第52話 頂点のプレイヤー
「……走れ、走れ、走れ、走れ、かけ上がれっ!!」
急斜面には数あまたの他レギオン団員、押し退けて進むだけだ。
「……ふう、ようやく着いたか」
山頂に到達して一息つきながら辺りを見渡すと、そこには先客が数名ほどいた。
「……落とせ落とせ、邪魔なやつは上げるな。競争率が高まるだろうが!!」
「もうすぐ正午だろ、本当に来るのかよ。そもそもあの情報は正しいのかあ?」
「だって流通屋が流した情報なんだぜ、間違ってるなんて事あるか……?」
富士山頂上。数人のガチ勢らしきプレイヤーたちは何やら小声で話し合っている。
(さあて、この中に獲物はいるかな……?)
俺がこの争奪戦の首謀者で支配者、これは自作自演になるのだろうか。でも今明かしてしまうのは危険だ、とりあえずは知らないふりで情報を引き出そう。
誰が鍵を持っているかさえ分かってしまえば後は何とでもなる。最悪の場合、強行突破する覚悟も出来ている。
「ええっと、単刀直入に聞こう。この中に天秤の鍵の所有者はいるか……?」
ゆっくり歩いて近づきながら、落ち着いた声をなげかける。
「はあ、そんなの言うわけ———」
「……実を言うと、俺はもう一つの”鍵”の所有者についての情報を保有しているんだ、ここは一つ手を組んでみないか? もしこの中に”鍵”の所有者がいるのなら、ぜひ手伝わせてもらいたいんだが?」
「馬鹿かよ、
(仕方ない、口は割ってくれそうにないな、ならもう少し条件を加えてみるか。)
どんどん人は増えていく。頂上に集まったトッププレイヤーが注目する中、ある男は。
「仕方ねえな。ほらこれでいいだろ……いいか、分かってんだよ、でもオレはお前みたいな
男は『
「もう面倒くさいのはやめだ、オレに一ついい考えがある———」
すると人混みの中から青髪サラサラの男が、テクテクと歩いてきた。
「祭りの
ムードがガラッと変わった、青髪サラサラは全身に金銀ピカピカ装備でキマッている。その分、鼻も高そうだ。
「いいねえ乗った、一対一の真剣勝負ってことかな。少々僕の相手をするには
他レギオンも集まってきた中、鍵の所有者はここまでの余裕を見せている。よっぽど自信があるんだろう。もう、自分が鍵を
どうやらこの場の雰囲気からして、この青髪男はかなりの
「了解だ。その決闘、
『決闘勝者入手:天秤の鍵』
『Yes—条件を受諾しました』
契約は団体or個人間での取り決め、違反すると重いペナルティが課される仕様。つまり、後からズルはできないということだ。
「おいクソ、勝手に決めやがって。鍵の所有者はオレだろうが。まあいいか、公開処刑だ、今から良い見せもんが始まるぞ〜!!」
男たちの叫び。暑苦しいまでに熱狂のムード、ブーイングと熱気の輪の中、俺は冷静に『
(なんだこいつら、むしろ怖いぞ。治安、悪すぎだろ……!)
双剣に対する相手の『神眼の邪剣』はおぞましい魔のオーラを放っている。『Lv.108』のレベル表記も相まって、威圧感は抜群だ。
(生身でのマジバトルってか……あんまり気は進まないが、これもゲームクリアのためだ、仕方ない。)
「……なんだなんだ、そんな装備構成で大丈夫かァ、もっと気ィ引き締めろよ!!」
「おいおい、あんなヘボ助で、王者の相手が務まるのかよ!!」
「駄目だなありゃ、完全にうろたえてやがる、残念だが瞬殺だろうな……!」
「ああ。何といってもあいつは自動集計ランキング一位、ノーチスレギオンのリーダーにして初のレベル百超えプレイヤーなんだぜ。真っ向な勝負で勝てる奴なんてまずいねえよ」
鳴り止むことのない野次馬たちの騒音を
「……シャラップ!! 僕の決闘に水を差すな、こいつが強いか決めるのはこの僕だ。実際に戦わないと相手の力量なんて分からないだろう。それじゃあ始めようか、サドンデスの、デスマッチを!!」
戦闘は、もう既に始まっている。しかし互いに、にらみあっているだけで戦況は一切動かない状態だ。
静まりかえった静は、一瞬にして動になり変わる。相手の筋肉がピクリと動いた、それに反応するいあいぎりの交差。
「……やるな。完全に
フィールドが入れ替わっただけで、仕切り直しみたいだ。今の俺なら、いつでもこの戦いを終わらせられるのかもしれない。
「俺はプロゲーマーになるために一日中、昼も夜も関係なく年がら年中ゲームしてた、あん時は楽しかったなあ。夢に向かってただひたすらに挑戦し続けて、トライアンドエラーを繰り返して……!」
でも、それはちょっと違う気がした。こいつの目は少しだけここにいる他のやつらとは雰囲気が違う、本気の目をしている。
「対戦ゲームは、CPUとバトルするだけのロールプレイングゲームとは違う。対戦には、戦況が無限通り存在するんだ」
「一見シンプルに見えるゲームの中にも多種多様な戦略があって、プレイヤーの数だけプレイスタイルがあって、その上でコンディションや運や実力が複雑に絡み合って勝敗は決まる。勝利もあれば敗北だってあるんだ」
「仮に相手の手札が分かっていたとしても、最後までどう転ぶか分かんねえんだ。そりゃあ燃えるだろ……!!」
