第67話 第1回公式イベント-18
「思ったより地味ですね」
「張り紙から机に椅子まで何もないですからね。人が使ってる訳ではありませんし」
校舎の中に入った私達は3階から教室を見て回っていた。この学校の校舎は北と南の2つの建物が渡り廊下で繋がっていて、外から見えた時の倍の広さがあるらしい。
隣の教室に移動して引き戸を開き、中を一瞥する。
「ここにも居ませんね」
「上の階なら人多いと思ったんですけどね。あ、もしかしてロッカーの中にいるとかありますかね。こういうのあるあるですし」
「そんなことあります?」
「知りませんか? 教室の中に入っても誰も居ない、でも本当はロッカーの中に隠れて……っていうのがありまして」
「そうなんですか。でも今は2人ペアで行動してるんですよ? この掃除道具を入れるためのロッカーに2人も入らないでしょう」
教室の隅にあるロッカーを確認する。
この狭さに2人も入るとは思えないけど……一応見てみましょうか。どれどれ……
「ひぃぃっ!」「うそっ!?」
ロッカーの中には、14と16歳くらいの女子2人組が密着して入っていた。
まさか本当に入っていたとは……
幾つか聞きたいことが出来たため、《恐怖の瞳》を弱にする。
「……あなた達はこんな所で何してるんですか」
「こ、殺さないの……?」
「何言ってるんですか、攻撃出来ないのはあなた達も分かってるでしょう」
「へ? 鬼じゃなくてプレイヤー?」
「そうですよ。一体何をもって鬼だと思ったんです?」
「その威圧感とこの恐怖感。鬼じゃなかったら何なんですか……?」
恐怖はともかく威圧感なんて出てるかな?
話が遅くなるのは面倒だから、今だけ眼帯は付けておこう。
「それで、私の質問には答えて頂けないんですか?」
「隠れてるだけよ。上の階の窓から東と西の入口を見て、鬼が来たら中に隠れる。これで生き延びてたの」
「さっき門から鬼が入ってきたと思ってて。それで隠れてたんですけどあなただったんですね」
鬼だとしたらこの手錠は付いてないでしょう。一体何を見て言ってるの。
「後ろの人は見えてなかったのよ。今も後ろにくっついてるし、どういう役回りなの? 寄生?」
「酷いこと言いますね?! 俺別に寄生じゃないからな!」
そう言っても今まで特に何もしてない気がするけどね。
「レレイさんのことは置いておいて、とにかくありがとうございます。ところで、入口が2つと言ってましたがもう1つはどこにあるんでしょうか?」
「窓から見渡せば分かりますよ。まあ、教えますから着いてきてください」
2人が窓の方に歩いていったので私もそれに着いていく。
「ほら、右のあれが西門で左のあれが東門です」
「なるほど……。あら、あれ鬼ですかね?」
「やばっ!? あなた達も逃げた方がいいよ。私たちはここで隠れてるから」
丁度西門から鬼が入って来るのが見えた。
「そうですね、私たちは逃げますのであなた達はここから動かないでおいてください」
「へぇっ!? ちょっと何、何するの!」
窓を開けた後、背の低い方を抱えて外に放り出す。足場などは無いので当然地面に落ちていく。
「いやああああっ!?」
「何するの、ってうわぁああっ!」
2人は鎖で繋がっているので、背の高い方の人は外に引っ張られるが、ここで2人共々死なれては困るので窓を閉めて止める。
「いだあっ! あ、あなた、何のためにこんなこと……」
「囮にするためですよ? 宙吊りになってる彼女は外の鬼のヘイトを集めるのにちょうどいいでしょう」
「だからって、なんでこんな方法で……」
「私が面白いからですよ? この下はコンクリートですから、あなたは落ちたらまず助からないでしょう。でも落ちなければ下の彼女は鬼にやられます。さて、どうしますか?」
ダメージは与えられないと言ってもダメージを受けない訳では無い。高所から落ちるとかの自然現象によるものなら普通にダメージを受ける。
「な……なら終わるまで耐えてやるわよ!」
「そうですか。あなたのその細腕が残り50分もちますかね? この手錠、腕の部分が薄い金属板になってますから腕に圧力が集中するでしょう。それに下の彼女が攻撃を避けるために揺れたりもしますよ?」
