第20話 尚の気持ち

あの日、俺の口から出た言葉は、自分でも信じられないものだった。




大切な部下であり、密かに好意を抱いている女性であったのに…。








俺は、花宮の能力をはじめっから評価していた。


俺が一度言ったことはしっかりできていたし、周りへの配慮もできていた。




女性ということもあってか、社内での評価は平行線だった。




花宮はもっと評価されるべきだ。


俺は悔しかった。




俺はある時、課長に花宮はもっとできる人だと言った。


課長はその言葉を信じて、次の案件は花宮の担当にしようと言ってくれた。




それからというもの花宮の評価はどんどん上がって、花宮の担当はどんどん増えていった。




花宮は明らかに疲れていた。




俺が課長に言ったせいだ。


俺は自分を何度も責めた。




花宮はため息ばかりついていた。


俺がコーヒーを渡すと、無理に笑顔を作っていた。




俺は何もしてあげられなかった。


それでも花宮はやってのけた。


嬉しかった。




俺はこの気持ちを伝えようと思った。


そして、好意も伝えようと思っていた。




そんな矢先、花宮は課長補佐に気に入られて、付き合い始めたという噂が立った。




俺が何もできなかった間に、課長補佐は上司として花宮を助け、花宮を射止めたのか…!




悔しかった。情けなかった。




例の飲み会の日、俺はわざと花宮の前に座った。


そして、花宮と課長補佐の関係を伺うように観察した。




課長補佐は、当たり前のように花宮の隣に座り、終始仲睦まじく話していた。




あの噂は本当だったのか…!




俺はいつもより早いペースで飲んだ。




それであんなことを言ってしまったんだ。




どんな理由があれ、許されない。




だというのに、俺は花宮と再会を望み、さらには許しを乞おうとしているなんて。




ほんと、サイテーだな…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る