第22話 優姫を逃がしたくない!

私は逃げた。現実から逃げた。




スマホの電源も切って、ただどこかに行きたかった。




近くの散歩コースをさまよっていた。




無性に周りの目が気になる。


皆私のことを嘲笑っているように見えた。




もっと遠くに逃げたい。




私は新幹線に乗ることにした。




が、しかし…




駅に向かう途中のことだった。




「花宮さーん。」




息を切らしながら柴田翔が追っかけてきた。




間が悪い。悪すぎる。




走って逃げようとしたとき、腕をつかまれた。




周りの人達が私たちを白い目で見てくる。




「花宮さん、待ってください。どこに行くんですか。


みんな心配してます。連絡くらいしてください。」




そんなこと言われたってそっちこそ...。


「なんでこんなところにいるのよ!もう私のことは気にしないで。」




腕を振り払おうとしても翔がつかむ手は強かった。




「はなしません。僕は花宮さんのことを気にかけないなんて、できません」




翔の目はうるんでいた。




もうやめてほしかった。私のことなんて気にかけないでほしかった。




「探しました。会社に来てなくて、連絡もつかなくて、兄となんかあったのかとか色々考えちゃって…。」




「勝手なことしないでほしいんだけど…。」




「勝手なのは花宮さんのほうです。僕に黙って兄に会って、それで翌日会社に来ないなんて。」


「なんで昨日のこと知ってるの?」




「兄から聞きました。」




「はあ、あなたたち兄弟は本当に仲がいいのね。」




呆れた。


全部筒抜けなのだろう。




「それで?私は柴田に何を言われようと、会社に戻る気はないけど?」


「え?そ、そうですか。じゃあ、どこに行こうとしてたんですか?」




「そうね…。京都…かな。」


「きょ、京都ですか?」




あまりに予想外でびっくりしていた。




現実から逃げるんだもん。そのくらい遠くに行かなきゃ。翔はなんだと思っていたのだろうか。




自分の腕時計をちらっとみたり、スマホを覗いたり、忙しそうに動いた後、翔が言った。




「僕も京都行きます。」




はあ!?




この時の私は呆れすぎて、きっとひどい顔をしていたにちがいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ニートがバレたあの日から私の人生は変わった 芹沢ジュネ @june_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