第49話 第1回公式イベント-3

 定期的に《心の目》で周囲に警戒しながら街中を移動する。曲がり角や、ビルの上には特に注意する。御影は高く飛べるらしいからね。


 さっきの忍者からの情報は信頼することにする。このラウンドは勝ち上がる人数に制限はないので、他人を蹴落とすメリットは無い。

 わざと蹴落とすタイプの人なら、わざわざ目立つ格好をしたり集団に属したりはしないだろうし。



「うぉっ……」


「ビビった……」


 たまに人と顔を合わせることがあるけど、大抵こんなことを言われる。

 黒一色だし鬼と見間違うのかな?鬼両方とも黒色だったけど、体格とか色々違うでしょう。



 それで、今問題なのは後ろの人達。2人で一緒に動いてるようだけど、明らかに私に着いてきてるよね? バレてないと思ってるのかな? 正直既に30分以上付きまとわれていて鬱陶しい。

 直接問い詰めてもいいけど、今周りへの警戒を緩めて話をするよりは撒く方が良さそうだね。


 私は少し歩みを早めて、ビルが立ち並ぶ区域に入る。3方向をビルに囲まれた行き止まりがあったので、そこで《自由飛翔》を使い正面の3階建てのビルの上に飛び乗る。《密殺術》はMPが勿体ないので使わない。

 どれどれ、下の2人は…………気づいてないね。周りを見回してるけど、上は気にしてない。


「ふうっ……」


 全く、何しにイベントに参加してるの。さて、《心の目》で周りの確認を……


「っ…………!」


 右斜め後ろの上方、感知範囲ギリギリの所に、有り得ない挙動でビルを飛び移る反応があった。


 …………御影だ。


 右の方のビルを確認すると、黒い姿が目に入った。間違いない、私がターゲットになっている。


 急いで《密殺術》を使い姿を消し、《自由飛翔》で飛び上がった所に戻る。さっきの2人の姿もある。付きまとわれた恨みだ、擦り付けちゃおう。MPKは禁止されて無いし、見つかっても何とか出来ることがある強さにはなっている。


 まだ気付いていない2人の横を通り過ぎ、私は逃げた。




 鬼がもう追いかけて来ないことを確認して、一息つく。《密殺術》の効果も同時に切れた。

 そもそも姿が消えた時点で追いかけて来なくなっていたのかは分からないけど、逃げきれたらしい。


「はぁ……危なかった」


 第5Rまで残るつもりなのに今やられたら形無しという他ない。


「あの男達…………」


 付きまとわれていなかったらビルの上に行くことも無かったし、気付かれることもなかった。

 まだ少々イライラするけども、擦り付けられたのだからもう気にしないことにしよう。


 それにしても、5分毎に移動が必要となると中々大変だ。残り3時間20分で3750人まで減っている、さっきまでと比べて倍以上のペースだ。




 はぁ…………結構しんどい、特に精神的に。常に周りに警戒をし続けるのがここまで大変だとは。1人だから気を抜く訳にもいかないので仕方ないけど。

 残り時間は2時間2分、人数は2707人。リスク回避のために動かざるを得なくなってから、人数の減る速度が落ちない。


 でも最後の5分毎の100m移動は終わっているので、ここからは動く必要は無くなる。


「疲れた…………」


 うん、MPも少ないし回復薬を使っておこう。もしアイテム使用禁止にされてたら大変なことになってたね。


――特殊イベントが終了しました。これ以降、鬼に通達が行くことは無くなります――


 やっとだ。ここからは人の減るペースも緩やかになるだろうね。私もこの住宅街の一軒家のベランダから動かないでいよう……


――特殊イベントが発生しました――


「は?」

 え?まだ何かさせるの?やめて。普通に疲れてるから、もう休ませて。


――残り時間2時間から1時間まで、メダルの入手量が2倍になります――


 それだけ……? なら助かった。

 メダルは移動時にたまに見かけたので、触って獲得していて今は6枚。メダルで交換出来る報酬は重視してない上、ほとんど前半はビルの屋上で引きこもってたので数は少ない。


 なるほど。さっきはデメリットで人を動かしたけど、今度はメリットで動かそうってことね。とりあえず意図は理解した。

 やっぱり安全第一。ここなら周りからほとんど見られないし休憩しよう……

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