第10話 名前ばかりの闇の鴉

 手応えのある相手と出会えない。


 街中だからか、魔物はネズミだとかの小動物しかいない。人に関しては何度かすれ違っているし、今も視界に入ってはいるのだけど、大抵Lv20以下ばかりで仕様上相手に出来ない。


 それにしても、すれ違う人達の服装がシャツやらジャージやら普通のものだから、現実世界だと錯覚しそうになる。人数が少ないことに目を瞑ればだけどね。



 っと、ここは……公園かな? かなり広いね。池に雑木林らしい所もある、何より魔物と戦ってる人がいる。

 なるほど、狩場ってやつかな? 戦うには悪くなさそうね。他の人が相手してる所に横入りする意味も無いし、暫くはこの辺りで相手を探すことにしよう。



「ん? あれは……カラス?」

 電線にカラスが2羽止まっていた。まずは《鑑定》。


□□□□□

幽夜の闇鴉 Lv.12

※詳細鑑定不能※

□□□□□


 うわぁ……何とも名前が滅茶苦茶中二臭い。というか、闇ってあの時の闇とは関係あったりする? また即死させられるのは勘弁して欲しいんだけど。

 名前からして闇属性の攻撃をしてくるとは思うし、狙ってみてもいいかな。ただ、いかんせん居る位置が高い……4~5mくらいかな。《跳躍・中》があっても届かなさそうだし、降りて来ないかな。



 カラスをこちら側に引き寄せるために近付いてみる。だが、動く素振りは一切見られない。


「来ない……」


 明らかにこっち見てるし認識してるはずなんだけど、攻撃する素振りを見せない。遠距離攻撃手段が無い? Lv格上だしそれでも近付いて来そうなものなだけど。


 どうしよう。1度狙いを定めたのに諦めるのは何だか癪だし、何か遠距離攻撃手段でも…………


「あ、これ投げれば行けるかな?」


 双剣を投げて攻撃すれば良いんじゃない? 刃の部分も真っ直ぐだし、案外上手く飛びそうだし。

 それに《インベントリ》を使えば離れた位置にある物も、自分の所持品なら戻せる仕様になっているようだったから問題なさそう。


 よし、物は試しだ。スキルも使って…………《閃撃》!


 助走を付けながらスキルを使い、カラスに向けて短剣を投げる。


「ギャァァァァァ!!」


 剣はカラスに向かって勢い良く真っ直ぐ飛んでいき、鈍い音を立てながら地面に落ちた。


 よし。《インベントリ》で剣を回収して……取り出してと。さて、もう1羽の方も臨戦態勢になってる。一体どんな攻撃をしてくるのかな。


「ガァァァァ!!」


 カラスは突然飛び上がったかと思えば、いきなり加速してくちばしから突進してくる。慌てて防御したが腕を掠めてダメージを受けてしまった。


「っ……あっぶない! というか闇はどこ?!」


「ガァァァ!!」


 また突っ込んで来たけど1度見た攻撃だし、今度は問題なく避けられた。

 まったく、闇と名乗っておきながらスピードと物理でゴリ押してくるタイプだったとは。名前詐欺が酷い。


 そういえばHP即時回復薬なんてものがあったね、すっかり忘れてた。片腕使えないのは双剣使うにも問題だし、折角だから使ってみるかな。カラスはこっちの様子を伺って攻撃して来ないし、今のうちに……。


 《インベントリ》から、HP即時回復薬を取り出す。すると、試験管にゴムキャップの付いた青色の液体が手の中に現れる。


「えーっと、これはどうすれば……」


「ガァァァァ!!」


「やばっ……」


 カラスが再びこちらに飛んできたのを確認し、慌てて攻撃を受けた腕に中身をかける。すると、あっという間に液体が乾いて痛みが引く。その後すぐ、傷が治る感覚が来て、外傷は無くなった。


 ふぅ、危ない。さて、これでちゃんとカラスの相手が出来る。

 またこっちを見て様子を伺っているらしいけど、もう見切った。これ以上攻撃を受けるつもりは無い。


「ガァァァァ!!」


「はっ!」


 カラスが突っ込む軌道を読み、そこから横に一歩引く。そして、カラスが懐を通る一瞬を狙い、居合切りの要領で叩き落とした。


――幽夜の闇鴉を倒しました――

――220ネイを獲得しました――

――Lv10に上がりました――

――スキル《見切り》を獲得しました――


 ふぅ……。あんなスピードだと威力はあっても方向転換なんて出来るはずも無いよね。1回目に当たったのはちょっと失敗だったけど。

 さて、今回のスキルは……


□□□□□

《見切り》

MP:1 CT:0秒

効果:対象の動体視力増加。

※1秒毎にMPを1消費し続けることで効果を継続させる。

□□□□□


 なるほど? 使い続けると同時にMPを使い続けるから、自分で使い始めと終わりを見極める必要があると。攻撃を読んでスキルを使い始められればかなり強いだろうけど、使いこなすのは中々大変そうね。


 それにしても、手応えはあったんだけどどうにも腑に落ちない。あのカラス、名前と戦い方が噛み合ってない。あれはカタパルトとかそういう類のものだと思うんだけど。


「ん?」


 一瞬気のせいかと思ったが、周りにいる数人の人達に見られていることに気付く。


 とりあえずこの場から離れておこう。公園の敷地内から出るつもりはないけど、まだ何か居るかもしれないし。


――60ネイを獲得しました――


 そう考えて歩き出した途端、頭の中にアナウンスが響いて足を止める。突然何かと思ったが、少し考えて何によるものだったのか気付く。


 あっ、さっき落とした方のカラス、死んでなかったのね。すっかり忘れてた。


「まあ、どうでもいいか」


 カラスのことは頭の中からすっかり抜け落ち、また別の相手を探しに歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る