ。ログイン制限3日っていうのも本人からの情報だし、正直信憑性薄いとは思ってるのよねぇ」
サービス開始からひと月も経たないうちにログイン制限を受ける程の人らしい。ますます想像上の姿が凶悪になる。
「とりあえずだ。ライブラがここから出てきた時にはここ一帯は危険地帯になる。危なくないうちに逃げた方がいい」
「あの、僕Lv8ですし、そのライブラがプレイヤーなら巻き込まれないのではないんでしょうか?」
「甘いな。ライブラはその程度軽く打ち破ってくる。《チュートリアル》があっても殺されてる事例は多数あるからな。今もライブラ対策はされてるがどこまで通用するかも……」
「対策ですか? 興味があるのですが見てみても……いや、柱の中なんて見れませんね」
「攻撃を打ち込むために壁に扉がついてるから、そこから見りゃあいい」
そう言って、この男性が柱の出っ張りに手をかけると、壁に10cm四方の穴が開いて中が見えるようになる。
中を覗き見ると、中央には粘ついた液体の入った容器があり、上部には捕らえるためのネットや攻撃のための武器が備え付けられている。
この穴も攻撃を打ち込むためのようで、外側の中央と上部にある足場はこの穴から攻撃するためのものらしい。
「これは……中々ですね。これなら……」
中を見ていたその時、頭にアナウンスが響き渡った。
――《チュートリアル》危険な状況を感知しました、逃走を推奨します――
「えっ」
アナウンスに気を取られていたためすぐには気づかなかったが、柱の中に銀髪の少女が現れて後ろ姿が目に入る。
「あの、女子が巻き込……」
「お馬鹿! 閉めなさい!」
「えっ、なんで」
「はぁ、とうとう来やがったな……ライブラ」
あれがライブラ? ただの女子にしか見えなかったけど。
どう考えてもさっきまでの話とあの後ろ姿が噛み合わない。本当にあれが殺戮魔の狂人なのか想像がつかない。
「俺は配置につくがお前は逃げろ。ライブラから逃げるなんて出来るか分からんがとにかく逃げろ」
「この先もこのゲームをまともに続けたければ全力で逃げなさいね。それじゃあ私も行くわ」
2人ともそう言い残して行ってしまった。
「でも、プレイヤーなんだしちょっとくらい良い……よね?」
ひとまず150m程離れた建物の陰から様子を見ることにした。だが、すぐこの決断を後悔することになった。これから理不尽とは何かを思い知らされることになるのだから。
□ □ □ □ □ □
まずは《心の目》で状況確認から……約100人か。
壁の反対側の中部上部にも見えるから、穴でも空いて攻撃してくるんでしょうね。
「発射!!」
その声が轟くと壁に穴が開き、全方向から炎の弾や岩の弾、氷の槍が降り注ぐ。
それを《無形の瘴霧》で霧化することで、トリモチのプールからも抜け出し、全ての攻撃を回避する。
ついでに上から金属製の網が全体を覆うように上から投下されたが、問題なくすり抜けてネットは地面に落ちた。
壁の内側が蒸気と砂煙で視界が悪くなっている隙に、柱より高い所まで《自由飛翔》で上昇し、全体を俯瞰する。
さて、《無形の瘴霧》を解除して、眼帯を取って……靴もベタベタして不快だし脱いじゃおうか。裸足になるけど飛べるから大丈夫でしょう。
それじゃあ
「そうだ、これだ」
恐怖の種類という観点から考え、《恐怖の瞳》による【恐怖】を【恐怖・想】に変化させる。
普通の【恐怖】は『死に対する恐怖』のようだと、今は縁切りされたリルさんから聞いた。
それを『何か分からないものに対する恐怖』即ち『想像することによる恐怖』に変える。例えるなら夜や暗闇、お化け屋敷的な恐怖といった所か。
もう
「な、何……? どこから……」
「【恐怖・想】だと? こんなもの見たこと……」
恐れというより不安というような反応をしている。意図した通りになっていることを確認したので次の段階に移ろう。
男の人の背後に立ち、一瞬だけ姿を現して剣で首を切り裂く。その拍子に男が地面に落ちていき、私は再び姿を消す。
「ひぁっ!?」
下の方からはざわめきが聞こえ、この男の隣にいた巨乳の女は後ずさりしていたので、背後に移ってもう一度姿を現す。
「どうしました、こちらですよ?」
「なっ! このっ、大人しく投降しなさいっ!」
氷の槍を5本構えてこちらに射出するが、霧化して回避し、後ろにいた筋肉の男に直撃する。
「ぐはっ! ……おいミオ、少しくらいフレンドリーファイア気を付けろ!」
「ライブラ相手にそんな余裕ないわよ!」
この女で試させてもらいましょうか。《闇の処女》!
2人を見下ろす位置で滞空してスキルを使うと、大きさ2.5m程の中が空洞になった真っ黒な人形が現れる。
人形が2つに開き、ターゲットを内側に捕らえると人形は閉じられた。
「な、何よこれ! 何も見えないんだけど!」
「それでは、いい声を聞かせて下さいね?」
スキルを行使し、100近い数の棘を限界の長さまで伸ばす。
「ああ゙あ゙あ゙あ゙あああぁぁぁああああああぁぁぁ!!」
あああっ……本当苦痛に悶える声って良い……! さて、中身はどうなったかな?
人形は消滅し、中の女の人が姿を現す。
全身のあちこちに1cm大の穴が空いて、全身から血が流れ出ていた。勿論立てるどころか生きていられるはずも無く、崩れ落ちて体は下に落ちていき、間もなく消失した。
「こんなものですか? まだまだ続けますよ?」
こんな楽しい遊びはまだ終わらせないからね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます