第19話 満月の夜に

《生徒会室》


「議題に上がっていました、バットマン対策のパトロール強化は本日で打ち切り。

 4月下旬から予選会が始まる『全国異能力学園対抗新人大会』の運営委員会に人員を回す事で決定します。

 なお生徒会補助員は引き続きパトロール強化を継続して、報連相を密にお願いします。」


 生徒会長を中心に天王山学園生徒会の主要メンバーがリモートで集まり会議を行っている。生徒会室には生徒会長【和合トモエ】と進行をしている副会長【来栖川くるすがわマナカ】そして生徒会補助員長:石田がいる。


「会長、最後に。」


「ああ、今言った通りだ。各自全力で事に当たるように。」


「「「はいっ。」」」


 それぞれのリモートが切れ、部屋には3人だけになる。会長と副会長の威圧感に石田の汗が止まらない。そこにマナカが声を掛ける。


「石田さん、それではパトロール強化と補助員育成の方をよろしくお願いします。」


「はっ、はい。失礼します!!」


 石田はそのまま早足で去って行く。一刻も早くここから逃げ出したかったようだ。


「まあまあ、元気な事で、、。」


 トモエは無表情のまま外を見ている。その目の先には天王山学園最大の建造物である研究棟が見える。


「どうしましたか?」


「いや、なんでもない。」


「?」



《1-A教室》


「全国異能力学園対抗新人大会って何だ?」


 教室で【田中リュウジ】が大声で質問している。その周りには【天城ヒサシ】等お馴染みのメンバーがいる。


「何であんたはいつも何も知らないのよ。」


「わかってたら、みんなが困るだろ。」

 

 【東堂レイカ】が呆れ気味で質問しリュウジは自信満々に答える。


「まあ要約すると、①九州②中国・四国③関西④東海・北信越⑤関東⑥東北⑦北海道地方と⑧天王山学園で新一年生の選抜メンバーを組んでトーナメント戦をする大会よ。

 その学年の技術向上と世間に向けてのアピールが目的ね。」


「なんか、、そういえばあったような。」


「まあ、去年が第一回目で会長が無双してたんだがな。」


「「あーー。」」


 みんなが納得の表情を浮かべる。

 

 そんな輪の中でいつも中心となっているはずの【轟ひまわり】が、深刻な表情で塞ぎ込んでいる。彼女は何か手紙のような物を持っているみたいだ。


「ひまわり、どうしたの?」


 【羽賀マオ】が心配して声を掛ける。


「ううん、何でもないよ。今日私生徒会のパトロール当番だから先に行くね。バイバーイ。」


 ひまわりはそのまま走り去ってしまう。みんなはそれを不思議そうに見送るしかなかった。



《研究エリア》


 その日の深夜、ひまわりは1人で研究エリアにある建築途中の建物の中にいた。中心部から離れた土地であり、周りには建設途中の物件が並び人もいない。


「こんなところに呼び出すなんて、、」


 ひまわりの持つ手紙にはヨレヨレの日本語で文字が書かれていた。


『わたしわしつていた あなたのあねさんお

 ここにくる 2-67-24-1589』


「数字はここを示す座標だった。文章はめちゃくちゃだけど多分『私は知っている、あなたのお姉さんを』」


 ひまわりは姉という言葉を見て激しい口調で怒鳴る、ある人の事を思い出す。


『あなたがいなければケンは、あの人は死ななかったのに!!!』


 物憂げな目で夜空を見つめる。月は大きな満月だ。


「ん? あれは、、!?」


 満月を背に何かがこちらに迫ってくる。フードを目一杯被った小柄な人影が、自分の背よりもはるかに大きな大鎌をひまわりに振るってきた。


カキーーーン!!


 ひまわりは咄嗟に自分の魔法のステッキで受け止める。近接武器ではない為ステッキが悲鳴をあげている。


「くっ、このままじゃ、"スターシャイン"!!」


 ひまわりから光の衝撃波が放たれ、相手は後ろに退がる。そのまま鉄骨の上へと行き満月を背にひまわりと対峙した。


 相手はフードをとり顔を晒す。背は140㎝くらいであり金髪のツインテール、瞳は赤眼の外国人であった。胸にはコウモリのペンダントをつけている。


『私は【クレア】。あの人の妹になる存在よ。邪魔なあなたを消しに来たわ。』  ※『』内は英語


 ひまわりとの間に沈黙が流れる。


「(こんな事ならレイカちゃんに英語しっかり習えばよかった。でもなんかシスターって言ってたような、まさかお姉ちゃん、、)」


 そのままエリスと名乗る少女は大鎌を振るい近接戦闘を仕掛けてくる。ひまわりは距離を空けるべく魔法で弾幕を張りながら、後ろに退がる。


 しかし相手は飛ぶ斬撃と、大鎌のリーチを生かしながらひまわりに強力な魔法を出させないように戦う。それはまるで彼女の弱点を理解しているようだった。


「このままだと、やられる。こうなったら。」


 斬撃による切り傷と建物との接触でボロボロになりながらステッキに力を込めた。


バコーーーーーーーン!!


 ひまわりが放ったのは威力のない、お祝い用に作った派手な音と光が出るだけの魔法。しかし、この音で人を呼び相手を追い払おうと考えたのだ。


 クレアは気にせず襲い掛かろうとするも、何かを感じ取り、独り言を話す様子が見られる。


「まさか!お姉ちゃんがここに来てるの!」


 ひまわりの方をクレアは無表情で見つめる。後ろからはソリを持って空を走る子供がこちらに向かって来ていた。どうやら彼女を迎えに来たようだ。


『私の姉さんの邪魔はさせない。次は必ず殺してみせる。』


 エリスはソリに飛び乗りそのまま夜の空に消えていった。周りからは警察のサイレンが鳴り響く。


「姉さんが来ているなら、バットマンの目的は、、」

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