第27話 星屑の蒼剣

「なんだよおい、いいからさっさとその武器、よこしやがれッ!!」


「……だから、嫌だっつってんだろうが!」


「勿体ねえんたよ、俺たちはザリオーネレギオンなんだぞ。武器だって、強いやつに使われた方が本望だろ!?」


 俺は何事もなかったように、トコトコと店の中のドレイフさんの所にまで歩み寄った。


「——じゃあ、俺なら役不足か?」


 ザリオーネなるレギオンの三人は、目を丸くした。ドレイフさんは、慌ててその手に持っていた武器を俺に手渡す。


「帰ってきたのかっ、そうだった、早くこれを受け取ってくれ!!」


「——どうやら、完成したみたいだな」


「今回ばかりは骨の折れる仕事だったぜ。どうよ、この双剣の出来栄えは。いやあっしが保証しよう、これは正真正銘、紛れもなく今まで手がけてきた中で一番の最高傑作だ!!」


「——最高傑作の特注か。ありがとう、丹精込めて作ってくれたんだな。めちゃくちゃカッコいいよ、この双剣!!」


星屑ほしくず蒼剣そうけん(A+)』


 その鋭利にそり立った双剣のうち片方の

刀身は、深い深い大海がその中に詰まっているかのような紺碧こんぺきの青。もう一方は、広大な草原を包み込むような蒼色をしていた。


「……やっぱ、ドレイフさんはすげえや。その熱意、しっかり受け取ったぜ。もう、モブキャラ共の好きにはさせねえ!!」


 そうだ、夢ってのは誰かに踏みにじられて良いような物じゃない。他の誰でもない、自分自身で描きあげるものだから。


 レギオン間での事情はよく知らないけど、この意志は引き継がなければいけない。

 

「俺はもう、こいつらの仲間だ。だからこれ以上、シャストンレギオンが貫いてきた方針に手出しはさせねえよ!!」


 きょとんとした三人の男の顔は、ゲラゲラとした大笑いに転じた。


「そもそも誰だよお前、俺らに刃を向けることの意味、分かってんのかあ?」


 俺は双剣の色合いを、奥深くまで見つめて堪能たんのうし、両手をギシッと握りしめた。


空木うつろぎさんも、早く逃げましょうよ。三体一は流石に無茶が過ぎます、それに奴らのレギオンのレベル基準は……!」


 ドレイフの弟子ジェイドは知っていた、敵に回してはいけない相手というものを。


『display player-data』

『Lv.54』『Lv.53』『Lv.51』


「さっきまでの威勢の良さはどうしたのかい。まさか怖気づいちゃったのかな、ところで君のレベルはいくつなんだい、坊や!!」


『display player-data』

『Lv.39』


「ははっ、嘘だろ。この程度のレベルで俺らにたて突こうなんて……とんだ思い上がりでちたねえええ!!」


 大男の斧は火山が噴火する時のように、ドカンと振りかざされる。


「だから、ボクは駄目だって言ったんですよ……!」


 ジェイドとクレスは、これから起こるであろう痛々しい光景から目を背けようとした。


 しかし、しばらくぶりに双剣を握りしめてしまったその時の俺の脳内辞典には”敗走”なんて二文字は無かった。


「よっ、と……!」


 くるりと一回転した双剣の斬撃は軽々と、大男の斧を貫通して手を切り裂いた。


 手首を切られた男の叫び声は、汚かった。周りの男二人は”え?”と声を漏らす。


「それじゃあ、この双剣のお手並み拝見といきましょうか!!」


 双剣は、まるで手のひらがタコの吸盤になってしまったのかと思ってしまう程に、ぴったりとフィットした。


「くそっ、よくも仲間をやってくれたじゃねえか……!!」


 さらに振り下ろされる二つの剣を、左腕に、右腕に、目はキョロキョロと。蒼と紺碧こんぺきの刃は構えて、ばちんと弾く音が響く。


「嘘だろ、一体これはどういうことなんだ、おいおいおいおいッ!?」


 ぐいっとひねった足首の関節、くいっと曲折させた手首の構えは、同時に肩と腰の駆動を増長させ相乗効果を生み出す。


「こりゃあ、過去一言うだけあるわ。切れ味抜群……!!」 

  

 片方は右肩から、もう片方は左腹から放たれる双剣は、直線的にねじ曲がっていた。


 二本あるから動きのバリエーションが無限に増える。守りながらでも、満足の切れ味。


(やっぱ、時代は双剣だよな……!!)


