第7話 【鷹】と模擬戦

 フミとミカ、それとなぜかアリアの三人は食後にギルドへ向かった。昼食過ぎということもあり併設されている酒場ではすでに出来上がっている冒険者たちがいた。すでに日銭を稼いだので早々に打ち上げをしているのだろう。


 フミは受付嬢と話すと、お目当ての人が酒場にいるという情報を手に入れた。


「誰と会うんだよ?」

「アルフォード・フォックスさんです」

「まぁ、【幽玄】を追放された冒険者さんですね」

「アリア姉さん。今は【鷹】の守護神ですよ」


 アリアは「まぁ〜」と声を上げた。多分、よくわかってないが声を上げたに違いない。フミは苦笑しつつフォックスが来るのを待つ。

 しばらくすると中背で筋肉質の赤髪の優男がやってきた。隣には青い髪の細身だが胸が大きな女性がついて来た。鋭い目つきが特徴的な美人さんだ。

 フォックスが所属しているパーティー【鷹】の団長で、フォックスの幼馴染。今は彼女か。


「お久しぶりです、フミさん。新聞記事を見ましたよ! シャシンもすごいベストショットで……いや、お恥ずかしい」

「撮影した中で一番良いのを使いました。ふひひ。クーラさんもお久しぶりです」

「ええ。久しぶり。この前はありがとう。その……アドバイスとか助かったわ。師匠にも伝えておいて」

「ふひひ。わかりました。ミーティアさんに伝えておきます」


 このフォックスとクーラの恋愛面のアドバイスをしたのが、女神・ミーティアだ。あの女神は恋の手練手管により、二人はくっついたわけで、いつのまにかクーラからは師匠と呼ばれている。


「で、今日は何ですか?」

「今日は、この子を一時的にパーティーに入れてもらえないかなと思いまして。この子、ソロの暗殺者で魔獣討伐の許可がおりないのです。主に保護者の方から」


 フミはミカを二人に見せる。アリアの方を目配せした。腰抜けの噂を知っているようで二人は少し驚いた顔をする。


「この子って、噂の子じゃない? 勇者パーティーの」

「ええ。噂の子です。昔のフォックスさんと同じ境遇だと思っていただければ」


 フミは回りくどい、含みを持たせた表現を使った。フォックスはハッと息を呑む。クーラも口元をおさえた。


「でも、腕は確かなの? フミのお願いだからって【鷹】に弱いやつは入れないわよ。模擬戦をしてアルフォードに勝てたら考えてあげる」

「ミカくん、どうですか?」

「いいよ、お前たち二人が相手でもいいけど」

「ふん。生意気!」


 ミカは指の骨をポキポキ鳴らして答えた。模擬戦用の広場へ向かう途中、フォックスがフミに耳打ちをする。


「手加減とかしたほうがいいかな?」

「ミカくんが大丈夫と言ったので信じます。それに教会のシスターもいますから怪我をしても魔法で治せますよ」


 ミカは直感で殺せる相手と殺せない相手を見分けることができる。わざわざフォックスさんと戦うと答えたのだから、負ける気はないのだろう。


 模擬戦用の広場につくと、ミカとフォックスはある程度間をあけて向き合う。


「防具……装着をしなくていいのか?」

「そっちこそ、そんな軽装でいいのかよ」

「ケガしても知らないぞ」


 審判役は、クーラが務める。二人の武器は木剣だ。木剣だからといって、打ちどころが悪ければ大怪我をしてしまう。二人とも軽装だが、ミカは防具を一切付けていない。


「女神・ミーティアの名の下に正々堂々戦うように。はじめ!」


 クーラが振り上げた手を下ろす。同時にフォックスがミカへ猪突猛進気味に突っ込んでいった。


 フミはカメラを構えシャッターを切っていく。


 フォックスの突撃と共に放たれる複数の剣戟をひらり捌き、すれ違いざまに足を絡めてフォックスを転ばせる。フォックスは転がりながら、ミカの足を狙い一閃を放つが、ミカは間を取り避けた。


「なるほど」


 フォックスはさらに速いスピードミカに突っ込む。さすがにミカも余裕がないのか、見たこともない真剣な顔をしていた。フォックスが力いっぱいに木刀を振ると、離れているのに衝撃波が発生する。


「……あ」


 カメラのファインダー越しに二人の剣戟を見ていたフミは呟き、シャッターを切った。ミカが木剣を器用に絡めて、フォックスから木剣を奪った。その瞬間を、フミは写真におさめる。


「それまで! ミカの勝利とする」

「やるな」

「そっちも」


 フォックスとミカ握手をした。いつの間にか集まっていた観衆から拍手が起こる。フミは一部始終をカメラにおさめると、一息ついた。


「アリア姉さん! どうでした?」

「危ないことはしてほしくありませんわぁ」


 アリアからタオルを受け取ると、ミカは楽しそうに笑う。


「お疲れさまです。どうでした、フォックスさんは?」

「強かった。守る者がいるとさらに強くなるんだろ、あいつ。久々に本気になった」


 ミカは、わけなさそうに答えたが、体を動かして少し気が晴れたのか年相応の柔らかい表情をしていた。

 一方で、クーラは不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 

「アルフォード。あなた、わざと手を抜いたでしょ!」

「いや、抜いてない。あの子は強いよ。クーラが魔法をまとって戦っても五分五分なんじゃないかな?」

「嘘。ほんとに?」

「俺が君に嘘を言ったことある?」

「ないけどぉ」


 クーラは「むー」と声を漏らしつつ、アルフォードとイチャイチャしている。フミはその光景も目ざとくカメラにおさめた。

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