レギオン乱戦

第29話 レギオン乱戦①不吉な予兆

 ——それから、一週間ほどが経過し。


 ボスを倒し回っては、空き家で夜を過ごした。危ない地帯は避けつつ、人の目につかない所でひっそりとレベリングする毎日だ。


 食糧は、モンスターのドロップと落ちているアイテムでどうにかなっている。というかこの世界なら週一の飯でも生きていける。


〔ステータス〕

空木蒼うつろぎそら Lv.45

〈装備〉

E.星屑の蒼剣/E.白銀竜の小手/E.琥珀の髪飾り/E.幸運のブローチ

〈スキル〉

スラッシュ/スライス/グリンドバイス/スピニングレイド/ネオサイクロン/リバースインパクト/リバースリフレイン/アクスブレイク/ブレイクスルー/スライドウィープ/ウェーブムービング /シェープソルブ/ランディングピアス/クローズクロス/ラッシュブロー/ソニックブレイブ/リボルブショット/殺戮の宴/?????


 レベルも結構上がったし、新スキルもかなり習得したし、成果はまずまずといった所。


「え……?」


 そんな時だった。初めての活躍、いきなり『異軸時計』の通信機能が鳴り出したのは。


『緊急事態だ、事は一刻いっこくを争う!!』


「え、何……!?」


そら、今どこほっつき歩いてるんだ。いいからすぐに帰ってこい!!』


 スナッグ総長の声は、いつにもなく慌てていて、こちらも不安になってしまう。


「おい、何があった……!!」


 そこで通信は、ぷつりと切れてしまった。


(これは、只事ただごとじゃなさそうだぞ……!)


 もたもたと、帰りのゲート地点を探している暇もない。俺は急いで最寄りの駅に向かい、グローチスレギオンを目指した。


 二分おきの列車運行図表ダイヤグラム、ライフラインは通ってないのに電車は動く。まったく、この世界は便利なのか不便なのか。


 車掌も乗客も居ない電車は、ガタガタと揺れる。席にどしりと座り込み、膝を立て、もどかしさにうずうずと足を揺らす。


「一体、グローチスレギオンに何があったというんだ……!」


(もしかして、あの時の神社で揉めた一件のせいで、奴らが報復に……!)


(それとも、他のレッドカラーのレギオンに侵攻されたのか……?)


(俺が早く帰っていれば……こんなんで、みんなが死んでしまったら……!)


 一向に気が休まらない。みんなは大丈夫か、無事でいてくれるのだろうか。


 ——夏は。


 仮に。もし仮にだが、彼女を失ってしまった時、俺はどうやって立ち直るんだろう。


 それはどう考えてもやっぱり、まったく思いもつかないことだ。


「いやいや、そんな事考える必要もねえか。俺は、絶対に誰も死なせない。こんな簡単に、大切な人たちを死なせてたまるかよ」



……………………………………………………



「嫌だっていってるじゃないデスか。あなたたちには、か弱い乙女を痛ぶる趣味でもあるんデスか……!?」


 リミスを無理やり引っ張るのは、ヌチアルレギオンのリーダー。白い隊長の服を身にまとった、堂々たる兵隊たちの指揮官だ。


「へっ、勘違いしてんじゃねえよ、ここは奪い合いの世界だぞ。奪ったもんは俺のもの、使えるもんは何でも使うのが定石じょうせきだろ!!」


「いいか、お前らには死ぬまで戦闘要因になってもらう。捨てごまって事だよ!!」


 二人は縄で縛りあげられ、投げ捨てられる。ユーミア駅のホームの改札横にて。


「はわわ、やめて下さい。わたくしは嫌ですよ。グローチスの皆さんと別れるなんて絶対、絶対に無理ですわ!!」

 

 ヌチアルのリーダーは、ニヤついた目で。


「まあ、運が良ければちょっとは他のお役目もあるかもしれないけどね、うひひ……!」


「うげっ、本当コイツ気持ち悪いデス、さっさと消えて欲しいデスね!!」


 リーダーはそのままリミスの顔を、軽くペシンと叩いて。


「そんな減らず口も、今のうちだぜえ!!」


「……何が、今のうちだって?」


 電車から降り立つ。駅のホームへのお出ましは、特攻隊長の晴れ舞台。


「あなたは……蒼サン!!」


「はわわ、来てくれたんですね!!」


 俺は、改札横で縛られたユーミアとリミスの姿を目の当たりにした。


「待たせたな……!!」


 次に、兵隊の指揮官へと首を傾けて。ふらふらとした殺気をピリつかせる。


「おい、一体これはどういうことだ……?」


 すると、突然の甲高い叫び声は発せられる。同時に、改札の上に固定された数十もの銃口は、こちらに突きつけられた。


「そこ、止まれィィィ!!」


 銃を構える様子は歴戦の兵隊の如く。その中心にいるのが嫌味な顔つきのリーダー格、背が高く顔の彫りがやけに深い。


「今現在から、ここら一体の区域は全て、我らヌチアルレギオンの支配下とするゥ!!」


「今、ここで降伏して我がヌチアルレギオンの配下に加わるのなら、命は取らない」


(こりゃ困ったな、こいつ本気だぞ……!)


「すいません。総長の指示で蒼サンを迎えに来たら、こんな状況になってて。私たちも何がなんだか、追いつけてないんデス!!」


 リミスに続いて、桃髪癖毛のユーミアも。


「向こうもかなり混戦状態みたいです。早くしないと、グローチスが危険ですわよ!」


「……分かった、すぐ向かおう!!」


 そんな俺たちを見逃すわけもなく、ヌチアルのリーダーは。


「行かせないよ〜。だって狙いは、最初から”君”の足止めだからねえ!!」


(俺が、狙いだと……?)


