第3話 昔の話【side:神官 ステバン】

 あれはもう五年ほど前になるある酒場での話じゃった。



「アルフリード、どうかしたか? 浮かない顔をしておるぞ?」


 その時のアルフリードはこの世の終わりのような顔をしておった。アルフリードは儂が鑑定してからの付き合いじゃ。かれこれ25年前になるのかの。その時からアルフリードはいつも笑顔じゃった。だからこそ、ここまで沈んでいるアルフリードは心配じゃったんじゃ。


 その時、アルフリードのパーティーはダンジョン踏破の際にメンバーを一人失っておった。儂はそのことでアルフリードが悩んでおるんじゃないかと考え、誘ったのだ


「あぁ、すまない。ステバンさん。ちょっとな......」


「パーティーの話かの」


「あぁ。すまない。ステバンさんが俺を元気づけようとしてくれているのは分かっているんだ。だが、失ったメンバーの事を考えるとな......」


「亡くなった者の事を想うの大切な事じゃ。だがの、アルフリード。前を向け。何としてでも前を向け。亡くなった者のためにも精一杯生きろ。後悔がない様に生きろ。立ち止まっていてはいけない。お前の力を必要としているものは世界中に居るんじゃ。なに、人の為に生きろとは言わん。だがの、胸を張って生きろ。お前はもうそれだけの事を成し遂げた」


「ステバンさん......」


 弱っているアルフリードなど見たくもない。笑っていてこそお前なんじゃ。


「お前はそんな顔で、可愛い可愛い息子に会うのか?? アルフリード」


「いや、いつかは前を向かなきゃならない。そう思っているから、ステバンさんなら背中を押してくれると信じていたから、今日もこうして来たんだ」


「儂は人々を正しい方向へ導くのが人生の使命じゃ。こんなことたやすいもんよ。さぁ、飲むぞぉ!」


「変わらねぇな! ステバンさんは。ハハハッ」


 アルフリードの顔は酷かった。泣き腫れた目は痛々しい。だが、確かに笑っておった。ぎこちない笑い方ではあったが確かに笑っておった。


「なんじゃその笑顔は! 酷いぞ!」


「酷いって何ですか! 仕方ないでしょ!」


 そうして夜が更けるまで飲み明かした。


 別れ際、アルフリードが儂を呼んだ。


「ステバンさん、もし、俺の息子を鑑定する機会があったら、この紙を息子に渡してくれませんか?」


「これはっ!! これはお主が渡すべきものだろう。儂よりお主の方が渡せる可能性は高いぞ?」


「いえ、冒険者という仕事上、何があるか分かりませんから。貴方に渡して欲しいんですよ」


「お主、何か良からぬことを考えておらぬか?」


「そんな事考えている訳ないじゃないですか。万が一のためですよ」


 嘘が下手じゃ。何年お前と一緒にいると思っているんだ。


「もし、お前の息子がお前のことを聞いてきたらどうする?」


「そんときはまぁ、『この世界で最もかっこいい男』とでも言っておいてください」


「それでこそお前らしいな。死ぬなよ?」


「死ぬわけないじゃないですか」


「じゃあ、またな」


「ええ、また!」


 来たときは異なり、満面の笑みで去っていくアルフリード。それが不気味で仕方がなかった。


「嘘が下手なやつじゃ」


お前の願い、しかと受け止めた。必ずやお前の息子に伝えてやろう。


そう胸に誓ったのじゃった。

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