第22話 攻略班メンバー

 ——あれから一ヶ月と数日が経った。


 今日は商店街の大通り、スポットからはモンスターが出現する。


『デモンスピリット』

『Lv.33』

『ブロンズビー』

『Lv.28』

『ブロンズビー』

『Lv.29』


 勝敗が決まった勝負には特攻、速攻前方に飛び出したのはこの両脚。


 スキル鍛錬の蓄積から、一点集約剣撃の『スピニングレイド』は軽快な剣筋を見せる。ブロンズビーは砕け、剣は空中で回転。


 直後、足をキュイっと方向転換。直行拳撃の波動『グリンドバイス』は、二匹目のはちの体を手のひらで針先から突き飛ばす。


 三連撃目は決定した。落下するただの長剣をキャッチ。全身を炎でまとった悪魔をひとなぞりで両断するのは『リバースインパクト』


「みんな一撃ですか。これ、私たちが来た意味ってあるんでしょうか……?」


 グローチスレギオンの副長、キレーナは相変わらずのキリッとした軍服姿だ。俺含め攻略班の三人は、次の目標へと歩き出す。


「ちゃんと見てたか。キレーナとミスリーには俺の活躍をしっかりと目に焼き付けて、証人になってもらわないと困るからなー」


 あれから一ヶ月、ようやく中継地点の攻略班に入れたんだ。あくまで中継だけど。


「本当、しっかり頼むぞ……!」


 今まで、スナッグ総長には何度軽くあしらわれてきたことか。


 毎日のようにこき使われて、毎回何かとそれっぽい理由を突きつけられては昇進防止の現状維持。期待させておいて落とすお約束だ。


 例えばこれ。


『ええ、今日のスポットって近場だったよねえ。それにしては遅くなかったかい、特攻部隊だったら、この二倍はスピーディーにこなさなくちゃ駄目だよねえ』


 他にはこれとか。

 

『あれ、メンバーが負傷しちゃってるじゃないか。もっと周りが見えるようになってからじゃないと、昇進は厳しいんじゃないか?』


 挙句あげくの果てには。


『今日は一つもアイテムがドロップしなかったのかい。それじゃあ君の昇進は先送りかな、運も実力のうちだよ』


 まったく、特攻部隊ってのがそんなにも厳しい役職なのかよ。


 やけに高回転な無人電車に乗っては、色んなモンスターと戦わされたものだ。


 ドームの中でケンタウロスと戦わされたし、お城では武者と刀を交えた。遊園地ではゾンビパニックで大変だった。


 あとガーゴイルの巣窟になった映画館は厄介だったし、図書館のジャックランタンには少し苦戦を強いられた。


(でも、また婆ちゃんみたいに関係ない人が殺されてしまうかもしれないんだ……!)


 あれから大鎌白マントについて聞き回ったが、結局何も情報を得られないまま。


 皆は知らないかもしれないけど、俺は知っている。このゲームは一刻も早く終わらせなくちゃいけない。


 だからさっさと分布図とゲートを使って、もっと強い相手と戦って、いち早く強くならないといけないんだ。なのに……


「まったく、俺はスナッグの小間こま使いじゃないんだぞ。何で毎日、こんな雑魚敵ばかりを相手しなきゃいけないんだ……!!」


「スナッグの命令なんだろ。言われた通りやればいいじゃないか、きっとあの人もいつかはお前のこと、認めてくれるだろうよ」


 ミスリーは相変わらずのゴテゴテ全身鎧装備の黒髪だ。それに対する黒紫髪、キレーナは軍服のマントの中に立派な長剣をたずさえている。


「攻略班に入っても何も変わらないじゃないか。まったく、こんなに散々こき使いやがって何がしたいんだよ」


 一ヶ月のイライラは、ここにつどう。


「いつもヘラヘラしながら『そんじゃあ、また頑張ってねー』とか、一体あいつは俺を何だと思ってるんだ……!」

 

