第6話 夢見
◆
「なぁ、マルク。お前は将来何になりたい?」
いつもと同じ夢。でもどこかいつもと違う。自分目線じゃなくて、俯瞰で見ているような気分だ。
「お父さんみたいな強くてカッコよくて! とにかくすごい冒険者? になりたい!」
「そうかそうか。お父さんみたいになりたいのか。嬉しいぞ?」
この頃、お父さんは僕にとっての憧れだった。それは今でも変わってはいない。お父さんになるために僕は冒険者を目指そうとしていた。
「マルク、お父さんみたいになるのはなかなか簡単じゃあないんだぞ?」
「そうなの?」
「あぁ、そうだ。例えば、今のマルクより大きなこの剣を振って、魔物と戦わなきゃならない」
その時見た剣はとても大きくて、とても持てるもんだなんて思わなかった。
「マルクは俺の息子だ。マルク、お前には特別な力がある。だが、それを誰の為に使うかを決めるのはお前自身だ。今言ったことはまだ理解できないかもしれないが、いずれ分かる時が来る。もし、その力を人の為に使いたいと思ったのなら冒険者になれ」
「じゃあ冒険者になる! 僕人の役に立つよ!」
「はははっ。もう理解したのか! 賢いなぁ。お前は」
賢くなんかないさ。お父さん。この頃の僕はただお父さんになりたかっただけで1つも理解してるわけじゃなかったんだ。お父さんも分かっていただろう。
「よし、そんなマルクに剣を一振りやる。お父さんの大切な剣だ。大切に扱えよ?」
「うん! ありがとう! お父さん! 大事にする」
「おうおう! じゃあ、いつもみたいに素振りするか?」
「うん!」
いつもならここで終わり。でも、今回は違うみたいだ。
お父さんと僕との素振り稽古が始まった。
「マルク、肩の力を抜け。そんなんじゃ倒せる敵も倒せないぞ」
1つも逃さないように見届ける。
◆
素振り稽古を終えたところで、夢が醒めた。
夜寝る前に握った剣は握られたままだった。
一度に見れる記憶は限られている。一度目の夢がこの夢だったのは偶然か必然か。まだ分からない。
「おはよう、マルク」
「おはよう、お母さん」
「まずは、朝食を食べましょう。それから、渡すわね」
お母さんが昨日渡すと言っていたもの...... 何だろう。
◆
「マルク、貴方に渡すものはこれよ」
これよといって机の上に出したのは、防具一式だった。
「これは?」
「これはお父さんが駆け出しの頃に使っていた防具よ。お父さんはこの装備から『盾』スキルを習得した。これをマルクにも習得してもらうの」
「『盾』スキル?」
「ええ。このスキルはこれからのマルクを支えていくスキルになるといっても過言じゃないわ。この一週間でマルクにはこのスキルを習得してもらう」
「わかった!」
「じゃあ練習に行ってきなさい。私は明日から指導をするわ」
「お母さんが指導? どうやって?」
「言ってなかったわね。お母さんも冒険者だったのよ。それもBランク冒険者よ」
それは先に言っておいてよ......
「それ早く知りたかったんだけど......」
「マルク、多分もう貴方は冒険者になることを決意したようだから、止めない。そう決めたの。だから私も冒険者の先輩として全力で指導する。だから、期待しておいてね」
「お手柔らかにお願いします......」
お母さんがそんなおっかない存在だったなんて知らなかった。でも、お父さんも確か『お母さんは絶対に怒らせるなよ。お父さんでも鎮めるのは難しいからな』って言ってたような......
でも、そんなお母さんに教えてもらえるなら自信もつくかもしれない。
今はどれだけの効果があったのかを確認したくてうずうずしている。
朝起きてあの剣を見てみたら表示が変化していたのだ。
◆
装備名 :アルフリードの剣
習得度 :1
◆
この表示の通りなら何かしら習得出来ているはずだ。
◆
剣を手に持つ。今日からは木剣ではなく、お父さんの剣を使う。
初めて使うはずなのに、不思議と手に馴染む。不思議な感覚だ。
正眼の構えを取る。素振りの初めだ。
力み過ぎず、教えの通りに剣を縦に振るう。
風切り音が辺りに響く。
今までこんな素振りが出来たことはなかった。
間違いなくスキルの効果だと言えるだろう。
今回、あの夢を見たことでお父さんの素振りについて習得することが出来たという事だと思う。
一通りの型を行う。
全ての動きが淀みなく滑らかに行えた。ただ振るだけではない、それに伴う体の動き方、足さばき、全てが上手くいく。
剣士が最も行う基本動作。それが素振りの型だ。これを完璧に行える剣士は少ない。お父さんの素振りはそんな一握りの剣士が行うことの出来る素振りだ。
その素振りを習得できた。習得度は1、たった1だけど、大きな1だ。
僕はやれる。
装備の心 ~ユニークスキル【装備の心】を得た少年は夢を見て最強となる~ ショー @shooya
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