第11話 池の主に

 池の畔を歩きながら1つ考え事をしていた。

 その内容はと言うと、今のままでは対応出来る相手の範囲が少ないということだった。


「あれも偶々だったからなぁ」


 色々と武術経験はあるけれど、投擲に関しての経験は無い。先程は身体能力と感覚で無理矢理成功させただけに過ぎなかった。

 それに物理以外の攻撃手段、魔法についてもだ。スキルも含めて完全に物理で固めてしまっている。それ即ち、物理が効かない相手イコール詰みということになる。

 既に物理が効かない相手に出会ってしまっているので、そのような相手は存在しないなどと一蹴することも出来ない。


「そういないと思ってたんだけど……」

 しかし、最初にして最大の問題、どう習得するのか分からないという問題があるせいで、手詰まりになっている。


 考えても最初の糸口が見つからない。これも一旦置いておくしかないか。

 何だかこの世界に来て見て見ぬふりをしている問題が多い気がする。


 だってしょうがない。本当にどうしようもないんだから。

 それより今どうにか出来ることを考えるべきだよね。遠距離攻撃くらいはどうにかしないと。


 何か丁度いい的でも……


「お」


 アメンボ…………アメンボなのあれは? 1mは優に超えている気がするけど。


 陸から10数m離れた辺りの水面にアメンボが数匹漂っているのを見つけた。丁度いいしあれにしておこう。その前に一応《鑑定》だけ。


□□□□□

流浄の水黽 Lv.10

HP:800/800 MP:2160/2400

耐性

火:50 水:50 氷:-50 雷:-50 風:0 地:0 光:0 闇:0 物理:0

□□□□□


 意外と魔法寄り、それも癒し系だったらしい。……ちょっと意味が違うか。


 まぁ関係ない。潔く的になってもらいましょうか。


 先程と同じ要領で短剣を投げては《インベントリ》に入れ、というのをアメンボ相手に1時間ほど勤しんでいた。

 このアメンボは1発当てただけでは死なず、攻撃を受けたらすぐに1度沈み、少し経つと元気になって戻ってくる。どうやら水中で治癒でもしているらしい。


 倒すのなら中々面倒な相手だっただろうけど、今ならむしろ都合がいい。命中精度も上がってきているし、1度ここらで休憩でも……


――《チュートリアル》危険な状況を感知しました、逃走を推奨します――


「……え?」


 あれと同じ様なのが居るの、こんな所に? でも一体どこから……池か!


 頭の中に、あの闇の時と同じアナウンスが流れる。すぐにアナウンスの元が池だと勘づき、急いで離れて身を隠す。

 そばの木の陰に身を隠して間も無く、池の中から巨体が水上に現れた。


「ゴォォォォォォ……!!」


 鯉を大きく長くしたようなフォルムの――正に激流を遡ることで龍となったような、黒く胴体に鱗を纏った鯉らしき魔物だった。


 見た感じ太さは少なくとも2mあって、長さは……上に出てる部分だけで10mはあるよね? どうなってるのこのサイズ……。


 ダメ元で鯉に《鑑定》を使用するが、予想通りの結果となった。


□□□□□

鯉登の幟竜 Lv.40

※詳細鑑定不能※

□□□□□


 うん。そりゃそうだ、見れる訳が無い。寧ろ見れたあの闇の方がおかしかったんだ。


 さて、どうしよう。まぁどうしようも何も、逃げるしか無いんだけど。

 流石にあれ相手に戦おうとは思わない。どう考えても物理的に無理だし、とにかく離れ…………


「ゴォォォォァァァ…………」



 まずい、絶対何か攻撃しようとしてる音だ。考えてる暇は無い、スキル全開で逃げよう。

 《追風・中》! 《隠密》! 逃げる!


 何かを溜めるような音を背に、全速力で後ろを見ることなく走った。


「ギェァァァァァァ!!!!」



 が、すぐ何が起きたか理解することになった。


 所謂ドラゴンブレスというのだろう、ブレスによって大量の水が高圧で放射され、波となったブレスは辺りを地形ごと押し流した。


 全速力で逃げていた私だったが、すぐに波に飲み込まれた。

 激しくうねる波の中で私はどうすることも出来ず、体のあちこちを打ち付けられ、止まったのは200mほど流された後だった。



「はぁ、はぁっ……ゲホッ、ガハッ…………。いっったぁ…………」


 全身から酷い痛みがする。左腕と右脚に関しては折れている感覚がある。水がひいたからか、血も流れ出し始めた。

 自分で言っていてかなり酷い有様だ。ステータスは……


□□□□□

ライブラ Lv.10

HP:18/1090 MP:116/253

耐性

火:0 水:0 氷:0 雷:0 風:0 地:0 光:0 闇:0 物理:0

スキル

《鑑定》《インベントリ》《チュートリアル》

《追風・中》《跳躍・中》《治癒・弱》《静音・弱》《隠密》《首斬り》《暗殺・中》《閃撃》《見切り》

※状態異常:【出血】【骨折】

□□□□□


 ステータスでもかなり酷いことになっていた。応急処置としてHP即時回復薬と《治癒・弱》を使う。

 出血は止まったけど、骨折は治ってない。痛みも引いたとはいえまだあるし……。


 辺りを見てみるとかなり酷いことになっている。木々から岩、地面まで押し流されていた。


 津波があったと言われても違和感はなさそうな有様ね。

 それに人もちらほら見えるけど、どこも惨憺たる有様だね、これ。私は池からある程度離れてこれなんだから、あの時近くにいたらしいあの人達は……多分死んだんでしょう。


 それにしても、ブレス1回でこんなになるとは、実際戦ったらどうなるんだろう。


「はぁぁ…………」


 今回はもうしょうがない。策もなく力量差の大きい相手に相対したのだから、こうもなるよね。

 だけど、レベルとスキルの強化をしたらもう一度来よう。そして――


「次は絶対に殺す」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る