異世界転移じゃなくて現実世界変異
第3話 傘と野犬
そう思った矢先に世界は改変する、見る見るうちに見渡す限り全ての光景は、無機質の白黒・ネオン色の地形に変わってしまった。
帰り道は一瞬にして形相を変えた、右には白黒に変わった、変わらぬ公園の
着ていた学ランはなぜか、初期装備らしき軽装へと変わった。
「ここは本当に日本なのか、一体どうなってしまったんだよ。”俺が生まれた世界”は」
雨はさらに激しく降りしきる。土砂降りの雨に打たれるのは人間だけではなかった。
『ビーストウルフ』
『Lv.6』
目の前には、ラグを起こして消えかかっている獣、その頭上にはモンスターの名前とレベルの表記が表示されていた。レベルの文字の色は真っ赤だ。
「レベル6……こいつはモンスターなのか……?」
その瞬間、この右腕が強く振り上がり、何かにつき動かされるように脚は動いた。
右手に握られた傘を全身で構え、持ち手のツルツルした部分をぎっしり握る。俺の体は即座に”危険”を察知したのだ。
「グオオオオオッ!!」
その獣は前足と後ろ足のバネを使って、ほんの一歩にして手元まで距離を詰めてくる。ぱっと見は四足歩行の毛皮のオオカミ。
「うわっ、危なかった……!!」
俺は少し緩めにテープで巻き付けられた傘を全身全霊にて振るう、今までと同じように、剣撃を繰り出す構えで弾いた。
驚くべきこと事に、この構えはすぐにこの世界の
(まったく、いつもいつも、いきなりすぎるんだよ……!)
弾く、弾く。傘を振るいかざして突き立てる到着点で、バシャ、バシャと音が鳴る。
(早い……でも、反応はできる……!!)
腕を引いて構える時に筋肉が縮み、伸ばす時に筋肉が完全に伸び切るのを感じる。
筋肉の付け根の
「はあっ、体が、やけに、重い……!!」
手に貼りついた傘からは、閉じられた生地の間に残った水滴の
「お前、犬っころのくせして、強すぎんだよ!!」
獣は、何度も傘に打たれるが、脚を止めずにまた何度も噛みつきにかかってくる。
「転生者の俺に、チュートリアルは無しってか……!」
『ホワイトファング』
今度はモンスターの体が濃紫色に包まれる。頭上に浮かぶは紫色の技名らしき表記。
「何かが、来る……!!」
ビーストウルフは遠吠えをあげて、俺は傘を両手で支えて噛みつきを抑える。
「でも俺は負けねえ。どんな状況でも、もう俺はうろたえたりしない!!」
その牙はぐいぐいと迫る。俺は噛みつかれた傘を両手で支えながら獣に足を突き出して全力で蹴とばし、獣は再びこちらに猛突進。
「
メキメキとその脚力は伸ばされ、傘という剣はななめ横に構えられる。
(これは剣。剣と思えば剣と成す、どんな物だって武器にする。俺は、創造者だ———)
「よし、掴んだ!!」
【スライス】
傘の側面からは薄い水色の光が放たれ、ビーストウルフの表皮はバサバサに散った。
それに対する獣の反応速度は恐ろしかった。俺は反撃でノックダウン寸前。
(痛い……ちょっとかすっただけなのに、こんなにも痛いのか……!?)
『ブラックネイル』
敵の頭上には、また大々的な技名表記。
「ふう……体もかなり疲れてきたし、長期戦にはさせない。次で仕留める!!」
足は
(さっきの感覚を、呼び起こせ……!!)
ゲームみたいなスキルコマンドが無くても、俺は技を繰り出せる。どんな技だって、生み出してみせる。
(獣の足よりも速く、獣の爪よりも鋭く、その一点を確実に貫く……!!)
【レイピア】
この眼光は獣より鋭く、
「体は弱くても、戦い方は覚えてる!!」
ワンテンポ先では、大きく後ろに構えられた傘の先端が赤く鋭く光を放った。
無駄のない前後の大振りをして突き出された剣先は、獣の目ん玉を貫き
『レベルアップしました』
いきなり目の前には、自分のレベルと名前が書かれたプレートが表示された。
「Lv.2……やっぱりか、今の俺は弱い。それにしてもレベル1スタートかよ、それに何の説明も無いし」
俺は公園に入った。入口のポール、看板、木の上、砂山の中と少し探索をしてみたが、特に目ぼしいものは見つからない。
『ステータスオープン』
突然の思いつきでその言葉を口にすると、登録画面のプレートが表示された。
(おお、マジであるのかよ……!)
『名前を登録して下さい』と、名称決定のボタンが大きく浮かび上がった。よく見ずに、ポチポチとプレイヤーネームを決定する。
『
「ああ、
それに、別に俺は昔の名前に未練があるわけでもない。
〔ステータス〕
〈持ち物〉
ただの傘
〈スキル〉
?????
「え、これだけ……?」
そのステータスはステータスと言っても、スキル名表示がされているだけ。HPも能力値も説明も、何一つとして見当たらなかった。
「本当に、これだけかよ……!」
モンスター頭上のLv.表記と”技名”表記、それにさっき傘で撃った”スキル”。さらには、この目が冴えるような痛覚。
「まったく、ゲームなのか現実なのかくらいは、はっきりしてくれよな」
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