第17話 歓迎会の夜宴
夜の体育館。戦いが決したその直後、夏はこちらへと一直線に走ってきた。
「ごめん。こんな無茶を、あなたに押し付けちゃってごめん……」
いきなりの事で少し戸惑いながらも、俺は平静を保って夏の背中を
「いいんだ、これは俺がしたくてした事だから、夏が謝る必要なんて無いよ」
「ごめん、私が助けを呼んだのに、勝手にそれを後悔して———」
夏は笑いながら泣いていた。彼女の体に、何かずっと縛り付けられていた呪縛が
「そんな風に言わないでくれ、俺は夏に笑っていて欲しいんだ」
「うん、分かった。ありがとう、
その顔は、あの時、中学の教室で初めて出会った時と、全く同じ笑顔だった。
「おう、どういたしまして!!」
そうだ。これが、かつて俺が一目で好きになった笑顔なんだ。
「まさかこんな強いやつが、他にもここら辺の区域にいたとはなあ。夏から聞いたんだが、お前本当に初心者なのか……?」
ニコニコした赤髪の体育会系男に俺は背中を押され、ずっこけそうになる。
「ああそうだ。俺はピリッツっていうんだ、よろしくな!!」
ボディービルダーのような、爽やかな大笑いは、俺の緊張を解いた。
「怖がらなくてもいい。ここにいる奴はみんないい奴だぞ、俺を初めとしてな!!」
さらに、その隣にいた桃髪くせっ毛のお嬢様みたいな
「わたくしはユーミアですわ、宜しくね。あなたの戦いぶりには、本当に感激いたしましたよ!!」
その二人の間からひょっこりと顔を出したのは、青髪でキャピキャピとした、人形みたいな服を着た女の子。
「私はこいつら二人の先輩のリミス、よろしくデス!!」
「えっと、君は小学何年生……?」
「違ーう!! だから先輩って言ってるじゃないデスか、私はれっきとした十八歳。ギリ成人デスよ、ほんと失礼しちゃうわ!!」
鼻息を立てながらプッツンするリミス。あまり高いとは言えない
(見えねえ……先輩って立場上での話だと思ってた。)
「おい、お前らってもしかして、キャラメイクとかしてたりする……?」
こんな
「あれ、それってチュートリアルの時に説明されなかったか?」
(ええ、チュートリアルなんてあったっけ……?)
話によるとプレイヤーネームの決定と同じ時に、メニュープレートからキャラメイクができたらしい。再変更は不可ということだ。
「まあいいや。
丁寧に説明してくれているピリッツの後ろからは、リミスのギョロッとした視線。
「待ってくれよ、キャラメイクを知らないって事はお前、それがリアルの顔なのか?」
「まあ、そういうわけだ」
(まあ、この顔も一応は借り物なんだけどね。)
するとユーミアは、横から。
「ふふっ、そうですか。つまり、
キャラメイクしていないのはこのレギオン内では夏と俺だけで、レアケースみたいだ。
(夏も、チュートリアルに気づかなかったのか……?)
