第64話 第1回公式イベント-15

 さて、第4Rでもまずは情報確認から。何をするにも、こういうのは最初にしておくべきだしね。

 鬼が10体、人数が1210人。エリアはどこかの離島って感じね。どこの島かは見覚えないから分かんないけど。制限時間は2時間だから、さっきみたいな延長が無ければ早めに終わるでしょう。



 ……それで、これは一体何?


 私の左手首には手錠がかけられていた。

 それから、長さ4,5mくらいの鎖の先に見知らぬ男の人の右手首があり、もう片側の手錠をかけられていた。


「あの」


「うわっ! 銀髪中二!」


「誰が中二病ですか、違いますからね」


「いや、その格好はどう見たって中二病では?」


 分かってたけど普通中二病だと思うよね。いっそ掲示板に否定の書き込みでもしに行こうかな。

 それにしてもこの手錠は一体何? とりあえず《鑑定》。


「あぁ、そういう……」


「どうしました? この手錠が何か…………はぁ、なるほど」


 この人も《鑑定》したらしい。運営の『一気に人数が減る』発言の理由はそういうことなのね。


 ただ動きを制限する為かと思いきや。この手錠、相当に面倒な品だった。


□□□□□

一蓮托生の楔 Lv.1

耐久力:∞/∞

繋がれた相手と一蓮托生となる手錠。繋がれた一方が死亡するともう一方も死亡する。

※解除不可

□□□□□


 なるほどね、このラウンドの仕様が大体理解出来た。準備時間が今回だけ1時間なのもそういう理由ね。

 とりあえず、この人とだけは協力が必要だから、ここはちゃんと話しましょうか。


「それでは、とりあえず話し合いましょうか」


「そうですね、自己紹介からしましょうか。俺はレレイです。Lv21で風の魔法とかよく使ってます」


「私はライブラです。Lvは25で、大体物理か状態異常で戦ってますね」


「Lv25……それで鬼に勝てたんですか」


「あの時は運が良かったですね。とりあえずこの後どうするのかと、互いに何が出来るかある程度話し合った方がいいと思いますが」


「そうですね。といっても、俺は多少回避と移動は出来ますけど、他は並程度のことしか出来ないです。ライブラさんのことはある程度掲示板で見ましたけど、姿を消すとか空を飛ぶとか、実際何が本当なんですか?」


