第5話 別れ
宴会場に戻ると、ミシェルとクリスは2人で固まっていた。そして、二人同時に僕に気づいた。
「おい! どこに行ってたんだよ、マルク。お前が居ないとつまらないないじゃないか」
「そうですよ。これでお別れなんですから」
「俺はこれでお別れにするつもりはないぞ」
「それはつまり?」
「俺は冒険者になってお前たちに追いつく。そして、王都に行く。そしたらまた会えるだろ?」
「お前ならそういうと思ってたぜ!!」
クリスは聞いておきながら、僕が冒険者になることを分かってたはずだ。
「マルクならきっといけるよ。いつもの模擬戦だってマルクの方が強かったんだし」
「おい! ミシェル。今は違うかもしれないぞ! よし! マルク、模擬戦だぁ!!」
「待て待て、そうだな。じゃあ、こうしよう。僕は必ず王都まで行く。その時に改めて模擬戦をしよう。それでどうだ?」
「そうしよう! いいよね? クリス?」
ミシェルが凄みを利かせてクリスに詰め寄る。この三人で一番力を持っているのは実はミシェルだったりする。怒った時のミシェルは誰にも対応できない......
そういう時はだいたいミシェルのお母さんを召喚することになる......
思い出したくもない......
「お、おう。分かったよ。マルク、絶対王都に来いよ! 直ぐにでも来い!」
クリスは熱すぎるんだ。でも、そんな所が村で好かれているのだし、僕もミシェルもそんな所が好きだ。クリスが『剣聖』で良かったと思う。
「分かってるさ。だからお前等も強くなれよ」
「当たり前だ! 俺はお前とパーティーを組むんだからな! 王都の学校はその足掛かりだ!」
「マルクは危なっかしい所があるので、私がいないとだめなのです! だから、精一杯癒せるように鍛えますよ!」
「頼もしい限りだ。別れで泣くのはなしだよ」
「おう!」「うん!」
この2人なら王都でもなんとかやっていけるはずだ。何せ二人とも最上級スキル。強くなるに決まっている。
本当に楽しみだ。僕の夢はお父さんも成し遂げられなかった最難関ダンジョンの踏破。その為には、2人の力が不可欠だ。
僕もそんな2人と肩を並べて戦える力が必要なんだ。
◆
宴会も終わりに近づき、多くの大人が酔っ払って寝ている頃。
暫しの別れの時間がやってきた。
「マルク、君の意思はもう固まったんじゃの?」
「はい。私は冒険者になろうと思います」
「そうかそうか。それが君が選んだ道か。なら、これを渡しておこう」
「これは?」
それは何かの紋章が入った鉄の板のような物だった。
「儂と面識があるという証拠になるものじゃ。教会でこれを示し、儂に取り次ぐように頼めば、儂に連絡が来る。いつでも相談に乗るからの」
「そんな大事なものを何故僕に......?」
「儂の友人の大事な息子。それだけじゃいけぬか?」
「いえ、では、ありがたく頂きます」
「うむ。君はもっと子供でいなさい。そして、様々な人に頼るのじゃ。さすれば、君は強くなれる」
もっと人に頼る。自分で解決しようとしすぎない。それが僕に必要な事......
「では、行くとするかの」
ステバンさんが馬車に乗り込み、馬車が進んでいく。
ミシェルもクリスも遠くなっていく。
「絶対に来いよー! 待ってるぞー! マルクー!」
クリスが何か言っている。良く聞こえないが、多分、待ってるぞー! とか言ってるんだろう。
絶対に行くさ。
◆
「お母さん、話があるんだ」
家に帰ると、お母さんは椅子に座って待っていた。もう夜も更けている。いつもならお母さんはもう寝ている時間だ。僕を待ってくれていたのだ。
「じゃあまずは座ろうか」
僕が何を話そうとしているのかなんて分かっているだろう。
「お母さん、僕は冒険者になる」
「それはお父さんと同じスキルを継承したから?」
「ううん。違うよ。僕の意思さ。僕自身が最もしたいことが冒険者だったんだ。今回の鑑定で明確に冒険者になるべきだと思ったんだ」
「もう決めたのね?」
「あぁ、もう決めた」
「なら、お母さんは反対しない。マルクの人生はマルクのもの。私がどうこう言えることじゃない。私は応援するわよ」
返答は意外だった。お母さんはお父さんの帰りをどこかでまだ期待している。冒険者とはいつ死ぬか分からない職業。そんな職業、子供になって欲しい訳がないのに......
「応援してくれるなんて思わなかった。てっきり反対されるかと......」
「母親としては反対したいのよ? だけどね、マルク。どこかでこんな日が来ることは分かってた。お父さんがあなたに剣を渡したその日からね。だから、覚悟は出来ていたのよ。それでいつ発つの?」
「色々と準備をしないといけないし、一週間後の街への馬車に乗っていくことにするよ」
「一週間後ね。分かったわ。明日、貴方に渡すものがあるの。期待しててね」
「渡す物??」
「えぇ。とにかくお楽しみに」
「わかったよ。じゃあもう寝るね」
「そうね。寝ましょうか」
そうして、僕は眠りについた。一振りの剣を手に取って。
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