第47話 習熟への道すじ
——それでも朝は、いつもと同じようにやって来る。
『起きて、起きて……!!』
布団から起き上がって、修練を積む……のではなく師匠から授かった挑戦、いや無理難題をクリアする手立てを練ろうと。
(今日は寝起きが悪かったな……なんか変な夢見た気がするし。)
外を歩き回る。道の
あれからというもの、本当にそれっきりで何も教えてもらえなかった。修行のノルマすら与えられなくなってしまった。
(散々振り回すだけ振り回した後、少し話したと思ったらまたほったらかしかよ……!)
池の周りをぐるっと。いつもの散歩コースを歩き終えて、小屋の近くにあるブランコに座り込んだ。
手作りだろうか。なんだかガタガタしてるし、ずいぶんと年季も入っている。もしかして昔、誰かが使っていたのかな。
「本当……わけ分かんないよな。師匠はなんて言ってたっけ。流動……だっけ、それに基礎とか真理がとかあーだこーだ……あの人は一体、俺に何をさせたいんだ」
(脈絡が無さすぎるんだよなあ、あの人の言葉は。よくある典型的な教えるのが下手なタイプだろあれ……!)
ここはやけに日当たりがいい。ぎーこぎーことブランコを揺らしながら、師匠が言った事を頑張って思い出そうとしている。
(いや、そもそも師匠は初めからずっと技の心得を教えてくれていた……?)
往復し続けるブランコと一緒に、脳内はくるくると並走する。どれだけ想いを
そもそもここは結界内だぞ、今見えているあの氷山の実態が本当にあるのか。
(ダメだ、全然ピンとこない。これ以上考えても仕方ない、ちょっと動くか……!)
——スキルを叩きあげ、一から構築しろ。
草っ原。得られた情報の中で唯一確定しているのは、スキルが大事ということ。だから少しでも、ほんの少しでも遠くに飛ばせるようにスキルのイメージを構築する。
「『グラストヒット』、『ラヴァスラスト』、『ライティングキャノン』……!!」
次々に技を生み出せ、イメージを途切れさせるな、どんな状況でも新たなスキルを生み出せるくらいに。
「
久々に話しかけてきた師匠には、もちろんつきっきり。のどかに湖で釣り糸を垂らしている横で俺は真剣な眼差しを向ける。
「……まさか本当に、こんなことをやれというわけではないだろうな?」
だとしたら何をすれば正解なんだ、いやわざわざこの人が嘘なんてつくのか。
「駄目だ駄目だ、駄目だ。そうやって無理だと思うから無理になるんだ……!! 今のお前を見てるとどうも、もどかしい」
「……はあ。師匠の言っていることは、本当にさっぱり分かりませんよ」
「ならば仕方ない。腰を
一ヶ月ぶりのことであった、岳さんがまた師匠の顔に変わったのは。最強の思考法なんてワード、
「
やはり師匠の言葉は抽象的で掴みどころがない、でも今回こそはと信じるしかない。
「……でも、その感情部分を変えられたらどうだろうか。そう、この“眠いから寝る”という思考体系自体を変えてしまえば良いんだ」
「例えば、寝なきゃいけないのは”楽しいから”とか、”面白いから”などという理由に変えることだって出来るということ」
考えるんじゃない、感じろ。何とか話について行こうと耳を
「最強の思考法、これが出来るかどうかが流動の精神習得の鍵になる。この概念を理解し、実践し、追求し、改変し、創始することができれば、何でも可能になるぞ……!」
「“嬉しい”から戦う、“悲しい”から戦う、“楽しい”から戦う、“苦しい”から戦う」
「”怖い”から戦う、“恐ろしい”から戦う、“緊張する”から戦う」
「“やる気がない”から戦う、“眠い”から戦う、“恥ずかしい”から戦う」
「“びっくりした”から戦う、“気分が晴れない”から戦う、“戦いたくない”から戦う」
「つまり、どんな感情も”戦う”という行為に直結させることができるという事だ!!」
意味が分からない、あまりに現実離れした理論についていけない。でも初めて分かった、師匠の言っている言葉の意味は。
でも、もし仮にそんな思考の転換を実現できるとしたら、何があろうとも心
それに何があっても”戦う”なんて、何だか化け物みたいだけど実は違う。どれも戦うという結論に至るまでの”感情”が普通にあるんだ。だから、あの”力”とは違う。
「言っておくがこの”戦う”という決定は、あくまで一例でしかないからな。最強の思考法をもってすれば、流動の精神をマスターすることだって楽になるはずだ。分かったか?」
なんとなく理解できた最強の思考法とやらを、口に出してまとめてみた。
「つまり、感情と行動の間にある方程式を本来とは違う等式で結ぶみたいな感じだろ」
師匠はつりざおを思いっきし引き上げて、朗らかに笑った。
「口で言うのは簡単、頭で理解は誰にでもできる。示して見せろ
——それからもあの人が言った言葉の意味を考え続けた、信じるものを唱え続けた。
そうして一ヶ月が過ぎる頃。その一ヶ月という時の流れは今までで一番短く、それでいてすごく充実したもののように感じた。
湖のほとり。
「……今日が、その日だ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます