第81話 茨の道へ

 ああっ……何て最高なんだろう! 近付くほどに怯えてくれるし、何より口を押さえつけた時のあの絶望に満ちたあの表情は特に素晴らしかった。同じ学校だったのは予想外だったけど、また会えるなら色々と楽しめるんじゃないかな?


 学校から出て自宅へ帰る道すがら、ミコこと内海琴とのことについて考えていた。


 さっき少ししただけでも凄い楽しかったし、現実とゲームの両方でまた会う約束でも取り付ければ良かったかな? まあ、名前にクラス、部活まで分かったし十分でしょう。

 現実の方では、これからとして関係を持っておこうか。


 ……逃がさないからね、ミコちゃん?



 現実でのミコとの初接触から1日半、私は非常にストレスが溜まっていた。


 ……FIWに出会う前みたいになってしまった。どれもこれもログイン制限を3日なんて期間にした運営が悪い。

 まあ、そこは私がどうこう言える所じゃないけどね。


 それにしても、3日出来ないだけでここまでイライラするなんてね。高校入ってからの4ヶ月発散しなかったのは我慢できたのに……


「ゲーム依存症って怖い」



 ログイン制限が丁度解除される時間を見計らい、機具一式を装備してゲーム内へと入った。



 目を開くとそこにあったのは、ゲーム内の交差点ではなく例の黒い空間とメッセージウィンドウだった。前とは違い浮いているような感覚は無く、普通に床があり動くことも出来る。


「『ログイン制限 残り0日0時間0分40秒』ちょっとズレてたか」


 はあ、しょうがない。40秒くらい待とう……



「ライブラ、戻りましたね。長らくお待たせ致しました」

「ええ、待ちました。それで、これから戻れるんでしょう?」

「落ち着きなさい。その前に3つお伝えすることがあります。1つは全プレイヤーにも伝えていることです、利用規約が一部改定されたのでご確認ください」


 機械的で平坦な声のそのメッセージが終わると同時に『利用規約』と書かれたウィンドウが表示される。


「うわぁ長い……。変わった部分だけ教えて貰えませんかこれ」

「構いませんよ。6条第1項、8条第2項、11条、15条第1項、26条3項。以上の5つです」


 なるほどね。まずは『6条第1項、当ゲーム内で他プレイヤーにより過度な身体的、精神的苦痛を受けて現実世界へ影響があった場合、当社は一切の責任を負いかねます』。次……『8条第2項、本ゲームシステムによる制限を掻い潜り、当ゲームの運営の妨げになる行為を行った場合、善悪問わず一時的にログインを制限することがあります』。次は……


 その後改定箇所の全てに目を通し、どれも気にすることでもないことを確認する。


「終わりましたよ、問題ありません」

「かしこまりました。2つ目に、運営からのメッセージと補填が届いています。只今例外的に《インベントリ》《鑑定》が使用可能です。3つ目に調整されたスキルがありますので併せてそちらもご確認ください」


 そうだ、始めてからのことばっかり考えてたからすっかり忘れてた。


 《インベントリ》を開くと、『手紙』『Lvupカプセル×1』『tdsjquvsf pg ebsl nbhjd-uif bcztt-2』の3つ表示が増えていた。


 まずは手紙を取り出して中身を確認する。


 『ライブラ様、4日間のログイン制限の措置を行いましたこと、改めてお詫び申し上げます。今回の補填についての説明を致します。まずLvupカプセル、効果はその名の通りです。ここまで蓄積された次のLvまでのパーセンテージは引き継がれますのでご安心ください。次に「経典」ですが、補填に見合う品であると判断し、本来試練を受ける必要がある所無償でお渡し致します。詳しくはご存知かと思いますので省略させて頂きます。追加で通貨10万ネイも所持金に追加致しました。』


