第19話 臨時探索班メンバー

 ——そして翌日。


 俺たちは今日、総合病院に来ていた。さっそく探索班としての初任務ってことだ。


「フロットさん、何でそんなにげんなりしてるんデスか。やめて下さいよ、どんよりムードがこっちにも移るじゃないデスか……!」


 ちびっ子青髪のリミスは、やっぱり口調とイントネーションがユーモラス。


「そ、そんなこと言ったって、あまりにも不気味なんだから、しょうがないだろ!!」


 緑束髪ワックスのフロットは怖がり、またキョロキョロしながらビクビクしている。


「そうだぞ、怖がっていたって仕方がないからな。よし、それじゃあ早く進もう!!」


 筋肉ムキムキ赤髪ピリッツは、いつものピカピカスマイルで暗闇をマイルドにする。


「それで、何で夏まで来てるんだ……?」


 俺が問いかけると、夏はなんだか肩を落としているようで。リミスは割り込む。


「ええ、そらサンったらだめだめですねえ。夏サンは総長に頼み込んで、わざわざ蒼サンと同じ班に配属してもらったんデスよ!」


 夏は慌ててリミスの口を手で塞ぎ、ひそひそと何かを話している。


「そうだったのか、ごめんよ」


「いいよ、全然。それより今日の探索、一緒に頑張ろうね!」


 ピリッツとリミス、フロット。それと春風夏はるかぜなつ、これが今回臨時で組まれた探索班のメンバーだ。リミスが形上かたちじょうの班長らしい。


 病院入口すぐそばの受付を通り、廊下を並んで歩く。その暗さは独特のおぞましさ。


 しかし夏とはあれきり、気まずくなってしまっている。本当どうしたものか。


「ひゅーひゅー、何だかお二人さん、さっきからお熱いデスねえ!!」


 俺が夏と隣り合わせて話していると、リミスはニヤけ面でからかってくる。


「ちょっ、何言ってんだよ!!」


 そのせいで夏は顔をらして、うつむいてしまった。リミス、冗談でもやめてくれよ。


「だって距離もこーんなに近いし、どう見たってラブラブじゃないデスかあ」


 まったく、これはお化け屋敷デートじゃないんだぞ。確かに雰囲気はあるが。


「おい、夏もなんか言ってやれよ!!」


 しかし、夏は黙って小さく三歩分離れた。


(どうしてくれるんだ、本当に気まずくなっちゃったじゃないか……!)


 俺たちはそのまま、両脇りょうわきに見える病室をいくつも通り過ぎながら進んでいく。気持ち的に、目的地はまだまだ先のようだ。


 それにしてもこの廊下、暗すぎる。屋外でも暗い視界が、ここではさらに真っ暗になって何も見えない。

   

「あれ、夏、ここにいるんだよな……?」


 俺はちょっと心配になり雰囲気で手を伸ばすと丁度、夏の首元にぴとりと触れる。


 すると夏は”ひゃっ”と声を上げ、ビクッとした後ぷるぷると震えた。


「おい蒼、夏ちゃんが怖がっちゃってるじゃないか、気をつけろよ!!」


「うるさーい、ピリッツだって人のこと言えないじゃないデスか。ここは静かなんだから、あまり大声出さないで下さいよ……!」


 リミスが注意すると、フロットはへにゃっとした小声で。


「そうですよ、ピリッツさんはとにかく声がデカすぎるんですよ……」


 するといきなり、腕に何かの感触が。


「うお、なんだ……?」


 耳元には途切れ途切れの声。俺には分かった、その途切れていてもどこか柔らかい声が夏の声であることが。


「ごめん、怖くて。しばらくこうしてて良いかな……?」


 暗くて何も見えなくても、手が繋がれているんだ。そんな安心感が身を包む。


「怖がらせてごめん、落ち着くまで捕まっててくれていいからな……!」


 すると暗視に慣れ始めたピリッツは、腕で繋がれた俺たちに向かって。


「そうだぞそら、夏のことちゃんと守ってやれよ。お前、あの時言っただろ?」


「『夏は、俺がこの手で絶対に守る。夏の笑顔は、もう誰にも奪わせない』って———」


(あの時か……確かにそんなような事も言った気がするような……?)


