第3話 芦田光との出会い

"叔母さんのレストラン、従業員募集してたわよ"






母からのメモは"働け"と強く主張しているように見えた。


「結局、お母さんは私のことダメ娘だと思っているのね。」


ため息が出た。


そりゃそうだよな。






私は履歴書を握りしめて、コンビニに向かった。


叔母さんの所で働くのは嫌だった。




「いらっしゃいませ。」


「あ、あのー、アルバイトの…」


「あ、面接ですね。少々お待ちください。」






はぁ、結局、母に働けと言われれば、働いてしまう。母の言う通りにしか生きられないのね。






「では、今日中に結果は連絡させていただきます。」


「はい。よろしくお願いします。」




落ちたかな。まぁ、いいや。


「あの、花宮優姫さんだよね?」


あ、レジのお兄さん。


「えぇ、そうですけど。」


「やっぱり!俺だよ!芦田光!」


「え!あ、あしだみつ、、、?」


「忘れた?笑 まぁいいや。俺と花宮さん、そんな喋ったことないもんな。」


「えっと、、」


「中2のときのクラスメイトだよ!」


「あぁ、」


「悲しいな、そんなに俺影薄かったっけ?笑」


チャラい。早く逃げたい。


「あ、あの、私急いでるんで!じゃあ!」






走って家まで帰った。


あそこでは働きたくない!お願い!落として!


芦田光は中2の時、たしかにクラスにいた。


しかも目立っていた。私とは正反対のキャラだった。私はそういう人が嫌いだった。こういうことを言うと妬みだとか僻みだとか言われるだろうが、違うのだ。違うと思いたいだけなのかもしれない。




prrrr...


「はい。花宮です。」


「先程は面接に来ていただきありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ。」


「花宮さん、採用です。ぜひ、こちらで働いてください。」


ええ!どうしよう!落ちたと思ってたのに!


「あ、よろしくお願いします。」


それからのことはよく覚えてない。


頭の中はどうしようということと、なぜ断れなかったのだ、と悔やむ気持ちでいっぱいだった。




とりあえず、母には心配かけたくなかったので、連絡した。


母からは「良かったじゃない」と一言あるのみだった。




芦田光とはシフトが被らなければ大丈夫だよね!


だいたい、あいつは何でコンビニなんかでバイトしてんだ?


あいつもニートだったとか?


ない、ない。








とにかく、私も最近、平穏なニート生活が崩れて色々あったから、疲れていたのだろう。


気づいたら寝ていた。






「花宮優姫!お前は名前だけは華やかだよな。お前、男と付き合ったことあんのか?」


「先輩やめてあげてくださいよ。先輩酔いすぎです。」


セクハラ上司。


見た目だけでしか人を判断できないダメ男。


なんか言ってやりたいのに声が出ない!


喉まで出かかってるのに!






「は!夢か…って朝じゃないの!ヤバイ!遅刻する!」


コンビニ出勤初日から遅刻寸前だった。


最悪な夢を見たせいで、気分は最悪だった…というのにもっと最悪なことが起きた。




「おはよう!優姫ちゃん!」


芦田光とシフトが丸被りだったのだ!


「ゆ、優姫ちゃんって呼ばないでくれるかな?」


「何で?なら優姫って呼ぶね!」


「ちょっと!」


「ほら!花宮さん!初日から私語ばっかで、クビにするぞ!」


「すみません。」


「優姫、怒られたやんの!」


「芦田くん!!」


芦田光と話すのは嫌だと思う自分と、なんか青春っぽくていいなと思う自分がいた。




昼休み、芦田光と二人きりになった。


「優姫はさ、なんで、ここで働こうと思ったの?」


こいつめ!いきなり核心をつく質問をしてきやがった。


「え?芦田くんこそなんで?」


はぐらかした。


「俺はさ、お前に会いたかったから」


「は?はぐらかさないでよ」


「優姫こそ。」


ふふふ。ははは。


何これ、青春っぽい。




数日前の自分とは比べられないくらい、私は変わってしまった。


中学でも、高校でも、大学でも味わえなかった甘酸っぱい青春をやり直しているかのようだった。


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