「オッサムは、絶対やらないといけない宿敵です。今回は決死の覚悟でビビアールの力も借りているんです、目的遂行出来なかったら、皆さんお分かりでしょうねえ!!」


 大声をあげ、兵隊たちを鼓舞させた。


 俺は、既に四方を囲まれていた。こいつが今、一度ひとたび合図したらその瞬間、この空間には数百の銃弾が飛び交うだろう。


(それが、どうした。)


「特攻隊長の役目は、グローチスの皆を、責任持って外敵から守りぬくこと!!」


「あいつに与えられた役目、まずは今ここで、しっかりとこなしてやるよ!!」


 この応援団長並に熱気が入った叫びは、ここにいる全ての人の注目を一点に集めた。



……………………………………………………



「調子はどうだい、スナッグ総長〜!!」


 一方で学校の敷地内では。教室の中、スナッグ総長は宿敵と対峙たいじしていた。


「お前はグラント。なぜお前がここに…まさか、お前がこの乱戦の首謀者なのか!?」


「ピンポーン、大正解。これは全てビビアール、いや俺の差し金さ!!」


 グラントは銀髪一色のスタイリッシュな短髪とは裏腹に、ゴリゴリの物理破壊装備で。


「どういうつもりだ、この前の件はスポット区域の一部譲渡で手を打ったはずだろう!」


「いや〜それがねえ。俺、辞めたんだよ、そういうの。お前ら見てるとさあ、なんか無性にイライラしてくるんだよなあ」


 銀髪の鉄拳と、銀と黒のメッシュの銃剣は互いにぶつかり合う。その攻防はすさまじく。


「なあ、こんなことはやめにしないか。争ったって、何にもならないだろ!!」


「何を言い出すかと思えば、本当ッ、てめえらは甘えなあ、甘すぎる。残念だが俺はもう、引き下がれない所まで来てんだよ!!」


「何を、言ってるんだ……?」


 グラントは、メニュプレートからレギオンカラーを表示して見せた。


「じゃーん、ついにウチもレッドカラーになっちゃいましたー!」


 スナッグの腕は止まる、それほどまでにその告白が衝撃的だったんだ。


「お前、それ……なんで、少なくとも昔のお前はそんな奴じゃなかったはずだ……!」


「理由なんかねえよ。今回だって、勝てそうだと思ったから、ちょっくら狩りに出ただけさ。全部、隙を見せたお前が悪いんだよ」


「……そんなの、あまりにふざけてる!!」


「知ってるか、ここはゲームの世界なんだぞ。モンスターをちまちまやるよりも、レギオンをぶっ潰した方が断然美味しいだろお〜?」


 グラントは暴れる。『破壊の鉄拳』の特殊スキル『グランドバースト(爆壊)』は超火力大爆発、スナッグは壁につき飛ばされた。


「深刻な食糧不足、チーム内レベル不足による探索困難。この世界のめんどっちいこと、なーんも考えなくて良くなるんだぜ?」


「スナッグ、お前も早くこっち側に来い。お前はどう考えたって勝者の側だ。さっさと慈善活動じみた真似なんかやめて、俺とこのゲームの醍醐味だいごみ堪能たんのうしようぜ!!」


 スナッグは、そんな呼びかけには屈しない。『白馬の銃剣』からは特殊スキル『ホーリースタニング(輝斬)』が突き出される。


「どうして、どうしてお前は自分からあえて苦しいいばらの道を行こうとする。本当に生きたいなら戦えよ。お前らのやり方は、生存本能に矛盾してるんだよ!!」


 どれだけ身をそがれようとも、スナッグは諦めない。銃剣の構えはさらに鋭さを増す。


「……ダメだ。僕のこのやり方だけは、絶対に曲げられない!!」


「人を殺すために戦うなんてあり得ない。お前が人を殺すために力を使うなら、僕は人を守るために、いつまでも戦い続ける……!」


 グラントは、鼻で笑い飛ばす。


「だからいつまで経ってもてめえらは弱っちいままなんだよ。お前ももう、分かってんだろ。これしかやり方が無いことくらい!!」


「弱者を守って何になる、弱者をかばって何になる。お前の向かう非合理の先に待ってるのは、敗北と淘汰とうただけだぞ……?」


 スナッグ総長は、いつだって真剣だった。


「僕の役目は、心優しい人たちが、こんな辛い世界でも恐怖におびやかされることなく、いつでも安心して暮らせる居場所を作ること」


「だから、僕は最後まで守り抜いてみせる。いつまでも、ここにいる皆が笑っていられるように!!」


 Aランクのビビアールと、Bランクのグローチスの戦い。スナッグの憶測おくそくで戦力は五分五分かと思われたが、そうはいかなかった。


「じゃあ残念でした〜。なんたって今頃、裏交渉で集めた強力な救援、貴重な戦力たちがこちらに来ているはずだからねえ!!」


「それに、お前らの情報もつつぬけだ。もう各地に出回ってる頃だろうよ。お前らは物量でも情報でも、負けてるんだよ!!」


 余裕に構えるグラントに、スナッグは自信満々に言い返す。


「それはどうかな」


「……なんだと!?」


「なにせ、もうじきここには、最強の特攻隊長さんが戻って来るんだからね———」


「……ああ、そうかい。無事に、ここまで来られるといいけどねえっ!!」

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