第82話 分岐ルート
一切弱まる気配の無い【腐蝕・悶】の痛みの中、経典の内容を読み進める。
「うああぁぁ……キツい」
既に四肢は黒く変色し、赤い液体が滲み出ていた。視界の端も赤黒くなっている。
痛みは時間と共に蓄積し、少しずつ増しているせいか、体の感覚は薄れ、頭は沸騰し、涙が自然と流れ出ていた。
内容の理解自体は出来てるけど、如何せん痛過ぎる。というより……このまま続けてたらおかしくなるかもしれない。
「はぁぁっ……早く、終わら……せ」
意識が朦朧とし、何度も精神が壊れそうになる中、遂に最後のページにたどり着いた。
前回と同じく裏表紙の裏面には文が書かれており、今回は『jg zpv dbo voefstuboe bmm uijt,tipx nf zpvs xjmm up usbotgpsn.』とあった。訳すと『もしこれを全て理解出来たのならば、あなたの転化する意志を示しなさい』になる。
「っああっ! 終わって……! xjti up hbjo uif qpxfs pg uif ebsl. xjti up usbotgpsn up uif bcztt!」
前の時のように、『意志を示す』つまりこの言語で話したと同時に、意識が闇の中に落ちる。
――条件を満たしました。spvuf:fw……sに入りました――
目を覚ますと、先程までと同じ例の黒い空間だった。
身体を見回すと元の肌色に戻っており、黒く変色して赤い液体が滲み出ていた痕跡は残っていなかった。だがこれまでの影響からか、まともに立つことすら出来ず、動こうとしても身体が震えて思い通りに動かない。
「はぁあああ、しんどかった……」
正に地獄と言っていい時間だった。それじゃあ、これで何が来るかな。
――スキル《深淵-系統操作》を獲得しました――
――深淵共鳴度が2に上がりました――
来たね、とりあえずスキル見る前に復習しよう。今動けないから、1と2両方の大事な所をまとめるのにちょうどいいし。
まずそもそも、深淵は闇属性魔法の深奥。これはいい。
次に『bsdipo』、訳すと『支配者』。属性で起こる現象、恐怖や狂気、腐蝕などを司る存在で、それぞれの種類の支配者がいる。
この訳は正しいのかどうかは分からないけど、意味はこんな感じでしょう、多分。
ここまでが1の内容で、ここから2だね。と言っても、重要そうな内容は1つのことについてだけだったけど。
闇属性特有のものとして、『系統』というものがある。さっきまでの【腐蝕・悶】の『悶』がこれにあたるらしい。これなら悶えさせるためというように、状態異常を与える目的と考えていいようだった。
ただ、ここで問題なのがこれだ。『系統は特化させることで扱うことが出来る。間違っても1つのものを複数の系統において操作することは出来ない』とある。
「系統『操作』、ってあるんだけど……」
今度こそこっちを確認しよう。効果はどうなってる?
□□□□□
《深淵-系統操作》
MP:0 CT:0
効果:状態異常を与える時、望む系統へと自由に操作することが出来る。
『opx uibu zpv ibwf dpouspm pwfs uif tusbjo, xibu xjmm zpv bjn gps ofyu?』
□□□□□
あ、やっぱり操作出来ちゃうのね。ならなんでだろう、この経典が間違ってる……ことはないと思うけど。
「私から話しましょうか、ライブラ」
「あら、あなたですか。《チュートリアル》……と呼ぶのもあれですから、そろそろ呼び名を教えて頂けますか?」
「今更ですか、まあ構わないでしょう。『ラジエル』と呼びなさい。あくまで呼び名で、私は大天使ではありませんが」
「なるほど、ラジエルですか。分かりました。それで、先程のことの続きをお願いします」
「それで、あなたが系統を操作出来る理由ですが、あなたが異常だからですよ。何ですあれは。死ぬことの無い空間で過剰な痛みを受け続けることでここまでの強化を誘発させるなんて」
え、どういう意味? 何か話が食い違ってるというか、噛み合ってないというか……。
「ああ……素でしたか。闇の試練の経典は受けた苦痛に応じて強化度が変化しますから、あなたはここの死なない仕様を利用して強化度を引き上げたのですよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「それに、上手く乗せられたようですね。外部からの干渉もあってこんなことに……」
「えっと外部ですか?」
「運営の者が、死なないこの場所で苦痛を過剰に受けさせようとしたのでしょう。その経典も2にしては苦痛が引き上げられていますから。恐らく、あなたを強化させたい者がいて、そのためのきっかけを与えたのでしょう。とは言え、あなたは強化に相当することをしましたから、バランスについて心配する必要はありませんよ」
何だか釈然としないけど、結果として強くなったのなら良いか。
「色々と助かりました、ラジエル。またここで経典を読みに来てもいいですかね?」
「お断りします。たまたまここに来ていたならまだしも、そのためにここに来るのは止めなさい」
「そうですか、なら止めますよ。それじゃあ、そろそろ向こうに戻ります」
そう言って、ウィンドウから元の世界に戻るコマンドを選び、転移が始まった。
そういえば、ラジエルはここに来ること自体を否定はしてなかったよね。つまりここに来れる方法があると。そもそもここがどこか分かってないから今考えても仕方ないけど、頭の片隅には入れておこう。
そんなことより、今はこれだ。
転移後すぐに周りを見ると、自分を中心とした半径15m程の円周上に、コンクリートのような石でできた3階建ての家くらいの高さの壁が出来ていた。
更に、下を見るとトリモチのような液体が足首まで浸かっている。足を上げようとするも動く気配は無さそうだった。
……思ってたより戦陣がしっかりと組まれてた。
だけど、そんなものは関係ない。ここまで待ったんだもの。これまでの鬱憤とかストレスとか、全部発散するためにも全力で
「さあ、楽しませてもらいましょうか」
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