そんな夏はというと、少し照れていた。
「それはそうとお前らは良いのか。俺は、このレギオンのリーダーをボコしたんだぞ?」
「いやいや、逆にお礼を言いたいくらいですわ。私たちは、あいつのやり方に散々苦しめられてきた立場ですからね!」
優しい口調で、ユーミアは言う。
「まあ、そういうわけだ!!」
ピリッツはそう言いながら、上腕二頭筋をグッと膨らませている。
「そうそう、私もあいつが心底嫌いでした。本当、
前ならえの最前列にいる人の形で腰に両手やり、リミスは笑った。
「それで、リージア隊長♪」
続けてリミスは何かを思い出したように、悪意の笑顔を向ける。リージアは真っ青な顔で、ガチガチに固まっている。
「
俺はリミスの隣。謎ノリに乗って、同じくリージアに向かってニヤリと笑う。
「さあ蒼サン、思う存分かましちゃって下さい。半端な罰にしたら、こいつはまた同じことをやらかしますよ!!」
「ああ、そうだな。それじゃあ———」
俺は人差し指を突き出して、ゆっくりと口を開いた。
「素振り一万回、一週間ぶっ通しコースだ」
「え。それって言葉の
「”お前のレベルなら出来るよな?”」
見せかけの威厳はちりぢりに散りさった。あるのは鳥肌と、
「嘘だろ、それに俺様はこのグローチスレギオンの隊長なんだぞ、皆助けろよ……!?」
レギオンの人たちは皆、隊長を
「これが答えだ。それじゃあ契約は絶対だから、今日のノルマクリアまで頑張ってね」
リージアは足から崩れ落ちて、地面に両手をつける。俺はそんな隊長を見下ろした。
「クソが、やればいいんだろッ!!」
ヤケクソになったリージア隊長を囲んで、団員の皆は笑っていた。ピリッツは叫ぶ。
「
皆そろってずるずると、職員室だった場所に向かう。レギオンの
「歓迎会と言っても、これくらいしか用意ができなくてすまないな」
暗い部屋、ランプの明かりが灯っているのでメンバーの顔だけは良く見える。
「いや嬉しいよ、まさかこんなにも歓迎されるとは思ってなかったからな」
インスタントのコーヒーをすする。体に何かを取り込むのは久々なので、じんわりと全身に染み渡った。
この世界では、ライフラインが通ってない代わりに食べ物はアイテムとして入手できるし、お腹も空きにくいとのこと。
「それはそうと、
リミスはまた、ひょっこりと顔を出す。続けてユーミアの桃髪も、照らされた。
「それは、わたくしも気になりますわ。ステータスはどうなってるんでしょう、少しだけでも見せていただけないでしょうか?」
『ステータスオープン』
〔ステータス〕
〈持ち物〉
おんぼろな剣/ダークサンド×4
〈スキル〉
スラッシュ/アッパー/スライス/レイピア/グリンドバイス/アイアンウォール/スピニングレイド/サイクロン/リバースインパクト/リバースリフレイン/殺戮の宴/?????
「うお、すっげえ。なんだよこのスキルの数、ちょっと多すぎないか?」
「うわあ。なんか、特徴的ですね……?」
「ほんと、蒼サンはとにかくツッコミどころが多すぎなんデスよ!!」
勝手に
「お前、あのリージアをやったんだ。一気に昇進して特攻部隊に配属されてもおかしくないんじゃないか?」
なよっとした声を上げ、ボサッとした顔色悪めの緑髪はポリポリして。
「”かもしれない”って話だがな。ああ、俺はフロットだ、よろしく」
「良いよなあ、特攻部隊の奴らはここのゲートを自由に使えるんだぜ」
「ゲート?」
「すごいぞ、ゲートを使えばこの日本列島のどこにでも一瞬で行けちゃうんだぜ」
各地にランダムで設置されているワープゲート、一方通行だが瞬間移動が可能ときた。流石、ゲーム世界といったところか。
正直この機能は相当に便利だ、移動時間をカットできればそれだけ行動の幅が広がる。
そのためレギオンは普通、ゲートの近く、または囲むように結成されるらしい。その方が何かと都合が良いのだろう。
「まあ帰りは大変だし、良いことばっかじゃないんだけどな。そのせいで、いつ他のレギオンが攻めてくるかも分からねえし」
そうか、ここでは食糧が無くなれば現実と同じで死ぬし、物資が無くなれば拠点を争奪されかねない。
とにもかくにも、まずは生活を安定させないといけないってことか。この制約は皆にとって大きな心の負担になっているはずだ。
「まあ、そんな暗くなってても仕方ないよな。ウチには最高のリーダーがいるんだし、何も心配いらないさ!!」
(あれ、このレギオンのリーダーってリージアじゃなかったのか……?)
職員室の夜宴、椅子を囲んでお菓子をつまみ、コーヒを飲んでいる。
一方、対面遊戯に敗れ契約を取り付けられたリージア隊長は、体育館でゴルゴンの大剣の素振りを続けていた。
「はあ、なんで俺様がこんなこと……!!」
そんな隊長の元にスタスタと歩いて来た。その人こそが、このレギオンの総長。一番のリーダーであった。
「おい、これはどういう事なんだ。緊急の連絡があったから駆けつけに来たのだが……」
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