第6話 かつての思い出は
無人電車を乗り継いでいくこと数時間、景色はだんだんと山の色に染まっていく。ようやく目的地に近づいてきたみたいだ。
ローカルな電車内。何やら座席にピカピカと光っているオブジェクトがあった。
近づいて確認すると、『三色だんご』という表記が浮かんだ。
「だんごって、アイテム扱いなのか……」
俺は少々戸惑いつつも、電車に揺られながら久々の食事を楽しんだ。
窓に手をかけ外を見渡す。四方は黒い山々に囲まれていて、地上には白い田んぼの海。
「ふう、到着か……!」
電車は小さな小屋の無人駅に停車、俺は細長いでこぼこのあぜ道をテクテクと歩く。
「懐かしいなあ、この感じ———」
「自分で来るのは、初めてになるな」
田んぼがずっと遠くの方まで広がっていて、小川の横にはちっこい橋が架かっていて、さらに進むとそろそろ見えてくる。
山の麓を切り開いて建てられた古いお屋敷、その敷地の
「好きだったもんな、婆ちゃん」
岩を切り抜いて作られた手すり付きの急斜面を、一歩ずつ踏み締めて登っていく。
「お邪魔しまーす」
誰かいるわけでもないのに、やはりこの口からは
「ほんと、変わらないな」
リビングは正方形の大きな
(冬にはここにコタツが出るんだよな、よくこの中に
天井から吊るされた少しお洒落なランプ。
お正月や行事ごとがある度に、親戚や近所の人たちがこの食卓に集まって来ては、
よく覚えてないが、『元気があっていいね』とか言ってよく褒められてたっけ。
みんなで同じ食卓を囲んで同じ時を過ごす、そんな空気感が何となく好きだった。
客人用に出されたお菓子を横からつまんでは、温かい緑茶を飲んで。その時の俺は、幸せだったのだろうか。
苦しいこととか、悲しいこととか、未来のことなんか何も考えずに、ただ楽しいことだけを見ていたその時の俺は。
木の臭いは無くても、ひんやりとした廊下は健在だ。すとすと歩いて真っ先に向かったのは、
「いつからだったかな、俺が変わっちまったのは———」
よく覚えていない。でも、ここに来なくなってしまった事実だけは忘れられない。
『また、今年も行かないの……?』
そんな風に根気よく話しかけてきた両親に対して、俺は一言も言葉を返さなかった。
そんな態度でいるうちに、ここに来ないのが当たり前になってしまったんだ。
遺影の前のだったものに座って、おりんをチーンと叩いて
「久しぶり、爺ちゃん———」
爺ちゃんは、俺がここに来なくなって三年目に病気で亡くなった。
爺ちゃんは、いつも
俺の記憶の中での爺ちゃんは、いつも
どんな時も笑っていた。でも、少しルールには厳しい人だったかもしれない。
ちゃんと挨拶しなくて怒られた事もある。その分、皆からの人望も厚かった。俺はそんな爺ちゃんを、今でも誇りに思う。
「ああ、何であの時の俺は……!」
俺は最後の瞬間に立ち会えなかった、今でも後悔している。何とも思わなかったんだ、病気になったことは知っていたが。
「何であの時、俺は顔を合わせようともしなかったんだ……!」
多分あの時の俺は、本当に死んでしまうなんて思っていなかったんだ。きっと病気に打ち勝ってまたひょっこりと戻ってきてくれるんだと、自分勝手にも思っていたんだ。
でも、人はいずれ死んでしまう生き物だ。そのことを強く思い知らされた。
「そんな暗い話してても仕方ないよな。爺ちゃん、俺は今元気です。それじゃあ———」
仏壇を前にすると、何も言うことが浮かばなかった。そりゃあ、誰もいないんだから当たり前なのかもしれないが。
(爺ちゃん、俺あれから強くなったよ。今は何がなんだか分からなくて落ち着かないけど、もう俺は何があっても
「そこにいるのなら、どうか、これからの俺の戦いを見守っていて下さい」
その時、子供の頃に戻ったかのように顔が浮かんだ。それは、爽やかな笑顔だった。
よっこらしょっと、座布団から立ち上がって和室を出ようとすると。
(何だ……?)
いきなり屋外から叫び声が聞こえた、その声はものの数秒でぷつりと途切れた。
「おい、この声、もしかして……!!」
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