第66話 第1回公式イベント-17

 MPの最大値が0になる、つまりMPを消費するスキルが軒並み使えなくなるということ。


 私がMP0で使えるスキルは《恐怖の瞳》《二刀流》《冥界の掟》《無形の瘴霧》の4つ。この場で使えるのは実質恐怖の瞳と《無形の瘴霧》の2つだけになる。


「これは……結構面倒そうですね」


「相当まずいですよねこれ。俺使えるスキル何も無くなりますよ。この状態で30分は……鬼に出会わないことを祈るしか無くないですか?」


「これで人数を大幅に振り落とすつもりなんでしょう。でも効果が始まるまで3分残ってます、急いで出来るだけ人の多い方に行きましょう。今ならスキルは惜しまず使えますから」


「人の多い所に行って何するんですか? 巻き込まれてやられるだけでは……」


「私はまだ使えるスキルが残ってますから。この状況でも出来ることはあります。話は後です、急ぎましょう」



 私たちはスキルを全力解放して、ここから住宅街に向けて急行した。




――MPの最大値が0になりました――


「っと」


「それでは、ここからは歩きましょうか」


 アナウンスが聞こえたのでスキルを解除する。住宅街まで目と鼻の先まで来ている。


「ところでここに来て何を?」


「30分間鬼に餌を与え続けて、私たちを襲わせないようにしようかと」


「餌って一体……あっ、もしかして第2Rの時の……」


「お察しの通りです。今ならそれをする理由もメリットも大きいですから。暫くは私の前に出ないでおいて下さい」


 眼帯を外して《恐怖の瞳》を中にする。


 すると早速、私たちの元に鬼から逃げてきたらしい女性ペアがやってきた。


「鬼が向こうから来てます! 2人も逃げた方がいいですよ!」


「そうですか、ありがとうございます。それでは、あなた方は私たちのために囮になっていて下さい」


 そう言いながら、2人を視界に入れて共に恐怖の効果を入れる。


「「ひぃあぁぁぁぁああっ!?」」


「ふふっ……。それではさようなら」


 動けなくなったのを確認して、2人がやってきた方向とは反対に向かう。




「――あの、2つほど聞いて良いですか?」


 これを何度か繰り返しながら住宅街を歩いていたとき、突然後ろからレレイさんに話しかけられた。後ろを見て恐怖をさせないように気を付けて返す。


「別に構いませんが」


「この怖がらせる奴って、MP使わないんですか? 第2Rの時に長時間使ってたって見て燃費がいいとは思ってましたが」


「そうですね、消費0です。でもデメリットもありますよ」


 デメリットといっても眼帯が必要なことだけなんだけどね。外聞とか視界に関してはもう慣れたし。


 眼帯を外して《恐怖の瞳》を常時発動させることも一時は考えてたけど、人との交流の時が面倒になる。

 それに、やたらと恐怖させても悲鳴でうるさいし、何より面白くない。


 私がやりたい時と必要な時に使うくらいでちょうどいいと思う。眼帯はそのために必要だから今後も着け続ける。


「それともう1つです。あれルール的にセーフなんですか?」


「運営からお咎めが来たことはありませんよ。ですからセーフです。協力なんてする必要ありませんから、他のプレイヤーは私が勝つための踏み台ですよ」


「あ、あの……これ観戦者がいたら今の聞かれてますよ?」


 わざわざ私の行く方向に一々着いていって見続ける人が居るかどうかなんて知らないけど。


「別に構いませんよ? 私は私のしたいことをするだけですから。あ、また居ましたよ」


 角を曲がるとまたペアに出会った。近くに鬼は見えない。



 2人を視界に入れた後、今回は離れずに前に立ったままで待っている。


 男の方は塀に寄りかかってかろうじて立っているけど、女の方は腰が抜けて動けなくなっているようだった。


「お、お前、何するつもりで……」


「何もしませんよ。鬼が来たらあなた方を使うだけですから、それまでここで待たせてもらうだけです」


「やめて、来ないで……助けて……」


 全く、何もしないって言ったでしょう。


 色々言ってきたことを雑に聞き流して待っていたら、鬼がやって来た。2人を囮にして私たちは曲がり角を使いながら離れる。


「お、おい! どこ行きやがる! だ、大丈夫か、逃げ……」


 よしよし。囮作戦は順調だね。このまま30分間逃げ切りましょう……



 それからもうしばらく、すれ違う人を囮にしては逃げる戦法を続けていた。


 すると、学校の校舎らしい建物が目に入る。校舎や校庭の雰囲気からして小学校のようだった。


「へぇ、小学校ですかね? 俺の通ってた所に似てます。どこか懐かしい感じがしますね」


「校舎の扉開いてますよ。入れるみたいですけど、どうしましょうか」


「入ってみましょう。このままだと歩く度に犠牲者が増え……」


「はい? 今なんて言いました? とりあえず入るなら行きますよ」


 犠牲者ではないから。あくまで私が勝つ為のただの踏み台にするだけ。嫌なら強くなるなり、自分も同じようなことをするなりしたらいいんだよ。



 さて残り時間は55分、制限が解除されるまであと10分あるけどそれは大丈夫でしょう。

 そんなことより、こういう所は人が集まりそうだし《恐怖の瞳》で囮に出来る人が多そう。私が楽しめるという意味でも期待出来そうね。


 少々マンネリ化してる気がするし、ついでに何か面白い方法でも考えておきましょうか。



 こうして私たちは囮という名の人たちを探すため、校庭を通って校舎の中へと入っていった。

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