ついに詰め寄ってきた。詰めが甘いとは、到底思えないくらいにグイグイと押してくる。その顔は本当に楽しそうで。
「僕はワクワクが止まらないね。相手は人間、だから常に進化し続けるんだ。トリッキーな小技から、勝敗を左右する立ち回り方。僕が戦法をシフトチェンジして翻弄しても、相手はすぐにその対策をしてくるんだぜ」
思った以上に苦戦している、こいつには俺には無いルートでの勝ち筋があるんだ。ゲーマーならではの順応・対策という能力が。
「あと一ヶ月、大会は差し迫っていた。コンディションも最高だった、ようやく去年の準決勝敗退のリベンジが出来ると思ったのに。夢が叶わなくなっちまったよ。世界がこんなんになっちまったせいで……!」
「……でもなあ、ここも意外と居心地が良かったんだわ。老いないし一日も長いし、戦えば戦うほどに強くなるってシステムはゲーマーにとってこれ以上ない好条件だ」
「強くなればなるほど豊かになっていく。食い物も、人望も、地位も総取り……そこで気づいちまったんだよ、これこそが僕が思い描いていた未来なんじゃないかってね!!」
最初はこの決闘を馬鹿にしていた野次馬も、だんだんとこの攻防に圧倒されていき。
「見えない……展開が早すぎてついて行けないぞ、過去にここまで長引いた決闘があったか……!?」
「なんだよあれ、相手はこの世界の王者だぞ。なぜ対等に渡り合えている、一体あいつは何者なんだ……!!」
——再度、形勢は立て直される。
「僕のプレイヤーネームは実名で
「——奇遇だな。俺は
「面白い、最高に面白いじゃないか!! ここまで僕を楽しませてくれるプレイヤーは、何年ぶりだろうか……!」
「——俺はつまんねえよ。これ以上お前との戦いに付き合っている暇もない、もうそろそろ終わらせるぞ」
互いに力比べをするように、双剣と魔剣の弾け合う勢いは増し続ける。
「ぐぬぬ……それでどうだ、この”審判の腕輪”は、”宝玉の籠手”の力は、”神獣の
こいつは何かが違うと思ったが、やっぱり他のやつらと変わらなかった。この世界は、人をこんなにも変えてしまう。
「スキル熟練度、乱数調整、他にも僕はお前の知らない色んな隠し要素を知ってるんだぜ……!!」
「お前は確かに強い、でもそれは本当の強さじゃない。だって俺は多分、お前より凄い裏技を知ってるからな」
俺は知った。本当の力はシステムに縛られない、システムを超えた先にあるのだと。
「嘘つけ、そんな裏技があるわけない……!!」
「嘘だと思うなら本気で来いよ、お前の全部を今ここでぶつけて確かめてみろ」
——最後の仕切り直し。
「……いいんだね、本当に本気を出しちゃっていいんだねえ、ガチ厳選済みスキル効果付フルブッパ。後から後悔しても遅いぞ……って言っても後悔する時間もないか!!」
『付与効果A+:攻撃力二倍』『付与効果A+:スキル強化』『付与効果A+:スキル同時発動』『付与効果A+:攻撃必中』『付与効果A+:速度超上昇』『付与効果A+:急所改心』『付与効果A+:超硬化』『付与効果A+:防御貫通』『付与効果A+:行動阻害』『付与効果A+:回復不能』『付与効果A+:恐怖効果』『付与効果A+:ノックバック』
【 インフィニティソウル 】
【 クライシスソード 】
俺は知っている、レベルなんてものはただの数字に過ぎないと。装備やスキルだって、見せかけでしかないと。
——流動。その理念は常軌を
流水は雨水、雨水は雷光、雷光は雲泥で濁流で流水で雨水。このサイクルは一連の流れで繋がっていて、途切れることがない。
この概念を双剣に漂着させる。
「——お前みたいな、現実とゲームを混同してしまう奴のせいで、優しい人たちが傷つくんだよ」
双剣にこびりついた血をふり払い、両目を閉じて口を
「え……何で、嫌あああああああぁぁ!?」
勝負は一瞬にして決した。時間差は生じ、肩を負傷したことに気づいた相手は、どうにか止血しようと傷口を手で覆う。
「お前はひとつ嘘をついている、それは自分自身の夢についてだ。お前は、こんな未来を夢見ていたわけじゃない」
まあ、この人も被害者なんだもんな。この人ならゲーム界のチャンピオンでもレジェンドにでもなれたはずだ。こんな世界に来なければ真っ当に……本気でそう思った。
戦力絶対主義のこの世界ではゲームセンスが高いというだけで、もてはやされるのだろう。でも違う、この人が目指していたのはこんなつまらない未来じゃないはずだ。
周りからただ祭り上げられて、一方的に支配して、奪う。そんなやり方は本来この人が思い描いていたeスポーツマンシップとは、あまりにかけ離れているんだ。
「……そんなわけあるか、ここは楽しいさ。だってゲーマーなら一度は夢に見ることだろ、世界がゲームになったら良いって!!」
「だからといって、それが人を傷つけて良い理由になんかならない。認めろ、お前は周りにつられて、しっかり非道の道に染まっちまったんだよ」
辺りはしーんと静まりかえってしまった。トッププレイヤーが
(え、なに……!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます