第59話 “創造者”と”傍観者”

「だからどうしたというんだ。どれだけ足掻あがこうと俺様がシステムの管理者で、君はただの一プレイヤーであることに変わりは無いんだよッ……!!」


 ゲームマスターはまたメニューを操る、対して木の枝を振るうための構えは不動。


『【 アクティベートライセンス 】』

『【 プロダクトコンストラクト 】』


 また一瞬で無から生成される、あらゆる生物の死体で汚染されたヘドロの針山が。


 しかし流動の精神統一は極限に達する。右肩上に構えられた木の枝は大剣であり、運命の魔力を帯びた伝説の魔剣でもある。


「……だから、それがどうした」


 針山を一振りでぎ払い、俺はまた歩き出した。一歩一歩着実に標的へと足を踏み出す。


 その手に握られた木の枝は、他のどんな名器よりも強い光沢を放ち、他のどんな硬い物質よりも強固な意志を持っていた。


『【 プロダクトコンストラクト 】』


 超高速メニュー操作により、次は破壊光線が一直線に生成される。


 その砲撃はまた一撃で振り払われ、風は左右にびゅんびゅんと荒ぶり突き抜ける。そうしてまた一歩、また一歩と足を進める。


「そもそもおかしいだろ。なぜ木の枝ではね返せる……なぜたった一レベルで、なぜそんな装備で立ち向かって来るんだ!?」


「愛情は無情にまさる。これが、お前の馬鹿にした人間様の力だ!!」


『【 プロダクトコンストラクト 】』


 目の前には鋼鉄の大岩の壁が生成される。木の枝の一振り、突き出された大岩は、揺るぎない命の灯火ともしびで断ち切られる。


 俺は叫びながら走り出した。ゲームマスターとの距離はどんどん近づいていく、のこり直線距離にしておよそ十メートル。


「流動は変化し続ける。だから二度同じ攻撃パターンを見せることは無い、これがシステムに対策されない攻撃だ……!」


『【 プロダクトコンストラクト 】』


 異次元から雨のように降り注ぐ幾千いくせんもの毒針を、弾き飛ばしながらけ。


『【 プロダクトコンストラクト 】』


 数百もの高熱可視光線レーザービームが交錯する部屋を、くぐりながら走り抜け。


「システム自動解析が効かない!? 来るな、来るなあ……ふっ、馬鹿がッ!!」


 さっきとはまた違う手の動き。超高速で、管理者のメニュー画面は操作される。


『【 アクティベートコンソール 】』

『【 システムコマンド:圧縮コンプレッション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』


 プログラムが発動すると同時に、目の前の空間が急速に引き込まれていく。引き込まれると同時に、空間は湾曲わんきょくして消滅する。


 空間の切除は回避のしようが無かった。俺の左手は、ひじを境目にして消失した。


「どうだ、君の今本来あるべき姿にしてやったぞ……知ってるんだよ、君の腕は本来ならば消滅していなければならないはずだ」


「ズルは良くないよなあ。このゲームの管理者としても、不正チートは見逃せないよなあ。公正に裁かないといけないよなあ……!!」


 消えた左手、それでもこの足は前に踏み出される。なぜか初期化されなかった青のマフラーを巻いて、左腕の止血をした。


 こんなものでこの情熱が途絶とだえることは絶対にない、今はただ目の前の敵の間合いにたどり着くことだけを考えろ。


 近いのに遠いその先を、見えない神出鬼没の地雷を全回避して突っ切れ。


『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』


 味をしめたゲームマスターの、システムコマンドアクションはさらに勢いを増す。


「どうしてッ、どうしてそんな状態になってもなお向かってくるんだ。認知不能……現在、君の行動原理は観測不能だと……!?」


『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』

『【 システムコマンド:切除リセクション 】』


 大量のリセクションでめぐらされた不可視のワイヤーを、い潜って進む。


「……何でだよ。何でわからねえかなあ、何でこれでも諦めないんだよ!! 君が初めてだ、行動原理を理解できなかった人間は」


 木の枝。この真剣は抜刀され、ゲームマスターの首はこの手でとらえられた。


『スキルレベル:オールMAX』

『限界突破——Lv.???』


 スキルレベルも、知らないうちにカンストしてしまっていたみたいだな。


「馬鹿だよ、お前本当に大馬鹿者だ。普通の人間の方がまだたちの良いレベルでなあ!!」


 ゲームマスターはメニュー画面を、十本の指全てで叩きつけるように操作した。


『【 セキュリティデバイス 】』


 研究室の小部屋はみるみるうちに姿を変え、見渡す限り全ての景色が白一色となる。


「もう決めた、お前はここで必ず始末としておくと。エネルギーの消費は惜しいが、ここで倒さずに、後々重要な所で邪魔をされると困るからなあッ……!!」


 無機質な果てしない立体空間の中、ゲームマスターは泳ぐようにして飛び回り始めた。


「ここは拒絶閉鎖空間。俺様だけが一方的に攻撃することを許された固有結界。ご愁傷様しゅうしょう様でーす、お前はもう、死ぬまでここを出ることはできないぜ!!」

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