「どっちも本当ですよ、試してみましょうか」


 まずは《自由飛翔》で空を飛ぶ。


 予想通りだけど、鎖の長さより高くは飛べないね。私に片腕で成人男性を持ち上げられる程の筋力は無いし。


「うおぉ……マジで飛べるんですね」


「ええまあ。それじゃあ、次は姿消しますね」


 今度は《無形の瘴霧》で姿を消す。

 あわよくば手錠がすり抜けないかと思ったけどそんなことは無かった。霧状態で形を変えても私の一部に引っかかったままだった。


「これ、完全に何も見えないですね……」


「こんなところですね、正直この状態だとメリットにはそれほどならなさそうですが」


「そうなんですか。ところで移動速度ってどんなもん出せますかね。俺は一応最高時速60kmくらいで出せるんですけど」


「私は大体時速80kmくらいですかね。でも繋がった状態の高速移動は引っかかって転ぶ未来しか見えませんが」


「マジっすか……俺これに関しては自信あったんすけど、これ負けてるんですか…………」


 あっ……なんか変な所で落ち込ませてしまったらしい。


「結局使わないでしょうし気にしないで大丈夫だと思いますよ……?」


「俺が抱えれば使えたと思いますし……でもマジかぁ…………」


「なんだかすみません。それより、今は移動しましょう。こんな状態である以上、見つからないでいられる方がいいです」


「は、はい、そうですね。どこにしましょうか……」


「理想は周りに見られにくくて、周りを見やすいところがいいですね…………」


「そんな都合のいいとこありますか? 山はありますけど、山の中にでも行きます?」


「そうですね、山頂付近にある展望台にでも行きましょうか」


「え、なんでですか? そういう目立つポイントだと人もいるんじゃ……」


 何を言っているのか分かっていないような顔をしながら質問された。


 私としては、他のプレイヤーとは非協力で、利用するスタイルにしたいと思っている。

 ここは譲りたくないので、これが当然であるかのように笑みを浮かべながら返す。



「それがいいんでしょう。人がいれば囮にして逃げられるんですから」


「き、協力とかはしないんですか?」


「必要に応じてならしてもいいですが、基本するつもりは無いです。そもそも味方では無いんですから、利用するに限りますよ」


「……分かりました、そう言うのなら従いましょう。じゃあ早速向かいましょうか」


「そうですね、ありがとうございます。作戦会議はこの辺にしておきましょうか」


 レレイさんとは協力しておきたいから、今同意して貰えて助かった。


 話が着いたところで、私たちは今居る海沿いの道路から山頂に向けて移動することにした。




「――それにしても、この手錠邪魔ですね。利き手に付けられてないのは幸いですが」


「完全に物理的に拘束されてますからね。魔法的な力で、繋がってても鎖はすり抜けるとか、なってて欲しかったんですけどね。利き手に関しては俺左利きなので、そこは丁度良かったです」


 今は広葉樹林の中の登山道を歩いている所だ。展望台までは30分程かかりそうだったため、雑談を挟みながら歩いていた。


「後ろ側で歩きにくくないですか?」


「いいえ、寧ろこの方がいいですね」


「そうですか? ライブラさんが前に出てもいいと思いますが」


 今はレレイさんが前で、私が3m程開けて後ろを歩いている。こうする理由に関しては正直適当に言っている。


 だって、私が山道なんて歩こうものなら遭難待った無しなんだから。タブレットで現在地付きの地図は見られるけど、山道で歩きタブレットは危険でしょうし。


「移動は基本縦並びでしましょう。山の中、特に木々の中で横に広がったらまず間違いなく鎖が引っかかりますし」


「それは異論無いんですが、前後は臨機応変に変えましょう。鬼を撒くのはあんまり自信ないです」


「なら私がラウンド始まったら前に出ましょうか。鬼を撒くのについてなんですが……何mくらいの高さなら飛び降りられますか?」


「はい? 飛び降りるんですか?」


「はい、この辺り崖があちこちにありますし、視線を切るのに使えるでしょう。それに展望台でも、上に登る所から鬼がきたらどうするんですか」


「そう言われても、落下の衝撃を吸収するスキル持ってないんですよね……」


「そうでしたか……。五点接地は練習無しだと厳しいですし……私がどうにか頑張ります。地面は土ですし、速度を落とすようにして落ちれば大丈夫でしょう」


 頑張るとは言うものの、この人体型は痩せ型だけど身長は私より少し高いんだよね。そんな人を片腕で支えようものなら脱臼とかのリスクがある。

 私のスキルで使えそうなのは無いし、何か方法は……


「あ、レレイさん。風の魔法使ってるって言ってましたよね」


「え? はい、そうですね。何かありました?」


「スキルの中に任意の方向から暴風を吹かせられるようなものってありますか? 具体的な名前とかは出さないでも大丈夫ですけど」


「なるほど、下から風を吹かせて速度を落とすってことですか。そうですね……《強風・面》っていうのなら使えますかね、ダメージは発生させずに一方向に風を放てるんですが」


「そういうこと言ってよかったんですか? とにかく、性質自体は問題無さそうですし、風速が出るならそれで行きましょう」


「同じスキル持ちは結構居ますから、掲示板でも見ましたしそこは大丈夫です。風速は……受けたこと無いので分からないですけど」


「でしたら一発本番で行きましょう。今試してダメージを受けたら笑えませんし」


「それもそうですね。……あ、展望台ってあれですかね?」


 視界の奥に灰色の建造物らしき物が見えた。周りには2ペア、4人の人影も見える。

 しばらく歩くと、展望台の全貌が見えたのだが……


「あれ、展望台って言っていいんですか? どっちかと言うとただの高台では……」


「遠くが見られるから、あれは展望台。何も間違ってないですよ」


 展望台と名のついたそれは、100%コンクリート製で、高さ5m程の階段があるただの高台だった。


「周りは見やすいのに違いないですし、私としてはあれでも問題は無いですけど……」


「とりあえず登って開始を待ちましょうか」


「そうですね。いつの間にかあと5分ですし、準備しておきましょうか」


 周りにいた人たちが、いつも通り私を見て色々言っていたけど今はスルー。囮に使うまでに駄目にする訳にはいかないし。


 さて、枷を掛けられた状態でどこまで上手く逃げられるか……

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