第14話 君主の暴論

(こんな無意味な労働力搾取が、まかり通ってたまるかよ……!)


「頼もう!!」


 俺は再びリージアの元へと向かった、声はだだっ広い廊下に反響する。


「ああそらか、今日はもう遅いから、何か用があるのなら明日にしてくれないか?」


 足音はどしどしと。リージアは眠たそうな声を上げながら部屋から出てきた。


「至急だ、お前に話がある」


「なんだよ、面倒くさいなあ……」


 俺は今すぐにでも爆発してしまいそうだったが、ここは一旦いったん、気を押し込めて。


「俺はお前のやり方を許さない。まずは、早く夏への命令を取り消せ。話はそれからだ」


 夕方の廊下。怒りの眼差まなざしの先にあったのは、冷えきった対応。


「お前、もしかして何か一つ決定的な勘違いをしてはいないか?」


(勘違い……?)


「この世界では、レギオンで一番強いあるじのために誠心誠意働くのが弱者たちの役目であって、至極しごく当たり前の事なんだよ」


 リージアの目は、自分の主張に何の疑いも持っていない目だった。こいつは本気で、そう思っているのだ。


「それに文句を言いたいのはこっちの方だね。はあ、ほんと、後期出現者の奴らはみんなそろいも揃って抜けばかり!!」


 自分のあやまちを棚にあげ、気に入らないものの全てを責任転嫁せきにんてんかする態度は、駄々をこねる子供のようにも思えた。


「あいつらは、大先輩の俺様が指示をして、何から何まで全部面倒を見てやらないと、なーんにもできないんだよ!!」


 絶対君主気取りのリーダーは、うすら笑いを浮かべながら声を大にしている。


「年季が違うんだよ。お前らはとは違ってなあ、俺様は五年前からここで、ずっと一人で頑張ってきたんだぞ!!」


「それが何だ、ちょっと辛かったら文句たあ、甘ったれもいい所だ。食いもんを補償してやっているだけでもありがたいと思え」


「働かずに食っていけると思ったら大間違い、世の中はそんな甘くねえんだわ」


「これだけしてやっているんだ、それでも付いてこれない奴はそれまでって事だ」


「生き残るために、時には切り捨てというものが必要なんだよ。弱くてやる気のない奴は自然と切り捨てられるのが条理!!」


 少し息継ぎをしたと思った最中さなか、持論による正当化は再開する。


「俺様のやり方は全て正しいんだよ。これなら団員全体の効率的なレベル上げもできるし、俺様も強くなれる」


「強い俺様が強いスキルを習得して、強いアイテムを使用して、強い武器を身につける事が最高率なんだよぉ!!」


「だから俺様のためのスキル研究開発に貢献しろ。集めたアイテムは全て俺様に寄越せ、俺様に尽くせ、隷従れいじゅうしろ!!」


 その面構つらがまえからはどこか、労働力を搾取さくしゅする悪質な雇い主に近しいものを感じた。


「ぶっちゃけた話、使えない奴はただえさえコスパが悪いんだから、働けるだけ働いてもらわないと採算が合わないんだわ」


「それと、夏への命令を取り消せだっけ? それは無理だよ。だって、ルールはルールなんだから。組織の中のたった一人のヘマで、効率が大きく損なわれるのはゴメンだね」


 こいつは気づいていない、自分が追い求める効率が損なわれるのが、自分の効率への行き過ぎた執着のせいであることを。


「俺様がこのレギオンで一番強いんだ、一番年長者なんだよ。分かったら、もっと敬意を示してみせろよ!!」


 俺は長い演説ののち、口を開いた。


「年長者を敬え……?」


「確かにな、年長者ってのはそれだけ俺達よりも多くのことを体験してきたってことだ」


「だから、俺たちが自分からうやまう分には良い。でもなあ、お前が俺らに敬うことを強制させるなんてのは、もっての他だ」


「そんなに敬って欲しいなら、敬われるべき人格にになってからにしやがれ!!」


「一つ言わせてもらうが、お前はリーダーには相応ふさわしくない。お前のやり方は根本的に間違ってる、あきれてため息が出るほどにな」

 

「いいだろう。お前には、どれだけ言っても無駄みたいだ。つまり、お前は今から俺様の敵ってことだッ!!」


 こうして、対面遊戯の取り決めが行われた。今の時刻は、現実での五時半ごろ。


 俺たちは体育館だった場所に移動し、対面遊戯の準備をする。赤黒い夕焼けは、窓から差し込み床を照らす。


 俺は丸腰。リージアの少し太った体には、整合性のない全身装備がはめ込まれている。


 体育館の壁沿いには、このグローチスレギオンの団員たちが観客として集まっている。そこには当然、春風夏はるかぜなつもいた。


(対面遊戯って……この名前考えた奴、絶対趣味悪いだろ……!)


 対面遊戯は、メニュー画面から選択できる対人システム。両者には一定強度の不死障壁が付与されるので、pvpを可能にする。


 障壁が完全破壊されるか、どちらか一方が棄権をした場合に勝敗が決する。


「おっと、その前に契約しないとなあ。まさか、今になって怖気おじけ付いたとか、言わないだろうなあ?」


「ああ、もちろんだ」


 契約システム。個人・団体間で結ばれる取り決めのこと。契約者が破棄せずに契約を破った場合、ランダムにきつーい罰が発動される仕組みだ。交渉とかに役立つのだろう。


『対面遊戯勝利者:自由命令権限(一回)』


 勝者には命令権。つまりこの戦いでの負けたら俺は、リージアの言いなりだ。


 それでも俺は、迷いなくタッチした。


『Yes—条件を受諾しました』


 茶髪パーマ男は引き笑いを始めた、そこにあったのは見事に洗練されたゲス顔だった。


「押したねえ……今、受諾ボタンを押しちゃったね……もう後戻りは出来ないよッ!!」


「あ、名案思いついちゃった。よし、お前はこれから毎晩、状態異常耐性の開発実験に使ってやるよ。この世界の毒はつらいぞぉ〜。これから夜には眠れないと思え!!」


 俺はもう、怖気おじけづかない。絶対悪にも、半端はんぱな悪にも、屈することはない。


「何があろうと、俺はお前の下になんか付いたりしない!!」

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