第30話 レギオン乱戦②兵隊の一斉射撃

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「俺は全国自動集計ランキング十七位、Aランク、ヌチアルレギオンのリーダーにして”追従弾使い”のガボアだ」


「どうですか、この私直属に手厳しい指導を加えて、鍛え上げられた精鋭たちは!!」


 現在、俺は駅のホームでヌチアルレギオンの団員数十名に銃口を向けられている。


「情報によると、ここの特攻隊長はかなりの手練てだれ。しかし、銃で取り囲んでしまえばどうしようもないだろう……!」


「今、お前が我がレギオンの配下に加わるとというのならば命はとらない。早く投降しろ、お前に選択権は無い———」


 声高らかにこの区域の領有を宣言する男を前に、口を閉じたままでいる。


そらサン、早く、逃げてください。あの蒼サンなら、今だってどうにかできるはずデス。いいから早く、蒼サンだけでも、スナッグ総長たちの元へ援護に……!!」


 顔を上げて叫ぶリミスは、ガボアに罵声を浴びせられた。ガボアは、すぐにキャップを整え落ち着きを取り戻してニコニコと。


「さあさあ。迅速かつ、賢明な返答を待っているよ……!」


「一つ聞いていいか。その”配下に加わる”ってのは、俺だけってことか……?」


「いやいや、もちろんこの女共も一緒にだ。戦力は、多ければ多いほどいいからなあ!!」


「……だから嫌だって言ってるじゃないデスか、流石にしつこいデスよ!!」


 奴らは反抗するリミスとユーミアを、否が応でも連れ去る気みたいだ。二人の縄は、より一層強く縛られた。

 

「こちとら、オッサムの野郎共との抗争でも立て込んでんだよ。早く、答えを聞かせてくれなあ〜い?」


「ほらほら早くしてくれなーい、”はい”なの、”いいえ”なの……?」


(勝手に人様の住み家にずかずかと、入り込んでは大事な仲間を傷つける。)