「はぁっ……それで、何が言いたいのよ」
「腕が切れるまで耐えられるといいですね、というところですか」
「……っ、あなたなんなの?! この狂人! サイコパス! 精神異常者!」
そんな恨みがましい顔されてもね。何が悪いって言われても、あなた達が迂闊だったせいとしか言いようがないんだけど。
順調に鬼は餌に釣られているようだし、機動力の低いタイプの鬼だから時間も稼げそうね。しばらくここに居ましょうか、見てて面白いし。
それから5分、吊り下げられている方は4m程の高さを使ってどうにか攻撃を避け続けているようだった。
一方、上で耐えている方はと言うと……
「っ……はぁっ…………うぁっ…………」
「どうしました、まだ5分しか経ってませんよ? 」
手錠にかかる力によって血が流れ始めていた。
「ひぐっ…………お願い……やめ、やめて……」
「そうですね……残り時間45分まで、あと1分で終わりましょうか」
「……!」
泣きながら悶えていた中、一筋の光明が見えたような顔をする。
今はこの人が外に引っ張られて落ちないように、私が窓を押さえている。
――特殊イベントが終了しました。MPの最大値が元に戻りました――
さて、時間になったね。釣餌は十分に仕事をしてくれたようで良かったよ。
「じ、時間でしょ。終わりにするって言ったよね?!」
「そうですね、これで終わりましょうか。ここまでありがとうございました」
そう言った直後、窓を全開にして押さえていた手を離す。
「う、嘘!? 何で! 終わりにするって」
「助けるとは一言も言ってませんからね。さようなら、それなりに面白かったですよ」
外側に引っ張られるのから抗おうと、あちこちにしがみつこうとするのでその手を払う。
「やめ、やめて! 待って! 嫌っ、いやああぁぁぁああっ!」
「ふふっ、さようなら」
窓の外に引きずり出されると、体勢を整える余裕もなく頭から下に落ちていき……
間もなく鈍い音を立てて頭がコンクリートに激突した。
「それじゃあ、MPも戻りましたし行きましょうか」
「い、いやいや……。あっさりし過ぎでしょう! というかドン引きですよ」
「ほら、このまま居たら鬼がやってきます。さっさと逃げますよ」
「ちょっ、ライブラさん! いや、ええ……?」
それじゃあ、どこか別の逃げ場探しに行きましょうか。
「――ところで、あの怖がらせる奴はしないんですか?」
「あれですか、一応あなたに気を遣って使わないでいるんですけどね」
今は学校の敷地外に出て住宅街に入っている。定期的に《心の目》を使って周囲への警戒を怠らないようにはしている。
「今更気を遣わないでもいいですよ、あんな好き放題にしていたのを見てたんですし」
「あんな……ですか? かなり優しいというか、優しくせざるを得なかったですけどね。攻撃出来ませんし、スキルも使えませんでしたし」
スキルと攻撃が制限無かったとしても、出来るのは私のやりたいことを全力でやったとは言い難い。
だって今の私じゃレパートリーに限りがあるからね。
「また言いますけど、観戦者には見られてますからね」
「知ってますよそれは」
見られるのは構わないし、そもそもどうしようも無…………あれ?
1つ気になって《インベントリ》を確認すると、ガラス玉が2つ入っていた。
これ、まだ残ってたのね。第3R専用なんだと思ってた。
□□□□□
プライベート用ビー玉 Lv.1
耐久力:20/20
使用から1時間、映像媒体に自分とその周りを映さないようになる。影響範囲から出ると効果時間の減少は2倍になる。
□□□□□
これは……もう使う意味も無いし仕舞っておきましょうか。
「さて、気を遣わなくていいとのことですし、遠慮なく狩りましょうか」
「あの、目的変わってません?」
「そうでした。では、囮を探しに参りましょうか」
「いやそれも違うでしょう」
突っ込みは置いておいて、囮もとい餌を探しに歩き回ることにしようか――
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