 二本あるから、二倍の速さで打ち込むことができる。攻守の交代は十倍楽だ。


「もたついてんじゃねえ。早く終わらせんぞほら、囲んで叩けええッ!!」


【クラッシュハンマー】【アクスブレイク】

【ブレイブスラスト】


 三方向から同時発動する格上のスキルは、圧倒的パワーとスピードで俺を収容する。


 これは、数量と力量の差が集約した逃れられぬ窮地。届かない、圧倒的戦力差だ。


 ——だから、新たに生み出すんだよ。


 新しい、適応の自己流オリジナルスキルって奴を。


「曲撃の…『スピニングスラッシュ』!!」


 凝りはほどけた。まずは腰の回転から始まり、そこから腕と肩は双剣を奔走ほんそうさせる。高速連撃の三コンボ。一対三の勝利だ。


「どうなってるんですか、相手はザリオーネなんですよね……? もしかして、あの双剣に仕掛けが……?」


「鋭いじゃんクレス。あれは、今あるだけの素材全部をつぎ込んでまで鍛錬した強化武器の完成形パーフェクトフォームなんだ!! まあそれだけで、あの状況は説明できんかもしれねえが」


「それって、仕掛けっていうより単に武器として強いだけじゃあ……?」


 この時、生まれての初めての体験した。相手の動きが、完全に”止まって”見えたんだ。


(なんだろう、この感覚は。そうかこれが、余力ってやつか……!!)


 今まで俺は、全身全霊を持って格上に立ち向かってきた。でも今回は違う。


 今はたった三人の一プレイヤーが群がっているだけで、何の弊害も感じない。


 思うままに双剣を振り払う、そうすると一人が倒れる。そのままもう一度振るうと、もう一人が倒れる。最後の一人も、同じようにして倒された。


「嘘でしょ、ありえない。五十レベル以上の奴らがあんな簡単にバタバタと。お前って、すげー奴だったんだな……!」


 ジェイドとクレスはすぐに駆け寄ってきた。こんな事が起こった後だというのに、ドレイフさんも大笑いしながら近づいてきた。


「いやあ、れ直したよ。可愛い顔してる癖してアンタ、いい男じゃねえか!!」


 肩を結構強めにポンポン叩かれたけど、嫌な感じはしなかった。


「ありがとう。いい男なんて言われたのは、生まれて初めてだよ」


 気絶した男たちは縛っておいた。目を覚ました後には尋問して、きっちりと奪った装備品は返却させた。


 それからこっぴどく咎めて罪の意識を植え込ませた後、縄を解いて釈放。


 すると三人組はすぐに、震え声を上げながらそそくさと去って行った。


「それで、どうだった……? あっしが作ったその双剣の使い心地は!!」


「ああ、最高だ!!」


 ドレイフさんと俺は意気投合。心は通じ合い、熱い握手が交わされた。


「やっぱり、変わり者同士は惹かれ合うものなんですね……」


 なんか近くで悪口を言われたような気がするが、気のせいか。


「それで一つお詫びなんだが、預かった素材、全部この双剣に使っちまって。すまない、ちょっと没頭しすぎてな……!」


 軽いノリで謝る名工の隣では、弟子達のシリアスなムードが漂っている。ジェイドは。


「ほんとすいません、うちの師匠が勝手に。何とお詫びすればいいか……」


「いいんだ、気にしないでくれ。それだけ本気でこの双剣だけに集中して、魂を吹き込んでくれたって事だろ!」


 それに実際、かなり満足している。まさかこの世界で、ここまで仕上がった双剣を振ることが出来るとは感激のあまりだ。


「分かってるじゃないか。一点特化、これもまたロマンがあるだろ……!」


「……だからといって、人の素材を全部勝手に詰め込んでしてしまうなんて、やりすぎじゃないですか?」


「なんだクレス、こんなすごい武器を作れる機会なんて滅多にないんだぞ。全身全霊を注いでやらないと、勿体ないじゃないか!!」


「……確かに、そうかもしれませんね。職人魂ってやつですか!」


「なんだ物分かりがいいじゃないか。偉いぞ、さすが我が弟子二号だ。まったく、ジェイドも少しはクレスを見習って欲しいもんだね」


「——なんですかそれ、やめて下さいよ、何だかボクが悪いみたいじゃないですか」


「そうだよ、自覚ないのかあ。あんたはまずその普遍的な忠実さを捨てろ、そういう所が職人への道の始まりだぜ?」


「——なんですか、何かボクだけ扱い悪くないですかね!?」


 この三人のやり取りを見てると、本当に親しい間柄なんだと実感する。


 同じ趣味を持った人が少人数で、同じ目標を掲げてその道を極める。そういうのも、いいなと思った。

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