第16話 対面遊戯②君主に抗う牙

「おい、てめえレベルはいくつだァ……?」


「レベル……そんなこと、今はどうでもいいだろ?」 


「いいから、教えろッ!!」


 俺は”仕方ない”とため息をつき、メニューから『display player-data』をタップする。すると『Lv.19』の表記は浮かび上がる。


「はっ、はあ……?」


 その表示をの当たりにしたリージアの顔面は、深い困惑へといざなわれた。


「19……そんなの嘘だ、嘘に決まっている、この平行世界ではレベルが五つも違えば、大きな力量差が生まれてしまうはず……!!」


 また一つ二つと、観客はざわつき始めた。ざわめきは連鎖する。


「しかも、あいつの使ってる剣を見てみろ。あれは”おんぼろな剣”じゃないか……?」


「本当だ、まさかあんな低レアリティの武器で、今までスキルを打っていたというのか……!?」


 ゴルゴンの大剣から重々しく放たれた前突き、『グリフトエッジ』は空気を弾け飛ばし、気弾を爆発させる。


「おい、ふざけた嘘ついてんじゃねえよ、俺は四十五レベルなんだぞッ……!!」


【リバースソード】


 俺はその一瞬の駆け引きの間に、するっと剣を逆手さかてに持ち替えた。気圧の気弾はスパリと二つに斬り裂かれた。


「(なぜ、なぜ当たらない。なぜこの俺様が、こんな雑魚相手に、こんなにも手間取っているんだ……?)」


 剣と剣は交わる。乱打の破裂音、俺の斬撃は、相手の剣筋をかき乱す全身全霊の強撃。


「(なんだよこれ、動きが分からない。分身でも使ってんのか……!?)」


 黒紫髪の副総長の目線は、その激戦の戦況をとらえていた。口を開け、目を見開き、その異様な光景に釘付けとなっている。


「なんだ、あれは……パッと見は、初心者がヤケになったような大振りにしか見えないが、あいつの動きは……!!」


「あいつは細かな手首の動作、随時ずいじ随時での足腰への体重の掛け方、柔軟な腕と肩のひねりで衝撃を最高率にしのいでいるんだ」


「こんな大きな動作を続けながらも、ずっと攻撃の姿勢を保っている、防御の構えを崩さずにいる、それでいて相手を翻弄ほんろうして凌駕りょうがしてやるという気概きがいまで感じる……!」


「あいつは一体、今までどんな戦いをしてきたというんだ……」


 困惑から抜け出し、少しばかりの焦りを見せたリージア。大剣には、莫大ばくだいなエネルギーが集まり、まぶしい金属光沢を放つ。


「隊長、流石にそれはやりすぎだっ、みんなも早くリーダー止めろ!!」


『ゴルゴンの大剣(B+)』

『《アクティブ》【斬剛斬鉄ざんごうざんてつ】: 三分間、スキル威力と剣の硬度を二倍にする』


「もうおしまいだ。これはなあ、超当たりのぶっ壊れスキルなんだよ!!」


 目の前の荒れ狂う精神は残虐非道、それでも俺の冷静さは、一ミリたりともぎ落とされてはいなかった。


「いや、あいつはまだ戦えている……!?」 


「どうしてあいつは、まだ戦えているんだ。こんな事があり得るのか、あのスキルによる攻撃力の増幅は桁違いだぞ!!」


(どんな強敵でも必ず隙は現れる、その一瞬に全てを叩き込むんだ。失敗したら、また次へ誘導すればいいだけ。)


 助走をつけ走り出す。腰は後ろに突き出し、

上半身を前へ前へと突き出して走る。


「おいおいどういうつもりだッ、そんな一直線な動きじゃあ隙だらけだ……って」


 剣は斜めに突き出され、音楽の指揮棒を四拍子で振るうような尖った剣筋を描く。


『レベルアップしました』


 光が残像を示す、相手を錯覚させる剣筋。

『スローインパクト』、攻撃には緩急をつける。”緩く打つ”と”急速”の高速切り替え。


『レベルアップしました』


 今はもう魔術で身体を強化できないし、キューブによる身体強化の恩恵も無い。だけど、身体の動かし方だけは覚えている。


 頭では分からなくても体が覚えている、体の各パーツが一体感を持って結合する、そうなるべくして成される動きがここにはある。

 

「分からなかった、さっき着地した瞬間が見えなかった。どういうことだ、あいつの動きが、どんどん速くなっていくぞ……!!」


「おい、嘘だろ。見ろよ、あいつ、戦いながらレベルアップしていないか……?」


「本当だ。でも、戦いながらレベルアップだなんてこと、本当にあり得るのか!?」


 動きに慣れさせないように、常に新しい動きをし続ける。息を吸う時と吐く時の、攻撃するべき時とそうでない時の力の入れ方。


「本当に、本当に勝ってしまうかもしれない。良いぞ少年、頑張れ……!!」


 紫髪の女団員は、再び口を開けて叫んだ。


「お、おいそんなこと言って、リージア隊長に聞こえでもしたら……!!」


 緑髪の団員は、おびえた声を上げる。


「(そうか、私はずっと誰かが助けに来てくれるのを待っていたんだ。)」


「(この人は——君じゃないのかもしれないけど、やっぱりどこか彼と重ねてしまう。)」


「(私に話しかけに来てくれてありがとう、心から寄り添ってくれてありがとう。助けに来てくれて、嬉しかったよ———)」


 フラメンコのステップだ。荒れ狂うメトロノームの重心で、壇上だんじょうを乱せ。


『レベルアップしました』


「俺は、夏の心を傷つけたお前を、絶対に許しはしない!!」


 ガンマンの銃口さえも定めさせない身のこなし。暴れ狂う闘牛には、冷静沈着な赤いムレータをひらり。


『レベルアップしました』


「何を言っている。あいつはルールを破ったんだ、だからルールに従ったまでだ!!」


 スライディング、低姿勢の回転。相手の攻撃をい潜って、内股への攻撃。


『レベルアップしました』


「お前は一つ大きな勘違いをしている。それは己のおごりに対する、何の根拠も信憑性しんぴょうせいもない、偽りの自信だ」


「黙れ、俺様は今ここで一番の年長者、俺がここで一番強いんだ、ならば俺様ために誠心誠意尽くすのが一番に決まってんだろ!!」


「知ってるか。ルールってのは、お前のためにあるもんじゃないんだよ」


「何だと……?」


「もう少し、周りを見てみないか?」


「はあ、誰に説教垂れてんだよ。をわきまえろ、身の程を知れ!!」


 俺は、クモ型戦闘機ロボットのような足さばきで、スケートのように床を滑る。


「何ッ、またリズムが変わった……!?」


「(次は右、いや左、いや、奴はまた下からくるかもしれない……、内側、外側……!)」


 体操選手よりもアクロバットに、ブレイクダンサーよりも軽やかに。


「お前じゃあ、俺には勝てない———」


 空中の人影は乱舞する。剣は既に腰に構えられ、引き抜かれる用意が出来ていた。


「 消えた!? 」


『レベルアップしました』


「上だよ———」


【リバースリフレイン】


 この瞑想めいそうは心臓の流動を反響させる。その波動は剣へと伝播でんぱする。反響したきらめく刃の灯火は、この空間を圧縮させ、分断した。


「何だとッ……!?」


 回転して地面につき刺さったゴルゴンの剣の柄の上に、俺はひょいっと着陸した。


「す、すげえええええ、本当に倒しちまったよ、うちのリーダーを!!」

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