第49話 見送りと巣立ち
「私たちはその子を本当の子供のように可愛がっていたんです。丁度あなたくらいの背丈だったんじゃないでしょうか」
「あの子は時々、変なことを口にしていましたね……確か『天命がなんとか』みたいな事をよく言っていた気がします……!」
「最後は『やらないといけない事がある、次の天使が来た場合はこの鍵を渡せ』とだけ言ってここを去ってしまったんですよね……」
岳さんもどこか
「思えばあの子は、いつもワシらを気にかけているようで、何か違う次元を見ているようなどこか遠い目をしていたな」
「結局あれからずっと、あの子は戻って来なかったなあ。今では懐かしく思えてくるよ、あの子と過ごした日々が……!」
「……そうですね岳さん。あの子と過ごした三年間は、今でも忘れられません」
「だけど私は信じています、今もあの子はどこかで元気にやっているということを。でも出来ることならもう一度、あの子と一緒に暮らせたら、なんて……!」
二人は薄々気づいていたんだろう、その子がただの少年ではない事。それと、このゲームを終わらせる使命を背負っていた事に。
それでもその子を受け入れて、三年間という時を確かにここで共に過ごしたんだ。
——脳内に投影される、それはまるで自分がかつて体験した事のように鮮明に。
そこだけに差し込む日差し。ブランコの両どなりに
(すごく、愛されていたんだな……いや、それは俺も同じことなのか。)
その少年はこの内包結界を構築者であり、流動の創始者でもある。使命があると一人旅立って以降、音信不通ということは。その力をもってしても、ラスボスには敵わなかったという事なのか。
「
「お前はあの子の言う”次の天使”ではないのかもしれない。でも、お前になら託してみてもいいと思えたんだ。お前が、自分でその道を望むのならば……!」
「つまり自分の行く道は自分で決めろって事だ、どの道もう教えられることは何もない。だけど一つだけ約束がある、死ぬなよ」
(そんな
俺が今から立ち向かおうとしている相手は、それほどまでに驚異的だというのか。
——別れ際、帰路は開かれた。
「それでは、今まで本当にお世話になりました。ありがとう……!」
「……おう、ワシは信じているぞ。今のお前なら何でも出来ると!!」
「……どうか無理はしないで下さいね、私は
最後に何気ないあいさつは交わされる、二人は優しく見送ってくれた。
「行ってらっしゃい……!」
「……行ってきます!!」
行ってらっしゃいと行ってきます。この一言の重みが、今なら痛いほどに分かる。
(絶対に忘れない、綾さんと岳さんと過ごしたこの大切な二年間を。)
視界はどんどん真っ白になって、二人の姿は光に消えていく。その手を振る姿はどこか
(なんだ水臭いな、そういうことなら最初っからそう言ってくれれば良かったのに。)
綾さんと岳さんは、今はなき子どもの姿と俺をどこかで照らし合わせていたんだ。
でもそれは俺も同じだ、俺もこの二人をど
こかで今は亡き祖父母と重ね合わせていた。
——この人たちの前なら、俺はだだの子供でいられた。ありがとう、何の見返りもない愛情を分け与えてくれて。
温かい気持ち。親が子を思う愛があれば、子が親を思う愛だって存在する。その形がどうであれ、きっかけがどうであれ。
愛に区別は無かった、百年以上経っても愛は無くならない。愛の可能性は無限大であり、愛は永遠に不滅だ。
「愛をくれてありがとう、今度は俺が愛を分け与える番だ。そのためにまずは、自分を愛さないとな……!」
まだ
二人のおかげで今を認めることが出来た、もう一度戦うための覚悟が出来た。
これは、ゆっくり現在地点を見つめた上での結論。それでも俺は、前に進まなくちゃいけないという事だ。
(ずっとしょげた顔だと悲しませちまうよな、今も天国で見守ってる大切な人達を。)
俺は信じる。俺が生きている限り、皆は生き続けるということを。
ある人はこれを馬鹿げていると笑うかもしれない、でもそんな馬鹿げた空想や夢物語を現実にしてしまうのが俺の創造なんだ。
これから先だって、俺が生きることによって助けられる命もきっと沢山ある。
——だからもう一度踏み出そう、ふりだしの一歩から。
かつて一人でラスボスに挑んだという少年が残した”使命”という言葉の意味と、
その鍵がこの手に渡って来た理由。これは自分と関係ない事のようにも思えなかった。もしかしたら、あの内包世界に
そんなことを、うっすらと感じたんだ。共通点は使命、世界を救わなければいけないという転生者としての使命が俺にもある。
「鍵は受け取った、
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