 キレーナはムスッとした顔つき、口だけ”ヘ”の字になってメラメラとそり立つ。


「もしかしてあなた、今物凄くスナッグさんの悪口を言ってませんか。もし仮にそうであるのならば、即刻そっこく懲戒ちょうかい処分ですよ……!」


「総長への冒涜ぼうとくは私が断じて絶対に許しません!!」


 キレーナ副長、ルックスはすさまじくカッコよくてれ惚れするのだが。


「ええ、ちょっと厳しすぎないか……?」


「ぜんぜん厳しくなどありません。それだけ総長が偉大で崇高な方なのです!!」


 こうもスナッグ総長をしたっている様子はまさに心酔しんすい、いや崇拝すうはいって感じか。ちょっと残念に感じるところだ。


「もう、何でもいいからもっと今のレベルに相応ふさわしい仕事をくれよ……!!」 


空木蒼うつろぎそら Lv.37』


 あれから暇な時は常に色んな素振りを続けているのだが、流石にこのレベリングも限界に近づいて来た。


 スキルに限っては、あれから一つも新しく習得出来ていない。


 スキルレベルも伸び悩み、何かがカンストしてしまったような感覚だ。


「はあ、もうこの世界にも慣れてきたなあ」


 もうこの殺風景にも慣れた、最初は違和感のかたまりでしかなかったものが、今となっては別に何とも思わなくなったものだ。


「なんだ、まだお前はここに来て一ヶ月かそこらだろう。順応が早くないか。実は言うほど慣れてないんじゃないのか?」


 そうそう、キレーナ副長は来訪四年目らしい。それなりに落ち着いていて、スナッグ総長を除いて他とは明らかに違う風格だ。


「まあ、そうなのかもしれないな」


 順応が早いなんて、”昔”の俺とはかけ離れた、似ても似つかない言葉だから。


「ミスリーなんて、このレギオンに入ってから半年経ってもおどおどしていたからな!」


 キレーナがおちょくると、ミスリーは気まずそうにそっぽ向いた。


「それで、二人はどんなご関係で?」


 呟くと、軽いノリで返信は返ってくる。


「こいつとは腐れ縁だ。ちょっと頼りない同期だが、悪い奴ではないんだ。どうか嫌わないでくれるとありがたい」


 鎧は歩くたびにガシャガシャと雑音を鳴らす、でも不思議と乱暴な感じはしない。


「それに何かさっきからこの人、一言も喋ってないんだけど……」


「ああ、ミスリーったらリージア元隊長がやられてからずっとこんな感じでな」


「どういうことだ……?」


「ごめんな。ミスリーは、ものすごく頭が弱いんだ」


 おそるおそる、いかつい鎧の方を向く。その顔は和やかだった、むしろ笑ってる?


(これで、怒ってないのか……)


「こいつはいつもぼーっとしていて、とてつもなく判断力が鈍い。だから強い権力とか同調圧力に流されっぱなしなんだ」


「きっとリージアは、言いなりになってくれることをいい事に、ミスリーのことをいい手駒てごまとして見ていたことだろうが」


「それこそそらが動いてなければ、今でもあいつは無理な探索の指示を続けていただろう、そのことは本当に感謝しているぞ……!」


 ミスリーはどうやら、別に俺のことをうらんでいるわけでもないみたいだ。


「それはそうと、最近リージアの顔を見ないが、何をやっているのだろうか……?」


 確かにあれから全然顔を見ていない気がする、失踪しっそうでもしたのか。


「さっきも思ったけど、そらって色んな属性の技使えてすごいよなあ。さっきの戦いだけを見てもざんとつばつの三つは使っていたよな」

 

 ミスリーが突然に話し出したと思ったら、何やらまた初耳の追加情報だ。


「何だそれ、属性なんてあるのか?」


「なんだよそら、そんなことも知らずに今までスキルを使っていたのか……?」


 ミスリーは謎に強気な口調で。


「おっと、これは指導がちゃんと行き届いてないんじゃないか、キレーナ?」


 キレーナ副長の反撃は速球。


「なんですか、どの口が言ってるんですか。あなたにだけは言われたくありませんよ!」


 ミスリーは少しおびえた顔色の悪さで。


「キレーナってたまに怖いよね、ちょっと苦手かも」


(今、明らかにミスリーが先に喧嘩けんか売ってたよな……?)


 謎の言動、確かにこの人はどこか抜けているのかもな。オブラートに包めば、素直すなおな気分屋って感じか。


「すまないな、流石にそれくらいは知っていると思っていたので……!」


 キレーナはこちらに振り返って、ぺこりと軽く謝る。


(もしかして、これも常識だったの……?)


 改めて。俺って、まだ全然この世界の仕様分かってないんだな。


「属性っていうのはな、スキルごとに決められている技の分類のことだよ。スキル一覧から見れるはずだぞ」


 メニュープレートのスキル一覧を裏返してみると、スキル毎に属性が表示された。


「私が知る中では、斬・突・打・刺・抜・乱・圧・射・爆・守・猛・波くらいだな」


 属性は全部、漢字一文字の音読みらしい。


「さて、ここを登れば今日のノルマのもう一匹目だよな」


 神社の階段を見上げる、ざっと百段ほどはありそうな段差。両端には生い茂った木。


「それじゃあ早速、スキル属性ってやつの効果のお試しといこうか!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る