第65話 第1回公式イベント-16

――第4Rが開始しました。制限時間は2時間です――


 展望台に登った私たちは、階段から1番離れた位置に陣取っていた。


 ここは、15m四方の口の字をした足場に柵が設置されていて、真ん中に階段が1つあるだけの構造になっている。



「鬼は多分階段から上がってきますから、そうなったらここから飛び降りましょう。その時は私を気にせずにスキルを使ってください、飛べますから大丈夫です」


「分かりました。ところで、さっき飛び降り方を知ってる風に話してましたが、どう降りれば良いかとかは分かりますか?」


「えっと……降りる時は空気抵抗を大きくするのと、身体の1点で着地しないくらいですかね? それと、逃げる方向は来た林の方向でどうでしょうか」


「分かりました、基本はそうしましょう。それじゃあ、鬼が来るまではここで待ちましょうか――」




 それから30分間程何も動きがなかったが、その時は突然訪れた。


「来ました、階段から見て左斜め後ろ方向です。準備いいですね?」


「ええ、方向はさっきの通りですね」


 飛び降りる前に、眼帯を外して《恐怖の瞳》を中にする。その後、展望台の上と下にいた2ペアをそれぞれ見て動けなくする。


「ひっ! 何!?」


 これで囮は大丈夫だね。さて、この状態で逃げ切れるか……


「……登ってきました。今です」


「は、はい!」


 レレイさんが風を起こし飛び降り、それと同時に《自由飛翔》を使って宙に浮く。私は引っ張られる形で下から吹き付ける風の中を降りることになった。



 ……勿論頭を下向きにした体勢で。

 流石に直立のまま降りたら風でドレスがひっくり返ることには気付いてる。



 無事に着地したのはいいのだけど、レレイさんが地面に伏せたまま動かない上に風も止めない。


「早く風止めて下さい、殺されたいんですか。止めて全力で走って下さい! 全力出しても私なら追い付けますから!」


「す、すみません!! 分かりました、行きます!」



 そう言ったのと同時に私たちは移動速度を上昇させるスキルを使い、展望台から一目散に林の中へと逃げ出した。




「ここまで来れば大丈夫ですかね」


「はぁっ…………そう、ですね…………」


 私は《狂風》と《自由飛翔》で後ろに着く形で逃げていたけど、レレイさんは移動速度を上昇させて走っていたからか相当疲れているように見える。


「ここで休みましょうか。疲れているようですし」


「ライブラさんはかなり余裕そうですね……。同じくらい加速してた上に、空飛んでたでしょう?」


「実際疲れてませんからね。飛んでたら体力の消耗はほぼゼロです」


「ええ……何でですか。機動力上昇のスキル使えばそれぞれ差はあれど消耗するものでしょう?」


「え、そうなんですか? そう言われましても、普通体力を消費するのは今初めて知りました」


 普通こういうものだと思ってたけど、疲労感なんて来るものなのね。

 私のスキルが強いのならそれで良いんだけど、原因は何なんだろう。今後の成長の為にも理由くらいは知っておきたい。


「はぁ…………これはこれでいい運動になると割り切ってますけどね。俺普段運動してないですし」


「現実でも運動はした方がいいですよ。こっちでの身体の扱い方も上手くなりますから………………あっ」


「ん、どうしました?」


「機動力上げるスキルの疲労は個人差があるって言ってましたよね?」


「え、はい」


「その人たちに普段どれくらい運動するか聞いたことありますか?」


「あんまり聞いたことないですね、運動しない人が多いと思いますけど」


 なるほど。だとすればこの仮説は間違ってないかもしれない。


「ところで、どういう意図があってこの質問を?」


「スキルの疲労の度合いは身体の扱いの練度に比例するのかと思いまして――――」



 立てた仮説というのは、スキルによる疲労は現実から乖離した身体の動きによるもの、という説だ。


 私は現実で色々と武術を習っていた影響で、身体の動かし方や扱いには慣れている。だからか、高速で移動したり飛んだりしても問題がない。

 一方、運動しない人程スキルによる激しい動きに身体が追いつかない。だから疲労が出るのだろう。



 我ながら悪くない説だと思う。筋は通っていると思うし。


 この説をレレイさんに話してみると……



「なるほど、現実での技術がゲーム内に影響するということですか。現実と変わらない感覚のこのゲームなら有り得ない話ではないですね」


「あくまで仮説ですからね。検証のためのデータ数が少ないですから確証はないです」


「そこは検証班の人たちに任せましょう。スキルを使うと必ず疲れるものだと思ってたんですが、まさか現実の動きから影響を受けるものだったとは……。皆運動不足だったんですかね」


「どちらかと言えば運動の量より、戦闘技術と言った方が近いかもしれませんけどね」


 高校に入ってからは表立ってはしていなかったけど、動きを忘れないように定期的に体を動かしていた。対人戦を想定した身体の動かし方も含めて。


 最早日課になっていたあれが今ここで役立つとはね。あれのお陰でこっちで好きなように出来るなら今後も続けよう。



 さて、残り時間が1時間15分。今までのパターンからして、そろそろ特殊イベントが来る頃だと思うけどどうだろう。


――特殊イベントが発生しました。残り時間45分まで、MPの最大値が0になります――

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