第4話 『装備の心』

僕は初めてしっかりとお父さんのことを聞いた。


 お母さんも僕にお父さんの話をしてくれる。でも、きまって悲しそうな表情を浮かべるから、聞かなくなった。


 今聞いた話は最後に僕がお父さんと会う前の話だろう。


「これがその時アルフリードから託された紙だ。中は見ておらん。安心せえ」


 その紙は大事なことを記すにしては簡素な紙であった。


「分かりました。今見てもいいですか?」


「好きにしなさい。もうそれは君のものだ」


「ありがとうございます」


 お父さんからの授かりものを僕のもとまで届けてくれたと思うと頭が上がらない。


 丁寧に中が見えないように折られている紙を開く。


 そこには見たことはないが確かにお父さんの字だと思えるような字で書いてあった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 この手紙を見ているのがマルク、お前なら、お父さんはもうこの世にはいないだろう。そして、マルクは今は鑑定で意味が分からないスキルが出て困惑してるといった所か。


 無理もない。俺もそうだったからな。


 そうそう、ステバンさんがそこにいるだろう。礼をしておいてくれ。それと謝罪もな。ステバンさんのことだから、俺の事をお前につらつらと話してることだろう。


 と、これくらいにして......


 マルク、ここからはお前が持つスキル『装備の心』について記す。この情報はあくまで俺の場合であってお前はどうなるかは分からない。でも、伝えておいて損はないだろう。


 まぁ、実際に使い始めたら慣れる!


 まずは、このスキルの正体についてだ。


 『装備の心』、それは即ち、その装備に宿る記憶から装備者のスキルや経験を読み解くスキルだ。どういうことだ? と思っただろう。


 だが、この言葉の通りなんだ。


 このスキルはスキル保持者に夢を通して、装備に宿る記憶を見せる。追体験させるとでも言っておこう。そうして、装備者に宿った装備者の技術を習得するんだ。


 そして、装備のことを注視すると、その装備の情報が表示される。実際に俺が授けた剣でも見るのが良いが、ざっと書いておこう。



装備名 :

習得度 :



 俺の経験則だが、習得するスキルが上位のスキルの方が習得度の上昇が遅い。経験に関しても同じことが言えるな。


 何も100%にならなければ全て意味がないという訳ではない。スキルの習得は100%で行われるが、経験やその者自身の力で習得した技術は100%にならずとも習得可能だ。


 どうだ、凄いと思ったか?


 俺はこのスキルで冒険者として生きることを選んだ。


 この力をどう使うはお前に任せる。何も装備は剣だけじゃない。人の所有物、それはもうスキルの対象内となる。


 どんな使い方でもいい。俺が守って欲しいのはたった一つ。


 後悔の無いように生きろ


 お前のの中で俺は生き続ける。


 お父さんは死んでもお前を愛しているぞ。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 手紙を読んでいる時、少しだけどお父さんと繋がれた気がした。


 それがスキルの所為なのかは分からない。でも、確かに繋がれた。


「マルク、ほれ。涙を拭け」


 ステバンさんからハンカチを渡された。そして初めて自分が涙を流している事に気が付いた。


 お父さんに会いたいという気持ちがなかったわけではない。毎日夢を見てはその気持ちを封じ込めていた。


 そんなもの封じ込め続けることなんてできなかったんだ。


「マルク、お主は聡い子じゃ。今まで必死に抑え込んできたんだろう。泣きたい時は大いに泣くんじゃ」


「すいません......」


「なに、こんな老いぼれでも良ければ側についておいてやるわい」


「はい......」


 そして、僕はただひたすらに泣き続けた。



「もう大丈夫です。宴会に戻りましょう」


「そうじゃな。マルク、お前は先に戻っておきなさい。あの2人としっかりお別れしてくるんじゃ」


「分かりました。じゃあまたあとで」


「うむ」


 僕は決心をした。改めて。


 僕は冒険者に成る。そして、お父さんを超える。それが僕にできることだ。


 さ、そうと決まれば、あいつらを見送ってやらないと......



「アルフリード、儂はお前の意思を継いだぞ...... もういいじゃろ。こんな役は二度とごめんじゃ。お前さんが見れなかった分も儂がマルクのことを見る。それでおあいこじゃ......」


 老人は亡き友人に思いを馳せ、静かに涙をこぼした。



装備名 :アルフリードの手紙

習得度 :100

習得スキル:なし


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