第74話 絶望に落とす声

「ひいっ!?」


「やべっ、逃げろ!」


 公園の方に向かうついでに、眼帯を外して《恐怖の瞳》の試運転をしている。歩いている間に見つけた人を視界に入れ、《恐怖の瞳》強を浴びせるのを繰り返す。


 《恐怖の瞳》への《深淵-領域拡張》の効果は、距離による効果減衰度合いの低下のようだった。詳しくは判断出来ないが、強で殺せる範囲が約1.4倍に広がっていた。


「おらぁああっ……ぐぁっ!?」


「わざわざ出てきて実験台になって下さるなんて……ありがとうございます」



 上の方から現れて切りかかってきたので、後ろに躱して姿を確認する。

 案の定すぐ動かなくなり、死んで消失した。


「《恐怖の瞳》はこれでいいか」


 《死の波紋》と《狂化》は集団が出てきた時にでも使うとして、《無形の瘴霧》の【腐蝕】は次来た人にでも試そうか。一旦眼帯付けておこう。



 今日はログインしてメダルを交換した後、すぐに公園に向かっている。

 向かう理由は勿論鯉の竜を殺すため。倒されたという話は聞いていないからそこも問題はない。



 メダルに関しては、期限がリアル時間7日後ということで確実に使いそうなものは交換した。調理器具や裁縫道具などから、木材や布、金属などの素材まで、数多くの品があった。


 その中から私が選んだのは、ピーラー、すりおろし器、縫い針、釘数十本、金槌、水2Lペットボトル約100本。

 リストを見て思いつくままに交換したから、実際使うかは分からないけどね。



「ライブラ覚悟!!」


 背後から声が響き、それと同時に振り向きながら前の方に距離を取る。

 すると、男の持っていた剣が細長く伸び、刃が首に届く。


 まぁ、切れないけどね。剣が伸びるのは流石に予想外だったけど、明らかに物理攻撃だし避ける必要もなかった。

 《無形の瘴霧》の防御性能は凄まじいね。物理は常時無効化、魔法も霧状態なら無効化される。通常だと魔法は受けるけど、それでも威力は減衰されるんだからこれも凄まじいね。


 襲いかかってきた男は長い剣によってバランスを崩していたので、その間に霧化して【腐蝕】を発動させる。


「だぁあああっ!?」


 前は鎧のせいでちゃんと見れなかったから、【腐蝕】の効果を見ておこうか。


 膝下に触れて効果を発動させたので、立てなくなったのか倒れ込んでいた。

 霧化を解除した後、ズボンの裾をを捲って脚の状態を確認する。


「汚っ…………」


 脚からどす黒い液体が染み出ており、ズボンに触れるのも気が引けて目を細めてしまう。

 脚の方を確認すると、こちらは全体が炭化しているような状態だった。


 これが【腐蝕】ね。中はどうなってるんだろう、折角仕様確認するんだから見ておこうか。


 《インベントリ》から鉈を取り出して、膝の部分目掛けて振り下ろす。


「ぐぁっ…………」


 断面を見ると、外側から中央に向けて黒い部分が侵食しているような状態だった。中央に近付くほど黒色は薄くなっていたので、完全に腐らせるとはいかないようだった。


「他の部位も行けますよね? 腕、目、喉、口、色々試させて貰いましょうか」




 ――ここまでか。


 【腐蝕】を各部位に発動させて見た所、使用した部位が多いほど効果が薄くなるようだった。最初は触れてからすぐ発動したのに対し、後半は触れてから発動まで数分かかった。


 男の方はと言うと、顔と両腕両脚は全て黒くなって動かなくなっていた。不思議なことにこれでまだ死なないらしい。


「なるほどね、HPはそこまで減らないと」


 定期的に《鑑定》で残りHPを確認していたが、最大値と比べて両脚の時点で-5%、今の状態でも-30%だった。

 骨には【腐蝕】の効果は無いらしく、殺傷能力はそこまで高くないのかもしれない。首は完全防備で入り込めなかったから、そこなら別かもしれないが。


「ありがとうございました。あなたはもう用済みですので、さようなら。聞こえてるかも分かりませんけどね」


 もう充分と判断したので、眼球に剣を突き刺し脳を貫いて殺す。



 よし、中々良い成果だったね。使い勝手も理解出来たから、今後は活用出来るようにしておこう。

 …………ってあれは。


 少し離れた建物の塀に隠れてこちらを見ている紫髪の少女を発見した。見た目だけなら女子小学生だが、15歳未満はプレイ出来ないらしいため実際はもっと上だろう。


「ふぅん……?」


 如何にも弱々しい感じの女の子なんて、そんなの見つけたら行くしかないよね?


 霧化して姿を消し、接触を試みることにした――



□ □ □ □ □ □ □



「な、何……。何であんなのが出るんですの……」


 ここは初期拠点のすぐ近く、事前情報からは弱い魔物しか出ない筈の場所だ。

 だが、今目の前に居るのは見た者を殺して歩いた道には死人しか残さない、そんな生物だった。


 しかも時々姿を消したり、攻撃を無効化したり、あんなの理不尽ですわ!

 そ、そうでした。これはゲーム、つまり相手のステータスは見れるのでした。《鑑定》ですわ!


「ひぃっ…………」


□□□□□

mjcsb mw.????

iq:????/????

□□□□□


 なんですの……これは。見ただけで精神力を削られそうでしたから、すぐ閉じてしまいました。


「あれは一体……ひぃっ!?」



 は見て殺すのを止めたかと思えば、今度は成人男性の脚を腐らせていた。


「あんなのがいるなんて聞いてないですわ……。リアリティ70%でも痛いに決まってます」


 どう致しましょう、今は頼まれているのですからログアウトは出来ません。帰還のための羽も使ってしまいました。一体どうしたら……


 ここは何かしらの建物の敷地内。しかも、運悪く外に出る門はの視界に入る位置で、この穴も人が通れる大きさではない。

 どうすべきか思案したがここから動かないことが最善に思えた。


「あっ……」


 倒れていた成人男性が消えた。よく見えなかったが、死んだということだけは理解した。



 早くどこか遠くに行って下さらない?! なんでそこから動かないんですの。一瞬目が合った気がしますが恐らく気の所為ですわよね?


 って、また消えましたわね、今度は一体どこに行くつもりなんですの。何にせよここから離れるのなら助かりましたわ。


「ふぅ…………良かっ」


「何か嬉しいことでもありましたか?」



 その声の主を理解してから、絶望に落とされるまでに時間はかからなかった。


 がいつの間にか背後に現れていたのだから。

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