第12話 打算と交流

 はぁ、どうしようかな。


 鯉登の幟竜を倒すことに私の興味、関心は引かれていた。人を相手にすることを一旦頭の端に置いておく程……


「……いや、それはないかな」


 殺人はこの世界における私の生き甲斐とも言える。それを考えないなんてことは絶対に無い。

 そして、円滑かつ快適に殺人をするためには強さが必要なのだから、あの鯉にはその踏み台になってもらおう。


 それよりも今直面している重要な問題が2つある。

 1つ、【骨折】の状態異常が未だに治らないこと。どうやら、スキルの治癒や回復薬では治せないらしい。状態異常は自然回復もするらしいが、正直それは待っていられない。

 2つ、服に血が滲んで見た目が酷いこと。替えの服は《インベントリ》に入ってはいるが、こんな野外で着替える訳にもいかない。

 更に厄介なのが、2つとも死に戻りで解決出来ないであろう点。前者は事前のネット情報、後者は前回の死に戻りから分かっている。


「あの、大丈夫ですか……?」


 これからどうしようか考えていたところ、金髪青眼の女の人に話しかけられた。男女2人組で、見た目の年齢は2人とも17,8歳くらいのようだった。



「大丈夫、とは言い難いですね正直……」


「やっぱり……見るからに大変そうですもんね。痛みとかは大丈夫ですか?」


「痛みは大丈夫ですね、それとは別の問題がありますが……」


「そうですか、ならとりあえずは良かったです! やっぱりリアリティは低めにしますよね」


「いえ、それなら100%ですが?」


「100!? そ、それってどういう……それに、治癒とかはされたんですか……?」


「出血は止まったんですが、骨折がどうにも治せなくてですね。何か治療方法ご存知ありませんか?」


 そう尋ねると、今まで会話の蚊帳の外だった男性の方が口を開く。


「あー、ここから少し歩いた所に公民館があって、そこでプレイヤーがたまに治療所やってるんすよ。もし良かったら連れて行きましょうか? リルはそれでいいか?」


「え、うん。私は大丈夫だけど」


「それじゃあ行きますか、えっと……」


「あ、名乗ってませんでしたね。私はライブラといいます。お願いしたい所なんですが、右脚が折れたので……多分歩けないんですよね」


「そうですか……あ、俺はザラっす」


「私はさっき呼ばれた通り、リルです」


「とりあえず、俺が抱えて行きましょうか、触れて大丈夫ですかね?」


「はい、お願いします」


 都合が良く助かるので、素直に赤髪黒目の男性、ザラの提案を受ける。

 その抱え方が所謂お姫様抱っこと呼ばれるものだったが、色恋沙汰には興味無いため、特に何も思うことはなく素直に運ばれる。


「じゃあ行きますね、何か問題があれば言ってください」




 その後、とりとめのない雑談をしながら歩くことこと十数分。周りの民家に比べて大きい建物の入口にたどり着く。


「あ、着きましたよ。ここの1階でやってるんすけど、居ますかね……」


「ん? ザラ、新しい女の子連れてきてどうしたの。ふふっ、リルちゃんもいるっていうのに」


「ちょっ! 何笑ってんすか、しかも語弊があります。ただ怪我してたっていうんで連れてきたんですよ。今の俺たちじゃ治せないんで」


「そう? じゃ、こっち連れて来てくれる? 今の時間私しかいないから」


 この女性が治してくれるのだろうか。そういえば、ここ代金は幾らかかるんだろう。すっかり聞き忘れてた。


 促されるままいると、簡易的な治療室のような場所に運ばれる。あるのはベッドと机椅子だけという、極めてシンプルな場所だった。


「さて、私はカミラって名前でやってるよ。よろしくね。治す症状は何かな?」


「えっと、左腕と右脚の骨折ですね。回復薬もスキルも効かなかったので。あ、あと代金はどうなるんでしょう」


「状態異常回復はHP回復とは別になるからね、すぐには習得出来ないのよ。骨折2ヶ所なら代金は2000ネイだけど、特別に半額でいいよ。1000ネイならあるかな?」


「えっ……それって、採算取れるんですか? それに代わりに何かするようにとか……」


「無い無い! ただあなた、始めたばっかりみたいだからね。因みに私はβからやってるけどさ。採算に関しては場所代もかかってないし、不定期で交代やってるだけだから大丈夫。それじゃ、早速直すよ」


 そう言ってカミラは患部に手をかざすと、瞬く間に骨折が治る。


「はい、治ったよ。おまけに服の汚れも綺麗にしとくね」


「ありがとうございます。それでは代金は……」


 代金について尋ねようとすると、目の前にウィンドウが現れる。


 えっと『商売システム――請求:治療費……1000ネイ』こんなことも出来るのね。支払い、っと。


「はいOK。それじゃあ、気をつけてね」


「ありがとうございました」


 FIWは自由なゲームなのは知ってたけど、商売まで出来るとはね。自由に好きなことが出来るというだけはある。



 って、2人ともわざわざ待ってたのか。それにしても2人って一体どういう関係なんだろう。


「あ、ライブラさん。おかえりなさい」


「大丈夫でした? あの人たまに変なこと言ってくるんすけど」


「何もありませんでしたよ。良い人でした」


「そうっすか。なら良かったっすけど」


「ライブラさん、この後は何を?」


「あまり決めてませんが、倒せる魔物を探しに、出来ればダンジョンみたいなものがあればいいのですが」


「ならこの近くの大型病院がいいっすよ。階層を選べるタイプのダンジョンで、自分の実力に合わせやすいんで」


「そうなんですか、ありがとうございます。行ってみることにします」


「そうだ! ライブラさん、よかったらフレンド登録しませんか?」


「……リルさん。まぁ、構いませんが……ザラさんはどうでしょうか?」


「えっ、俺も良いのなら、お願いします」


――フレンドに『リル』を登録しました――

――フレンドに『ザラ』を登録しました――


 出来た。なるほど、フレンドになればログイン状況とチャット機能を使えると。


 特に断る理由も思いつかなかったため、受け入れることにした。どうやらシステム的に直接会わないと、フレンド登録は出来ないようだ。


「ところでお2人はこれからどこに行かれるんですか?」


「病院のダンジョンに行くんすよね? 俺達はそことは別の場所に行くので、ここで別れますか」


「そうでしたか、それではまたいつか会いましょう」


「ええ! チャットで連絡は取れるから、また会いましょう」


 本当助かりましたよ、また会いましょう。そしていつかは全く別の形で……。

 まぁ、それはもう少しレベルとかを上げてからでもいいか。


 そうしてフレンドになった2人とは別れ、病院のダンジョンに向かうことにした。

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