第8話 システムの法律
「婆ちゃん、しっかりしてくれよ……!」
縮こまって倒れ込んでいる祖母の元まで這いずって、近づく。
「嘘だろ……」
すると、嫌な耳鳴りが聞こえた。と思ったら、本当に音が鳴っていた。
「おい、誰だよ、てめえ!!」
縦方向に亀裂が入った異空間の中からは、手に収まらないほどの巨大な鎌を持ち、頭まで全身白いマントで覆われた者の姿。
その姿はまるで死神。地面に触れそうなくらいの低空飛行でゆらゆらと、祖母の元まで等速で近づいて来る。
「やめろ、やめろよっ!!」
俺の目の前で白マントは、その手に持つ大鎌を
「離せ、婆ちゃんを離せよ!!」
ああ、痛い。傷が深すぎて、一歩も動くことが出来ない。ぼやける視界の中、俺は必死に手を伸ばす。
『ムダダ、コイツハ、スデニシンデイル』
(え……喋った……?)
貫通。洗濯物のようにその鎌にぶら下がる祖母は、そのまま白マントと共にゲートの亀裂の奥まで引き込まれていってしまう。
「待てよ、お前は一体何者だ!!」
『ナニモノ———ワタシハ、コノセカイノシステム』
(システム……?)
「おい、お前は一体なんなんだ。どうして婆ちゃんがここにいる、どこに婆ちゃんを連れていくんだ、答えろ!!」
『ワタシハ、コノセカイノシステム、ダ』
大鎌は揺れる。白マントは機械音の声を上げながら、空間の裂け目に去っていった。
「ああ、もう、駄目だ———」
俺は、大量出血のせいで意識を失った。何か、変な声が聞こえるような気もした。
「ああ、うーん?」
どこか目覚めの悪い寝起き。
「俺はあれから、何時間寝ていた……?」
雨は降り止んでいた、あれだけ深かった傷はもう塞がっている。
「レベルアップで治ったわけでもないとすると、自然回復したって事か?」
寝ている間に、だんだんと記憶が少し整理されてきたみたいだ。
「そうか、俺は感情に支配されて———」
スキル欄に追加された”殺戮の宴”という不気味な名称。
「決めた、あの力にはもう二度と頼らない」
深呼吸、強く心に誓った。
「もう、誰も傷つけたくないんだ」
それにしてもあの大鎌の白マント、実態のなく掴み所のない感じ、あの影達とどこか似たような感じがする。
「いよいよ
直感のセンサーがビビッと来てしまったように、この心は突き進もうとする。
俺がこの世界に飛ばされたということは、またいずれは世界の危機を誘因する元凶と戦うことになるのだろう。
「だから、もっとレベルを上げて、スキルを習得して、もっと強くならないと!!」
今の自分に力が無くても、また今までと同じように何度も練習して、今まで以上に強くなればいいだけだ。
喉の奥底にどこかつっかかりを残している気がしたが、ビシッと気持ちを入れ替えた。両手でほっぺを叩いて気合を注入。
「爺ちゃんごめん、俺、婆ちゃんのこと助けられなかった」
「だから、絶対に忘れない。もう二度とこんなことにはさせない」
「俺は、強くなります。どれだけ脅威的な相手が迫って来ても大切なものを守れるように、もっともっと強くなります」
その時、全身から急に、ポカポカと暖色系のオーラが込み上げてきた。
その拳を想うがままに強く前へと突き出すと『グリンドバイス』、闇をも穿つ疾風は放たれる。空気は引き裂かれて爆発した。
「どうだ、これでまたスキルが増えたぞ」
一息ついて気がついた。影との戦闘が行われた場所の地面をよく見てみると、何かが小さく光っていたのだ。
ピカピカ光っているオブジェクトに手をかざすと、『ダークサンド』の表記が四つ。
「あの時、ドロップしたのか……?」
浮かび上がるプレート表記を指でスワイプして、ダークサンドを
——俺は、すぐに地元へと戻った。
とりあえず、まずは今までの状況から現状を把握しよう。
今は色んなことが一度に降りかかって、混乱しているが、休んでる場合でもない。
あの影が人を喰らうために出現しているとすると、他にも被害者がいる可能性がある。
それに婆ちゃん家で遭遇したときと、初めて遭遇した時の影の数は違った。つまり、影は”あれだけ”じゃないということだ。
おそらくあの白いマントの方は、攻撃不能貫通というシステムでは扱いきれない予測不能の事態に対応するために現れたんだ。
白マントは自分がシステムだと言っていた。おそらく、あいつがこの世界を攻略する上で一番の手がかりになってくるだろう。
この世界は何か気持ち悪い。うかうかしていたら、また婆ちゃんみたいに関係ない人が殺されてしまうかもしれない。
「それは嫌だ、だから早く手がかりを探さないと……!」
ここで一つ大きな疑問。
それはこの世界が、俺だけを主体としたロールプレイングゲームなのか、それとも他のプレイヤーも存在するリアルタイムのオンラインゲームなのかということだ。
ここは母校の近郊、俺は高校だった場所へと向かって散策していた。相変わらずのコンテンツ密度の低さには、もう慣れた。
「ここら辺なら、ばったり他のプレイヤー出くわしたり、なんてな」
そんな淡い期待を膨らませながら、着々と殺風景な道路を進んでいた。
その時だった、真横から接客の掛け声が聞こえてきたのは。
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