「——そんなことが許されてたまるかよ、答えはもちろんNoだ!!」


「さっきも言ったようになあ。俺の使命は、このレギオンの奴らを守ることなんだよ。目の前の仲間を、見捨てるわけがないだろ」


 銃の兵隊は裏からも回り込んでいて、四方は囲まれていた。


「はあ馬鹿だったか、手っ取り早く終わらせるぞ。射撃用意!! よーし、撃てえッ!!」


『汽笛のホイッスル』は鳴り響く、兵隊たちには『鼓舞』効果が付与され、集中力と精密性が増加する。


 数十ものライフルとマシンガンからは、一斉に数百もの銃弾が放たれ、駅のホーム内にはけたたましい銃声の騒音が鳴り響く。


「蒼サン、何を考えてるんですか。駄目だっ、なんで……!?」


「やめてっ、やめてよぉぉぉ!!」


 リミスとユーミアは叫ぶ。縄の中、精一杯の力でもがいて脱出を試みた。


「そんなお飾りの弾じゃあ、俺の身体はとらえられないよ———」


「……んな馬鹿な!!」


【ビビッドオーディオ】


 破裂音が起こった瞬間にぐいっと拡大した

この視界のレンズには、無数の銃弾が雨粒のように映っていた。


「なんだよ、コイツ……!」


「隊長、全然当たりません……! うわあああああ!!」


 その銃口が俺という標的の方向を狙う頃には、もう次の行動が行われている。


 飛んで壁を蹴り、改札を蹴り、三角コーンを蹴り、パネルを蹴り、天井を蹴っては双剣を突きつける高速移動。


「……なんだよお前、これは実弾なんだぞ。何でそんなに迷いが無いんだ!?」


 仲間の血を見た団員は一瞬だけ動きに遅れが生じる、その隙に次の人間は狩られる。


 相手が俺の動きを予測、先読みをして射撃する地点の更に一歩先をゆくから、その銃弾が当たることはない。


 迫り来る弾道を横目に、トントントントンと降りしきる小雨のように走り込む。


 その反響させた足場は身体全体をふわりと

飛び立たせ、めぐるめく360°、立体の視点は

スムーズな高速移動を繰り返す。


「悪いな、俺も先を急いでるんだ。こんな所で足止めを食らってる場合でもないんでね」


 天へと、地へと、銃弾へと。くるりくるりと切り替わり、ひらりひらりと身をかわし。


【ノイズスフェア】


 空中で方向転換させたのはこの剣の削ぎ。銃弾を迫り来るノーツに見立て百連続、立体的に構築された盤場に合わせて次々弾く。


「……おいおい、こっちはスキル矯正特化で、全員分もれなく厳選してんだぞ!!」


「裏ルート使って、錬成屋雇って、流通屋の情報料まで払って、弾速アップ・発射速度アップ付与厳選してんだぞ!?」


【レゾナンスアクティビティ】


「——主人公は弾撃で重傷を負わないの体現、上位互換バージョンだ!!」


 突き出した掌に空間が吸い込まれてゆがみ、縮んで消滅するかのような回避術。


 光が先行し炸裂音が響き渡ると、その後に紅の斬撃が姿を現す。もう、四方からの攻撃を完全に見切ってしまった。


わたくしたちは今、何を見せられているのでしょうか……?」


「これだけの数の銃弾を、全てしのいでいるとでもいうのデスか!?」


 リミスとユーミアに続いてヌチアルのリーダー、ガボアは驚愕きょうがくする。


「なんで、何なのコイツ、こんなの聞いてない、こんな化け物がいるなんて……!?」


「——俺は今まで、生きるか死ぬかのギリギリの境界線をいくつもい潜ってきた。踏み越えてきた場数が違うんだよ」


「いやいや、これはどう考えても場数とか、そういう次元の問題じゃないだろ……!」


【バブルスペースロード】


 振り回される双剣は、浮かび上がるシャボン玉のような視覚効果で。光が差しているわけでもないのに、七色に反射している。


 膨らみ、広がり、球体を創造する。双剣の光の泡玉は弾を完全防御可能な動く要塞テリトリー


〜〜〜〜


「(おかしい、こんなのは絶対におかしい。まさか俺の見立てが間違ったのか……?)」


 レギオンが結成されてから、俺はずっと勝率百パーセントを貫いてきた。そうだ、絶対に勝てる勝負しかしないんだ。


 厳選武器スキル効果付与ガン積み初手一斉射撃。この最適解を実現するためだけに、ずっと厳選の日々を送ってきたんだ。


 これは一定の規律ルールがハマれば、確実な勝利を得られる戦略。機械的な勝利への道筋必勝法こそが最後に場を制する最善の戦術キーポイントなんだ。


 だから。規律を乱さないための訓練、組織の統一性を持たせるための厳しい指導、俺は今までそうやってメンバー達を導いてきた。


 これは、弱者なりの生存戦略だ。俺たちは、弱いからこそ最強になれる。


 目立つ強者の影に隠れて息をひそめ、待ち伏せし、その時が来た時に初めて姿を現す。その時にはもう、勝敗は決しているんだ。


 初心者狩り、漁夫の利、数的有利の形成、俺たちはそうやって影の中からじわじわと這い上がっていくんだ。


 有利な状況が来た時のみ、銃撃一点特化で一斉に機械的戦略をとる。


 このやり方ならどこまででも上に上がれる、他の強豪きょうごうレギオンなんか押し退けて最後は真の王者になれる、そう思っていた。


 今までだってずっと、このやり方で勝ってきたんだ。なのに、なぜお前は狩られない?


 今回なんて、オッサムを叩くための交渉で与えられた簡単な仕事で、勝負とすら思っていなかった。完全に、この場を支配してたのは俺たちだった。


 でもふたを開けてみればどうだ、今は俺たちがたった一人のこいつに狩られている側だ。


「(あっ、途切れる。せっかくの俺たちが積み上げてきた、無敗記録が……)」


 ちくちょう。いつだって、俺のような凡人を潰すのはお前みたいな天才肌イレギュラーだよ。


「(いや、そう簡単にやられてたまるかよ……!)」


〜〜〜〜


(それじゃあ、ちょっと種明かしかな。)


「これは残像刀の特殊効果だ。弾だろうがなんだろうが、”刃物”で弾けば防げるだろ?」


 俺には見えていた。この周囲10メートルあたりから発射される数百の弾の弾道と、ここに到達するまでのタイムラグが。


 これは、相手レギオンが武器を統一している上に、指揮官が有能だったからこそ対策することが出来たこと。


 発射速度、弾速、発射タイミング。これらに規則性があるからこそ、俺には見えるんだ。


 そして、見えていれば反応できる。反応出来れば防げる。この残像刀の彗星の反照チートスキルで。


「(仕方ない、一時間のクール時間は惜しいが、やむを得ん……!)」


 確殺コンボ『【弾丸不可視化】』と『【追従弾】』を発動し、弾丸は発射された。


「(え…何で……?)」


 それでも、弾は防がれた。何事も無かったかのように、球は弾き落とされた。


「(お前には、軌道修正と、迷彩弾丸が見えているのか……!?)」


「(お前には今、何が見えている……?)」


「(数十人分の高速銃弾を避けながら、この変化球にまで対応したのか……?)」


「ありえない、この最強戦術が通用しないわけがない、これを防ぐなんて不可能だ!!」


「……不可能を可能にするって言うけどなあ。不可能ってのは、そんなに甘くねえよ」


 ガボアは笑ってしまった、目の前の非現実的な現実に。


 ——俺は笑った。


「運命を変えることに比べりゃあ、銃弾を回避するなんて、造作もないんだよ」


『レベルアップしました』


「……ひぇっ、お前は一体何者なんだ!?」


「もう二度と血迷わないようによーく頭に叩き込んでおけ。俺はグローチスレギオンの特攻隊長、空木蒼うつろぎそらだ———」






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