第12話 綿の闇土竜

 そんな話をしているうちに、とうとう駅に着いてしまったようだ。相変わらず駅名は擦り切れていて、よく読めない。


「嘘っ、何でここにモンスターがいるの……!?」


 駅のホームの床は、正方形のタイルが広がっている。タイルの上には、赤色の名称表示がうねうねとうごめいてる。


「モンスターか、どこだ……!!」


 俺は戦闘モードに切り替え、辺りの状況を素早く見渡すが、どこにもモンスターの影は見られなかった。


「床の中です、タイルの隙間に潜り込んで移動しているんです……!!」


『わた黒モグラ』

『Lv.25』


「しかも赤文字……!? 逃げましょう、こんな格上と戦うのは危険です!!」


 俺はすぐに斬りかかった。水色の光はシャバッと放たれる。中範囲を切り裂く重斬撃、『スラッシュ』はスレスレで当たらない。


「まだだ……!!」


 ひじはピンと張りつけられる。構えたその剣は『レイピア』、赤く鋭い剣撃は、またもやスレスレの所で当たらない。


 敵は黒いモサモサの集合体。まんまるな赤い目をした個体が一斉に、タイルの隙間を高速でバタフライする。


「逃げられないか……分かった、ここは私にまかせて!!」


『アサルトライフル』をひじと水平に構えた春風夏はるかぜなつだいだい色に光り輝く銃口からは『スピットショット』、光銃弾が勢いよく飛び出し命中。


(そうか、銃なら初動が早いからこの敵に向いているのか……!)


 続けて『スピアガン』、駆け足で予測地点へ駆け寄ってぐいっと、銃口は向きを変えて敵を指した。黄色の弾ははちの一差しのよう。


「だめだ、やっぱり硬い、これでも倒しきれない……!!」


 それでも、やはりレベル差があるらしい。夏も中々苦戦している様子だ。


(俺も、他に何か出来ないか……どうすれば、俺はこの戦いに貢献できる……!)


「うそ、早くなった……!?」


 トゲの弾丸『スピアガン』は命中しなくなった。モンスターは濃紫の気をまとう、頭上には『バブルスモッグ』という大技表記。


(大技の予備動作が始まってしまったぞ、早くしないと……!)


 わた黒モグラは明らかに、春風夏はるかぜなつを標的にしていることが分かった。


「危ない、夏っ!!」


「ちょっ、空木うつろぎさん……!?」


 大技を溜めながら小技『スモッグクロー』を仕掛けるわた黒モグラ、俺はその攻撃から夏を守るため、前に乗り出た。


 暖色系のエネルギーは全身にみなぎる。剣は投げ捨てられた。思うがままに突き出された拳、『グリンドバイス』は攻撃を相殺する。


 仕切り直しとはいかないみたいだ。相手の『バブルスモッグ』はもう、発射寸前。


(やっぱり、速い。俺が、今の力でこいつを倒すには、今の俺がこいつの動きに追いつくには、どうすればいい……!)


『せいぜい死なないように気をつけて下さいね』


(うるせえ、攻略法がどうした。)


「俺は、俺のやり方で勝つ」


 今の速さで足りないのなら、その速さに追いつける技を、今ここで生み出せばいい。


「次で終わらせてやるよ」


 この剣は、今だけ”おんぼろの剣”ではなくなった。喉から声は振動して響いた。


 わた黒モグラは、紫色の気を爆発させて暴れながら地上と地下の高速移動を繰り返す、当てずっぽうじゃあ攻撃は当たるはずもない。


「ただ一点を、穿うがて」


 剣はその言葉に応じるようにまぶしく閃光を放つ。片膝を前に出してかがむ姿勢、つるぎは肩の高さに構えられた。


【スピニングレイド】


 超高速重斬撃は“一点”に”一面”のエネルギーを解き放つ。敵が隙を見せたそのゼロコンマゼロの瞬間に、剣撃は突き抜けていた。


 敵は散る。『レベルアップしました』の表記は二つ重複して表示され、地面には光るオブジェクト『魔除けの数珠』がドロップ。


「うわあ、ほんとびっくりしたあ。空木うつろぎさんって、本当に初心者なの?」


〔ステータス〕

空木蒼うつろぎそら Lv.19

〈持ち物〉

おんぼろな剣/ダークサンド×4/魔除けの数珠

〈スキル〉

スラッシュ/アッパー/スライス/レイピア/グリンドバイス/アイアンウォール/スピニングレイド/殺戮の宴


「レベル19……私と1しか変わらないじゃん。やっぱり、空木うつろぎさんは凄いね!」


「(ほんとに、すごいや……)」


「……ん、どうかしたか?」


「いや、何でもないよ、気にしないで!!」


 夏は顔の前で手を横に振って、苦笑いしていた。うん、余計な詮索せんさくはやめておこう。


「うーんと、さっき思ったんだけどさ。そらでいいよ、あんま苗字で呼ばれ慣れてないし」


「うん、分かった。蒼……さん? いや、なんか違うかも。ええっと、蒼君……!」


 俺は自分から言い出したにも関わらず、少し照れて目をらしてしまった。夏も同じような感じで、微妙な空気感がただよう。


「そういえば蒼君、さっき私のこと名前で読んでくれたよね……?」


「ああ、咄嗟とっさの事だったから……」


「いいよ。それじゃあ、これからは私も名前でいいよ!!」


 夏はあせっているようでもあって、何か勢いに任せたような口調でもあった。


「ああ。じゃあ、ええっと……夏でいいか……?」


「もう、ちゃんと言ってよ! こっちが恥ずかしくなって来るじゃん……」


「……夏!!」

 

 イントネーションは”な”で上がって”つ”で下がる。俺が勢いに任せてその名前を呼ぶと、夏の口はもごもごとしていた。


「え、どうかしたか?」


「な、なんでもないよ……ほんと、いつもそら君が付いてくれたら心強いのにね!!」


 もどかしさ。これは一種のなごみとも呼べるのか。そんな和みの合間に入り込んで来たのは、重くてにぶい男の声だった。


「おい、春風夏はるかぜなつ。迎え来たぞ———」

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