グローチスレギオン

第18話 レギオン入団

 翌朝、俺はそのまま職員室で寝てしまったみたいだ。体には毛布がかかっている。


 うとうと目を擦っていると現れたのはシュッとした顔立ち、スラッとした背筋、銀髪の一部に黒色のメッシュが入っている男。


「ちょっと、来てもらおうか。リージア隊長も先に待っている」


 俺はその男に引き連れられて校長室だった場所に向かい、リージアの隣に立たされた。


 聖騎士のような装備構成、シュッとした顔つきに穏やかな話し方。リージアと違って、この人からは本物のリーダー格を感じる。


「僕はスナッグ、ここグローチスレギオンの総長だ。メンバーから大体のいきさつは聞いたよ、君はそら君といったね……?」


 スナッグは組み合わせた手の甲を自分の口元に押し当て、目を細めている。


 この騒動を起こしたことをとがめられるのではないかと身構え、俺は下を向いた。


「ありがとう、よくやってくれた!!」


「え……?」


 俺はゆっくり顔を上げる、スナッグ総長は爽やかに笑っていた。しかし、すぐにその表情は真剣なものへと戻った。


「リージア君、聞いたよ。いやあ、僕がいないうちに随分ずいぶんと好き勝手にやってくれたみたいじゃないか。見損みそこなったよ」


「い、いや、それは違うんだ!!」


「え、何が違うの……?」


 リージア隊長は弁解を試みるもかなわず、泣く泣くの沈黙を見せる。


「ごめんなさい、スナッグ総長……」


 スナッグは、その謝罪に満足していないのか、リージアをまだにらみつけている。


「謝るのは、僕にじゃないでしょ。君が謝らなくちゃいけないのは蒼君と夏君、それとレギオンの皆なんじゃないか?」


 リージアは唇を噛み締めた、もうどうしようもない心境だろう。


「すまない、すまなかったそら……」


 リージアはそれだけ言って黙り込んでしまった、スナッグ総長は仕切り直して。


「まさか僕が遠征に行っているうちに、こんな事になっていたとはねえ。今回の一件で、僕の管理の甘さを心底しんそこ痛感したよ」


「それと、リージア君の処遇についてだが。隊長の地位を剥奪はくだつする。それと、そのまま素振りは続けさせておいてくれ」


「どうか今回の件はこれでチャラ、水に流してくれるとありがたいのだが。分かっているね、リージア君?」


 リージアは何も言わずただ小さくうなずいた、俺はそんな悲しげな男に向かって。


「えっと、そのことなんだが。元々俺は夏が悲しまなければ何でも良かったんだ。だから、ここまでお前にやらせるつもりはなかった」


 リージアは、ぽかんと口を開けた。


そら君は本当に、それでいいのかい?」


 スナッグ総長は念押しする、俺はゆっくりと大きく一回頷いた。


「まあ、しっかり反省してるみたいだし。言っておくが、レギオンの皆にはちゃんと謝っておけよ。それが契約破棄の条件だ」


 俺は『契約破棄』のボタンを提示する、リージアはそれを了承する。こうして素振り一万回七セットの義務は解消された。


「そっか、君は優しいんだね、それに強い。そんな君がこのグローチスレギオンに入ってくれるなんて、実に心強いじゃないか!!」


 スナッグ総長は、穏やかな顔つきで。


「僕は、蒼君の入団を心から歓迎するよ」


 これで俺は、正式にグローチスのメンバーになれたというわけか。


(そうだった、まず最初に聞かないといけないことがあったな……!)


「ところでいきなりだが、このレギオンにあるワープゲートの使用を許可してもらうことは可能か……?」


 今はとにかく情報が欲しい、それにもっと強くなっておく必要もある。


 その目標をいち早く達成するためには、ゲートを使って日本各地を巡回じゅんかいするのが一番手っ取り早いのではないかということだ。

 

「蒼君、それは流石に先走りすぎなんじゃないか?」


「僕は君の実力を実際には知らないんだよ。だから特攻部隊への配属は、君の正確な力量を見定めさせてもらってからだ」


 俺の目的は特攻部隊とやらへの配属ではない、部隊に配属されることで得られるゲートの使用許可とモンスター分布図だ。


「君には感謝しているし期待もしている、だがそれとこれとは話が別。戦いたいのなら、それ相応そうおうの力を示してみせろ」


「よし、そういうことならまずはグローチスについて知ってもらわないとね。キレーナ、どうかこいつの面倒を見てやれ、頼んだぞ」


 総長がその名前を呼ぶと、キレーナなる人物はすぐにこの部屋へ現れて。


「はい、キッチリ、頼まれました!!」


(どこから現れたんだ、この人は……)