 とりあえず今両方見てみようか、ここで《インベントリ》使えるってことはそういうことだろうしね。


 2cm大の赤と白のカプセル薬と、前の物以上に禍々しい本を2つとも取り出す。


「とりあえず先飲んでおこう」


 薬を飲み込むと同時にアナウンスが聞こえた。


――Lv26に上がりました――

――スキル《闇の処女》を獲得しました――


 え、えぇ……何この誤解を生みそうなスキル名は。とりあえず効果を見ておこう。


□□□□□

《闇の処女》

MP:40 CT:20秒

効果:闇の人形を生成して対象1名を空洞に閉じ込め、闇の棘を突き刺す。闇の棘を一度刺すと人形は消失する。ダメージに応じてHPとMPを回復する。※棘の長さは調節可能。※HPはダメージの75%、MPはダメージの3%回復する。上限はHP800、MP40。

□□□□□


 長い……。効果は攻撃とHPとMPの回復の両方ってことね。


 それにしても《闇の処女》って、モチーフは間違いなく『鉄の処女』だ。つまり完全に拷問器具ってことだ。なんでこんなスキルが…………いや心当たりは何件もあるけど。使い勝手が良さそうだし、その上便利そうだから良いか。


 スキルを見て調整されたスキルがあることを思い出し、『お知らせ』の欄から確認する。


「あ、調整……受けたのはこれね」


□□□□□

《無形の瘴霧》

変更点―MP:1(3秒おきに1消費する)

効果:霧状態は物理と魔法攻撃を無効化する。通常状態は物理攻撃のみ無効化する。

□□□□□


 なるほどね……MPを消費するようになるのと、通常状態では魔法耐性は0になるのね。変に弱体化されるよりはマシかな。


□□□□□

《心の目》

変更点―MP:15→10 CT:40秒→30秒

効果:30秒間生命の位置の探知を出来るようになる。→30秒間生命の位置と形を感知出来るようになる。

□□□□□


 えっ、こっちは強化じゃない。いいの? まぁ実際こうやって出てるからいいんでしょうけど。


 次に経典を確認しようとしたが、その前に手紙に追記があることに気付いたので読む。


 『追記:ご存知かと思いますが、ログアウト地点に多くの人が集まっています。ここで経典を読み終えてしまうのは如何でしょうか』


「えぇ、如何でしょうかって言われても……」


 ノートやメモを使えないここで解読をさせられるのは厳しいと思うけど。

 物は試しだし、読んでみようか。


 前の時と同じ羊皮紙で出来た本の表紙を開くと、これも前の時と同じような文があった。

『この書はbczttへ入る2つめのusjbmである。ebslの力を得たければ、voefstuboeせよ、sftpobufせよ』


「ここまでは一緒ね、じゃあ次は……」

 さて、前回は読んだら恐怖が来たけど今回は何が来る?


 2ページ目を開き中を見ると、『bczttにsftpobufせし者よ。usbotgpsnせよ、更にsftpobufせよ。』という1文があった。その文を見た途端……


「っああ゙あ゙っ! いだあっ!!」


 全身が針で刺されたような痛みに襲われる。

 思わず経典を閉じてしまう。痛みに悶え、耐え、のたうち回るが、一向に痛みが収まる気配が無い。


「うぁっ……、な、何これ……」


 誰か分かんないけどあの運営の人め……『如何でしょうか』なんてノリでこんなものを勧めて来たの?!


 ステータスを見ると【腐蝕・悶】の表示があった。名前から推測するに苦しませることに特化した【腐蝕】の上位互換といった所だろうか。


 欲しい……いやそんなこと考えてる場合じゃない。本当に辛い、このままじゃ死ぬ。腕も真っ黒になって来たし、HPも……ってあれ。何でHP減ってないの?


「あぁ、この空間だから……」


 ゲームのエリアとは違うこの空間だからか、ここではHPが減らないということに気付いた。それ即ち、ここなら死ぬことも無く読み続けられることになる。但し苦痛が終わらないという致命的なデメリットがあるが。


 なるほど、勧めてきたのはそういう理由だったのね。それならちょっと感謝していいかもしれない。

 それじゃあもう一度2ページ目から……


「うぁああ゛あ゙っ……! づぅっっ、はぁっ。ああっ、もう分かった! やってやろうじゃない!」


 決めた、必ず読み切る。そしてそれで得たものを使って、待ってる人達フルコースを全員狩る。


 殺戮のため、強化のため、私は今まで体感したことの無い生き地獄に突っ込むことにしたのだった。

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