第73話 広がる深淵の予兆

 よし、今日もログイン……あれ?


 ログインしてすぐに複数の通知が来ていたことに気付いた。


「チャットね……って、ほぼ全員から来てるし」


 ちゃんと1人1人返しましょうか。

 ヘリアルさんとシグレさんは、勝ち残ったことに対する祝福と、第2Rで鬼を倒せたプレイヤー同士これからもよろしく、って感じね。

 2人も最後まで勝ち残っていたらしい。勝者が集まったあの部屋からすぐ出ていたから気付かなかった。


 私からも祝福と挨拶のメッセージくらい送っておきましょうか。



 次はスクラさん、博物館の六天で会った検証班の人ね。こっちも祝福のメッセージと、あの時のお礼の目処が立ったからどこかのタイミングで会いたいと。

 会うのはリアル時間の明後日くらいでいいかな。京都の方行くのも帰還の羽があるから大丈夫でしょうし。


 次はリルさんだけど、これは…………。今ログインしてるみたいだし、話をしておきましょうか。


□□□□□


『ライブラさん、勝利おめでとうございます。ですが質問させてください。掲示板で詳しく見たんですが、あの残虐行為はなんですか。』


『見ての通りですよ。私がやりたいからやっているんです。』


『鬼だから他プレイヤーを倒すのは当然ですし、勝負だから他人を蹴落とすのも分かります。でもあんな苦しませて嬲るなんて心が痛まないんですか?』


『痛みませんよ?寧ろ楽しんでやってますから。理解して頂けました?』


『理解出来ません。最初に会った時も普通だったじゃないですか、どうして今そうなってるんですか。そもそも何のために私と関わりを持ったんですか』


『あの時の私は初心者でしたから、分からないことばかりだったんですよ。それに、お2人には色々と感謝してるんですよ。』


『何をです、治療所まで連れて行ったことをですか』


『それも少しはありますが、病院ダンジョンの紹介をして頂いた方が大きいですね。いい人に巡り会えたんですから。言っておきますが、ああいうことは続けるつもりですので、理解して頂けないのなら関係を切っても構いませんよ』


『いい人というのも、まともな事では無いのでしょうね。やっぱり殺戮ばかりする人のことなんて理解出来ません。仲良くなりたかったですけど残念です。関係とフレンドを切らせて下さい。』


『そうですか、それなら仕方ないですね。さようなら』


――フレンドでない人とチャットすることは出来ません――

□□□□□


――フレンドから『リル』が削除されました――



 うーん、殺戮をする人相手に普通に友人関係になれなんて、ゲームでも難しいか。

 それに比べ、コスモスはいい人だなぁ……。


 現実世界でも話はしたが、ゲーム内チャットにもメッセージが来ていたので、こちらも返事を送っておく。


□□□□□


『ライブラ!勝利おめでとう!私は第3Rの最初の方で負けてたから見てたけど、すっごい色々やってたね。楽しそうにやってたから私も嬉しかったよ。これからもやりたいことをやって楽しんでね!応援してるよ!』


『ありがとうございますコスモス。リアルでも話しましたが、楽しかったですよ。そう言って貰えるのも嬉しいです。まだまだ続けますから見ていてくださいね』


□□□□□


 あいにくコスモスは今ログインしていないようだけど、話はしたし大丈夫だね。



 さて、とりあえず昨日の経典を読み返して復習から始めようか――



 2時間ほど経典を読み返して、内容の整理を行った。【恐怖・強】は昨日よりも感じず、単語の意味も覚えた数が増えたためスムーズに読み返すことが出来た。


「大事なのは、『深淵』と『bsdipo』かな?」


 まず『深淵』は闇属性魔法の極点のある領域になる。ここに近いほど強い魔法を使えるようになるらしい。その度合いを示すのが『深淵共鳴度』になるから、1はまだまだってことね。


 その深淵の奥底にいるのが『bsdipo』、仮に『支配者』と訳しておく。各属性に支配者は居て、魔法で起こる現象にはそれぞれ支配者がいるとのこと。

 闇属性には、恐怖や狂気の支配者などがいると書いてあった。つまり、火には燃焼とか、風には加速とかいるのかな?


 そもそも『深淵』という場所や『支配者』という存在が実際にあるのかは、今の時点では読み取ることが出来なかった。


 これは掲示板情報だけど、攻撃以外のスキルにも属性があるという説が出ていた。火が攻撃バフ、水が攻撃・防御デバフ、風が速度バフ、光が治癒という感じに。

 それによると、闇は状態異常だと言われていた。私が状態異常に寄る理由が理解出来た気がする。



 それじゃあ、新しく手に入った《深淵-領域拡張》は状態異常関係のスキルの効果範囲を広げる感じかな。ここで試せることは試して、後は外に出て使おうか。人は居るでしょうし。


 まず《無形の瘴霧》から試す。

 霧状態になるまでは変化が無かったが、形を変えるとスキルの効果が認識できた。

 空間の認識力が上がっていた。サーモグラフィーのようにぼやけていたのが少しはっきり見えるようになった。


「っ……はぁっ! ふぅ……」


 それはつまり、視界の情報量が増えるということなので、前より少し疲れるようになった。


「倍の視界で半分の情報量の所から、情報量が増えたらそうなるか……」


 使う上で便利になったのは間違いないし、私が頑張れば解決するかな?


 《狂化》《恐怖の瞳》《死の波紋》《沸騰する狂気》は相手がいない所で使ってもしょうがないし、外に出て誰かに試しましょうか。鯉の竜を相手にしてみても良いかも。



 戦闘準備を整えた後、実験体を探すために外に出て公園に向かうことにした。

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