 俺の専属指導役に抜擢ばってきされたのはキレーナ副長。キリッとした顔の輪郭りんかくに沿ったサラサラの黒紫髪に、凛とした風貌ふうぼう


 タイトな軍服に制帽をかぶった姿は兵隊の女指揮官のように気高く、腰には氷結の長剣を携えている。


「はあ、それにしても何なんだよあの言い分は……!」


 総長、あいつの言い分はこうだ。俺は今日の明日で、指定された近郊のスポットでのモンスター狩りにり出され。


 見事あいつのお眼鏡めがねにかなったら、昇進させてもらえるってわけだ。


「口をつつしめ、これはスナッグさんが決定したことなんですよ……!」


「なあ、総長ってそんな凄い人なのか?」


「何を言う、スナッグさんは来訪六年目にしてレベル五十三。あの方がいるから、このレギオンの安寧あんねいは保たれているんですよ!!」


(まったく、俺は早く前に進まなくちゃいけないってのに。)


「そっか、なら仕方ないな。郷に入っては郷に従えだ。いいぜ、俺はこれからグローチスの戦闘要員としてしっかりと働いてやるよ」


 キレーナ副長はゆっくりとまばたきをし、ハキハキとした声で話し始める。


「心を決めたようだな、では私からはとりあえず、基本事項をまとめてお教えしましょう」


 俺は”よろしくお願いします”と言い、頭をぺこりと下げた。


「まずはレギオンについて。レギオンは二人以上の要員で組織される団体、カフェだったりスーパーだったりファミレスだったり、まあまちまちの場所に散在しているな」


「グローチスはこの辺りでは一番大規模のレギオンで、あなたを含めて団員数は五十一名、全国自動集計ランキングでは三十二位、Bランクに属する中規模レギオンだ」


「ちなみにレギオンのランク付けは、システムによって自動的に算出された総戦力が基準になっているようだぞ」


「また、ランクごとにレギオン補正がかかる仕様になっていて、Sランクはレベルブースト+個人戦力10%アップ、Aは総戦力8%アップ、Bは6%、Cは4%、Dは2%となっています」


 強いものは報酬アイテムでさらに強く、弱いものは報酬を上げるために努力する。


 まるで、ソシャゲのモチベーションを引き上げるための一種の策略のようにも感じた。

 

「次にレギオン内での役割についてだ。ここでの役割は主に”探索班”と“攻略班”に分かれ、来訪一年以内の後期出現者は基本、探索班につく取り決めとなっている」


「探索班は、定期的にスポットから出現するアイテムを回収しに行くか、ある程度の人数で雑魚モンスター狩りをするのが役割」


「攻略班は小規模班で、比較的高レベルのモンスターを討伐するのが役割」


「そして、攻略班の中でもゲートの使用が許可されているのが特攻部隊の三名。実を言うと、私はその中の一人なんだ」


「本来ならば、初心者が攻略班に入ることはないが。お前の実力次第では、すぐに探索班から攻略班に昇進させるとの考えだ」


 キレーナさんはメニュープレートを開き、持ち物ポーチからいくつかアイテムを出す。


 まずは『モンスター分布図(下)』、スポットの分布や出現モンスターの大体のレベルが記録されている電子マップ。


 俺はこのアイテムを求めているのだが、借り物なので借りパクするわけにはいかない。


「これも支給だ、受け取れ」


 次は『ただの長剣』。長剣は使ったことがないが剣は剣だ、使ってみればきっと何とかなるだろう。


 更に『異軸時計』、この世界の一日は現実よりも二倍ほどの長さ。この時間サイクル下での影の追手対策だ。


「いいか、最悪の場合を想定して、時間を常に確認しながら動けよ」


 どうやらこれはとある技術者が広めた便利グッズらしい、しかも連絡機能付きだ。


「私から説明する事はこれくらいです、他に何か他に聞いておきたいことはありますか?」


「じゃあ一ついいか。この世界の人たちの平均年齢が、明らかに若年層な気がするが、これは俺の気のせいか……?」


 とりあえずちょっと気になったことを質問してみたら、すぐに解答は返ってきた。


「ああそれなんだが、不思議なことにご名答だ。ここには、大人も小さい子供も来ない」


(やっぱり、この世界に来るのが若者だけ。ならあの時なぜ婆ちゃんは———)


「しかも、この世界のプレイヤーは年老いたり成長したりしないから、パッと見じゃあプレイヤー歴が分からないんだよ」


 俺は、ぼんやりと窓の外を眺めた。


「本当に不思議だな、この世界は」


「……ああ、私も心底そう思うよ」


「ああ、それと。大鎌を持った白いマント野郎について知らないか? 今も正体を探っているんだが、全く手がかりが無いんだ」


「大鎌に白いマント、それは気味が悪いな。残念だが、そのような情報を耳にしたことはない」


「そうか、ありがとう」


「なあに、お安い御用だ。これからも、気になったことがあったら何でも聞いてくれ」

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