第18話 和合トモエ生徒会会長

 【和合トモエ】は日本でもっとも有名な異能力者である。とある格式高い名家に生まれ、小さい頃から文武両道、才色兼備、品行方正を目標に育てられてきた。


 運命が変わったのはあの日。東京郊外でのちに"JAPANインパクト"と呼ばれる大爆発が東京郊外で起こった日に、道場で精神統一中だった彼女の元に一本の刀が現れる。


 彼女がその刀を手にすると、人智を超えた力が溢れ出し、爆発の中心から現れた大猿を一刀両断してみせた。


 そこから幼いながらも、その類まれなる才能と人望、さらには絶世の美女と評される容姿も相まって今日まで日本の異能力界を引っ張っていく存在になっている。


 彼女が誰よりも強く、弱味も見せずに憧れられる存在である限り日本は安泰であると筆者は確信している。(月刊:異能力.最強生徒会会長の素顔.抜粋)


《生徒会室》


「も〜生徒会会長なんて、かったるいのよ〜。」


 そこには生徒会室にあるソファでヒサシに膝枕をされながら、愚痴をこぼすトモエの姿がある。


「毎日毎日リモート会議やらアドバイザーやら取材やらで休まる暇もないし、挙句には政府から海外との交渉の窓口になってくれって、税金払ってるんだからしっかり働けっての。」


「あの会長、、報告を。」


「それに高等部に上がって気楽にひーちゃんを呼べなくなったから、ストレス発散が全く出来なくて、早く来てくれないか待ってたのよ。」


 そう言いながらこちらに微笑みかけるトモエの顔は普段の彼女からは考えられない無邪気な顔であり、それが自分だけに向けられていると考えると恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。


「ひーちゃん、早く頑張った私にヨシヨシして。」


「は、はあ。」


 言われた通りヒサシはトモエの頭を撫でる。綺麗に整えられた長い黒髪の感触を感じながら、優しい匂いに包まれいく。


 トモエもヒサシの手の平を感じながら、うっとりした表情で目をつぶった。静かな時間が2人の間を流れる。


「ねぇ、ひーちゃんお互い高等部に上がった事だし、もっと、、、」

カツンカツンカツンカツン


 トモエが仰向けにりヒサシの頬を撫でようとすると、廊下から人の足音が聞こえる。

ガチャ!


「会長、またバットマンが事件を起こしました!」


 トモエはいつのまにか会長席に座り電子パネルを扱っている。ヒサシはソファに座り何事もなかったように振る舞っていた。


「ああ、その件について当事者である天城君から報告を受けていた所だ。」


「あっ、天城君、お久しぶりです。私の事覚えてます?」


「も、もちろん。補助員の【秋川ココア】さんですよね。2年の。」


「ちっちっちっ、私は高等部に上がった時に実行部隊に選ばれたのよ。さらには連絡部長も任されているのだ。えっへん。」


「で? それだけか、ココアくん。」


 トモエから聞いた事のない低い声が発せられ、ココアは一瞬怯んでしまう。


「い、いえ。天城君の事件の他にも3件バットマン絡みの異能力犯罪が起きました。しかしどれもセキュリティがして、監視カメラが場所での犯行であり計画性があるのか無いのか?」


「妙ですね。普通はセキュリティが甘くて監視カメラが少ない場所を狙うはずなのに、、」


「何か意図があるかもしれんな。生徒会のパトロールを増大して事件に当たる。ココアくんはメンバー全員に注意喚起を行ってくれ。」


「はい、わかりました。」


 そう言ってココアは生徒会室を出て廊下を駆け抜けていく。補助員時代から変わらぬ瞬足だ。


「じゃあ俺もこれで失礼しますね。」


「ああ、そういえばクリスタルフラワーを取ってきたそうね。あれはウチのチームではヒーラーが足りなくて入れなかったのよ。あなたのクラスだと、、テレスティーナくんかしら。いいヒーラーは大切にしなさい。」


「(死にかけた事は黙っていよう。)」


「何か覚悟が決まっている顔をしてるわね。」


「昔会長に言われた事を思い出しました。やっと自分の中で吹っ切れたというか、今はみんなの事を第一に考えて過ごしていきたいと思います。」


「また男らしくなったわね。」


「ありがとうございます。」


 ヒサシは生徒会室から出て行く。それを見守るトモエの目はどこか寂しげであった。


「みんなか、、、」



 それから生徒会はしばらく人員を増やし、バットマン対策のパトロール強化を行った。


 その後は徐々に事件も減少していき、進学をきっかけに羽目を外したチンピラの暴走という事で通常パトロールに戻るのであった。


 しかし、それはバットマンの真の目的を隠すための策略であったのだった。

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