第6話 お昼ご飯と作戦会議

「お言葉ですが、あなたが独断で館の魔人討伐戦を仕掛けて、負けたのではないのですか? それをミカくんの責任のようにおっしゃるのは違和感があります」


 思わずフミは、ノエルに突っ込んだ。ノエルはつまらなそうにフミを見る。


「なんだ、西区のギルド職員は、まだそんなデマに踊らされているのかよ。おいおいおい、マジかよ……情報遅すぎ」


 ノエルは、影のように付き従う二名のギルド職員を見て言葉を続ける。


「いいか、お前たちはこのバカのようにデマに踊らされるな? すべてはミカが腰抜けで俺たちの足を引っ張ったから起きた悲劇だ。ちゃんとギルドの新聞を読んでおけよ、デマ屋」


 腰抜けとデマ屋という部分を少し強調して、ノエルは怒鳴った。ギルド職員は作り笑顔で頷いた。

 フミの質問に、答えているようでまったく答えていない。それどころか話題を見事にすり替えられた。

 フミが質問をさらに続けようとすると、ミカがフミを押さえる。


「ミカくん、なにをするんですか!」

「すみません、ノエル様。この馬鹿には僕がよく言っておきますので、どうか……こらえてください」

「っち。わかったよ。元でもパーティーメンバーの頼みじゃぁ断れないな。おい、さっさと魔獣を狩るぞ」


 不機嫌そうにノエルは怒鳴ると、ギルド職員とともに去っていった。相当イライラしているのか、ギルド職員になにやら当たり散らしている。フミは唇をかみしめた。


「フミ! 何を考えている! お前らしくないぞ」

「すみません。ちょっと、頭にきてしまって。……仲のいい人が馬鹿にされるのは、気分がよくありません」


 フミは深呼吸をしたあと、わしゃわしゃと頭を掻く。


「私情に流されては、新聞記者失格です。大丈夫、落ち着きました。ふひひ」

「相変わらずキモい笑いかただな。アリア姉さんみたく素敵に笑えないのかよ」

「心外です! プリティーな笑いかただって言われました、アリアさんに!」

「それは絶対にお世辞だ。バカ! それと……」

「なんです?」

「腰抜けの情報源がノエル様だって話、疑って悪かった」


 ミカは血の気の失せた顔で力無く笑った。フミはミカ元気付けなければと思った。それができるのは、多分この世でただ一人で自分ではない。


「アリアさんの作るご飯食べたくないですか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「食べたくないですか?」

「……食べたい」


 ミカは恥ずかしそうに答える。フミは満足そうに笑うとアリアのいる教会へと歩を進めた。

 アリアのいる西区の教会は、古い建物あるが手が行き届いており、他の区の教会よりも綺麗であるとフミは考えている。

 アンデット騒動で人がいないなか一人でよくここまで綺麗にしているものだ。


 教会の庭で花の剪定をしていたアリアが、フミとミカに気がつき穏やかな笑みを向けた。


「フミさん。今日は早いお帰りですね」

「ふひひ。今日はミカくんを取材しているのです」

「まぁ、ミカ。ちゃんとお行儀良くしないとダメですよぉ」

「はい!」


 ミカは、アリアには素直である。色ごとに鈍感なフミから見ても、ミカはアリアに惚れている。

 ミカは第二次性徴期前の男の子であり、声なんて女の子と区別がつかないが、アリアには男らしい姿をみせようと奮闘しているところが微笑ましい。


 一方、アリアはミカからの好意に気がついていない。恐ろしいほど鈍感か、もしかすると気づいていてあえて気づかぬふりをしているのであれば、相当の悪女だ。

 アリアに限ってはそれはないと思うが、何を考えているかわからない。まぁ、ミカのような子供からの好意に気がついて手を出したら出したでまずい気がするけど。


「アリアさんは何をしていたのですか?」

「お庭のお手入れをしていました。そして、このお花はミーティア様への供花です」

「きれいなお花ですね。それにいい匂い。写真を撮ってもいいですか?」

「かまいませんよ」


 フミはミーティアへの供花を写真におさめた。供花よりアルコールのほうがあの女神のお供えものには向いているのになぁ、と思うが口には出さない。

 フミのお腹が鳴った。

 いつもより大きく鳴るあたり、心の中をミーティアさんに覗かれたかしら? 


「あら? お昼はまだ摂っていませんの?」

「アリアさんの作った御飯が食べたくなりまして……」

「まぁまぁ。わたくしも昼食を摂っていませんので一緒にとりましょう。ミカも食べるわよね?」

「はい! いただきます!」


 アリアが厨房のほうへ行くので、ミカは「手伝います」と言いついていった。フミはその姿を写真におさめる。

 ほほえましい光景だ。


 しばらく待つと、パンとスープを持ってアリアとミカがやって来た。パンは硬いそうで、スープにつけて食べなければ飲み込むことも困難だ。

 スープは野菜と少々のクズ肉が入っている。味はしょっぱいだけで美味しくない。フミは味音痴なので気にしないが、不味いのはわかる。

 ミカは嫌そうにスープを啜っていた。


「ミカ、成長期なんだからしっかり食べなさいね? あ、おかわりもあるわよ」

「は、はい……」


 残すこともできず、おかわりも確定している。ご愁傷様である。ただ、陰鬱そうな表情はなりをひそめた。

 やはり、愛の力は偉大なようだ!


「ふひひ」

「変な笑いかたするなよ。ところで、午後は何をすればいい? 魔獣でも討伐すればいいのか?」

「暗殺者のミカが、一人で魔獣討伐なんて危険です!」


 アリアが止めに入る。魔獣討伐は危険だが、討伐数が多くなればそれだけ尊敬の眼差しで見られる。

 勇者・ノエルも魔獣討伐をして名声を回復させるのだろうと思う。


「そうですね! 一人で魔獣討伐は危険ですよね」


 ミカはアリアに同調する。パンをもしゃもしゃ食べていたフミは「良い考えがありまう」と言った。


「まうってなんだよ、まうって」

「ん、ごく。良い考えがあります。ギルドへ行って連絡をとりましょう!」

「連絡? 誰に?」 



 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る