 なんだか、振り返ると恥ずかしくなってくる。感情的になると、こうもクサいセリフが無意識に飛び出てしまうものなのかと。


(でも、夏を守りたいのは本当だ。)


 俺は夏の歩幅に合わせて歩きながら、そんなことを考えていた。


「おい、それはそうとお前はなんで頭の上に乗っかってるんだ……?」


 さっきから何か頭の上が重いと思っていたら、リミスがいつのまにかい上がってきていた。その声は直接頭に振動する。


「悪い悪い、蒼サンの雰囲気が何故か兄ちゃんに似ている気がして、そのノリでいっちゃいマシた!!」


「いやお前、そもそも兄ちゃんの頭の上に乗っかるのもおかしいんじゃ……」


 頭上に乗っているリミスの腕は、マフラーのように俺の首をぶらぶらと覆っていた。


「いやあ、失礼。重かったら降りますね」


「いや、別に良いんだけどさ……」


 結局、班長のリミスはそのまま俺の頭上に居座ることになった。


 腕にしがみつく夏と頭を乗り物にするリミス、二つの体重はかかる。二方向から違う力がかかっているせいで体がやけに重たい。


「こら、フロット。寄り道禁止!!」


 フロットは病室をあさる。リミスは、そのまま頭上から指示をする。


「いや、なんかいいアイテムでもないかなって思ったんだけどダメだ、何もねえや」


「そりゃあスポット以外のアイテムなんて、もうガチ勢に荒らされた後でしょうね。本当、仕事が早いことデスよ」


 やはりこの世界の物資、アイテムは貴重。それだけ遠出してでも回収しに来る価値があるのかもしれない、早い者勝ちってことだ。


 エレベーターは動かないので徒歩、今は丁度、さびれた階段に差し掛かって。


「まったく、私たちは遊びに来ているわけじゃないんですよ、そろそろ気を引き締めて下さいね……!」


 リミスは、俺の頭から一向に降りようとしてくれない。それでも指示はテキパキと。


「こらそこ、ちんたら歩いてんな。もっとビシッとせんかい!!」


「リミス、そういうことはせめて蒼の頭から降りてから言えよ……!」


「フロット、私語はつつしめ。今は私がこの班の班長なんだぞ!!」


 そう、何を隠そう頭の上に乗っかっているこの方が来訪三年目、メンバーの中で一番の最年長だ。


 見た目はちびっ子のように見えても、しっかりと率先してメンバーをまとめてくれている。なんだかんだで頼りになる存在だ。


「リミスは末っ子だったらしい。だから嬉しいんだよ、ここでは最年長だということが」


 ピリッツは、小声で俺に告げ口した。


「ほんと、フロットはもっとピリッツを見習ってほしいものデスよ。っておかしいなあ、もうそろそろスポットに着くはずなんデスけどねえ……」


 階段を降りた先の地下一階、またもや長く暗い廊下を歩いた突き当たり。


 ここのスポットは一週間前に攻略されたから、丁度モンスター復活のサイクルらしい。


「よーし、私の可愛い子分ども、心の準備は出来てマスか!!」


 リミスが気合を注入、それに釣られてフロットとピリッツは。


「おうよ班長、やる気満々だぜ!!」


「まったく、誰が子分だよ……」


 手術室の扉をぎゅーっと押し開けると、部屋の中心には布がかかった手術台がぽつり。


 その手術台は、白黒コードで繋がれた大量のゴツい機械に囲まれていた。


「あれを見ろ、ベッドが盛り上がってる……!」


 すると、いきなり黄色の証明がチカチカと光り出して部屋が点滅する。

 

「来るぞ……!!」





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